14:45 〜 15:00
[T11-O-5] 機械学習を用いた津波堆積物の逆解析による断層パラメーターの推定
津波堆積物から得られる情報を用いて、津波堆積物を形成させた津波の水理条件、さらには津波の波源となった断層等の情報を推定する試みを逆解析と呼ぶ。これまでに、一地点における津波堆積物の粒度情報から津波浸水流のせん断流速を推定したり(Moore et al., 2007)、傾斜一定な地形において流速一様かつ底面堆積物の連行無しとする単純な断面1次元津波伝播モデルにより波高を推定する手法(Soulsby et al., 2007)が提案された。しかし、水理条件を過度に単純化したため実際の津波の複雑な挙動を十分再現できず、現世の津波で検証すると流れの規模を過大もしくは過小に評価する傾向があるとの指摘がある(菅原、2014)。
これらに対し、津波堆積物を用いて波源断層パラメーターを推定した既往研究として、西暦869年の貞観津波の例がある(菅原ほか、2011)。断層パラメーターや潮位を変化させ順解析を実施し、堆積物分布と浸水範囲の比較により、断層パラメーター推定に成功した。ただし、津波浸水流が堆積物運搬の限界掃流力を超えているかのみを逆解析結果の判断基準とし、堆積物の層厚や粒度情報は用いられていない。計算結果と観測結果の比較も人為的判断に頼っており、計算資源量の問題もあったため、客観的・定量的比較に課題を残していた。
一方、近年開発された津波堆積物の逆解析手法として、DNN (Deep Neural Network)を用いたものがある(Mitra et al., 2020, 2021)。傾斜一定な地形を仮定した断面1次元順解析モデルを用い、津波伝播・土砂移動の順解析を多数回実施、津波の初期水理条件と堆積物性状の組み合わせを多数生成し、それを教師データとして機械学習を行う事で逆解析モデルを構築した。仙台平野およびタイ・プラトン島の現世津波堆積物を対象とした解析の結果、津波の水理条件として妥当な復元値を示す事が確認された。一方で、断面1次元順解析では津波の平面的挙動を考慮できず、より複雑な地形を遡上した津波の逆解析は困難である。また、復元値は海岸線における波高・流速等の初期水理条件であり、波源断層パラメーター推定には至っていない。
そこで本研究では、津波堆積物から波源断層パラメーターを復元する新しい逆解析手法開発を試みている。実地形上での津波挙動を考慮可能な、水平2次元順解析モデルであるDelft3D-FLOW (Deltares, 2021)を用いて、津波伝播・土砂移動計算を実施した点が特色である。解析対象は2011年東北地方太平洋沖地震津波の堆積物であり、対象地域として宮城県仙台市の七北田川右岸を選んだ。波源断層モデルは今村ほか(2012)に従い、断層パラメーターのうち断層変位量と断層幅を復元対象とした。教師データ生成にあたり、断層変位量は1~40m、断層幅は10~200kmの範囲で変化させた。底面堆積物の初期条件として、4粒径クラス(140, 250, 420, 1000 μm)の一様分布を仮定した。対象地域上の測線における各粒径クラスの堆積量を、順解析を多数回実施して求め、教師データを生成した。その後、教師データをDNNに学習させ逆解析モデルを構築した。本研究で用いたDNNは入力層、3層の中間層、出力層の計5層で構成され、活性化関数にReLU、損失関数に教師データと予測値間の平均二乗誤差を用いた。
順解析により、断層変位量および断層幅が、津波の遡上過程や津波堆積物分布に影響を与える事が観察された。断層変位量が大きいほど遡上距離は長く、同一地点における堆積物層厚は大きくなった。また、断層幅が大きいほど遡上距離は長くなる傾向が観察された。一方、海岸線から300~600mの範囲では、断層幅が100km前後の場合に堆積物層厚が極大となり、それより断層幅が増減すると層厚が減少する傾向がみられた。
さらに、数十例の順解析結果を用いた予察的な逆解析を実施した。その結果、断層変位量と断層幅について、教師データと予測値の間に相関関係が観察され、逆解析による推定が可能である事が示唆された。一方、ハイパーパラメーターを調整しても過学習傾向がみられ、教師データ数の不足が示唆された。今後は順解析数の増加により過学習傾向が低減され、より高精度な逆解析が可能となる事が期待される。
引用文献
Moore et al., 2007, Sediment. Geol.
Soulsby et al., 2007, Coastal Sediments
菅原ほか、2011、自然災害科学
今村ほか、2012、東北大学モデル(version1.2)
菅原、2014、地学雑誌
Mitra et al., 2020, JGR Earth Surf.
Mitra et al., 2021, Nat. Hazards Earth Syst. Sci.
Deltares, 2021, Delft3D-FLOW
これらに対し、津波堆積物を用いて波源断層パラメーターを推定した既往研究として、西暦869年の貞観津波の例がある(菅原ほか、2011)。断層パラメーターや潮位を変化させ順解析を実施し、堆積物分布と浸水範囲の比較により、断層パラメーター推定に成功した。ただし、津波浸水流が堆積物運搬の限界掃流力を超えているかのみを逆解析結果の判断基準とし、堆積物の層厚や粒度情報は用いられていない。計算結果と観測結果の比較も人為的判断に頼っており、計算資源量の問題もあったため、客観的・定量的比較に課題を残していた。
一方、近年開発された津波堆積物の逆解析手法として、DNN (Deep Neural Network)を用いたものがある(Mitra et al., 2020, 2021)。傾斜一定な地形を仮定した断面1次元順解析モデルを用い、津波伝播・土砂移動の順解析を多数回実施、津波の初期水理条件と堆積物性状の組み合わせを多数生成し、それを教師データとして機械学習を行う事で逆解析モデルを構築した。仙台平野およびタイ・プラトン島の現世津波堆積物を対象とした解析の結果、津波の水理条件として妥当な復元値を示す事が確認された。一方で、断面1次元順解析では津波の平面的挙動を考慮できず、より複雑な地形を遡上した津波の逆解析は困難である。また、復元値は海岸線における波高・流速等の初期水理条件であり、波源断層パラメーター推定には至っていない。
そこで本研究では、津波堆積物から波源断層パラメーターを復元する新しい逆解析手法開発を試みている。実地形上での津波挙動を考慮可能な、水平2次元順解析モデルであるDelft3D-FLOW (Deltares, 2021)を用いて、津波伝播・土砂移動計算を実施した点が特色である。解析対象は2011年東北地方太平洋沖地震津波の堆積物であり、対象地域として宮城県仙台市の七北田川右岸を選んだ。波源断層モデルは今村ほか(2012)に従い、断層パラメーターのうち断層変位量と断層幅を復元対象とした。教師データ生成にあたり、断層変位量は1~40m、断層幅は10~200kmの範囲で変化させた。底面堆積物の初期条件として、4粒径クラス(140, 250, 420, 1000 μm)の一様分布を仮定した。対象地域上の測線における各粒径クラスの堆積量を、順解析を多数回実施して求め、教師データを生成した。その後、教師データをDNNに学習させ逆解析モデルを構築した。本研究で用いたDNNは入力層、3層の中間層、出力層の計5層で構成され、活性化関数にReLU、損失関数に教師データと予測値間の平均二乗誤差を用いた。
順解析により、断層変位量および断層幅が、津波の遡上過程や津波堆積物分布に影響を与える事が観察された。断層変位量が大きいほど遡上距離は長く、同一地点における堆積物層厚は大きくなった。また、断層幅が大きいほど遡上距離は長くなる傾向が観察された。一方、海岸線から300~600mの範囲では、断層幅が100km前後の場合に堆積物層厚が極大となり、それより断層幅が増減すると層厚が減少する傾向がみられた。
さらに、数十例の順解析結果を用いた予察的な逆解析を実施した。その結果、断層変位量と断層幅について、教師データと予測値の間に相関関係が観察され、逆解析による推定が可能である事が示唆された。一方、ハイパーパラメーターを調整しても過学習傾向がみられ、教師データ数の不足が示唆された。今後は順解析数の増加により過学習傾向が低減され、より高精度な逆解析が可能となる事が期待される。
引用文献
Moore et al., 2007, Sediment. Geol.
Soulsby et al., 2007, Coastal Sediments
菅原ほか、2011、自然災害科学
今村ほか、2012、東北大学モデル(version1.2)
菅原、2014、地学雑誌
Mitra et al., 2020, JGR Earth Surf.
Mitra et al., 2021, Nat. Hazards Earth Syst. Sci.
Deltares, 2021, Delft3D-FLOW