9:15 AM - 9:30 AM
[G2-O-2] Subsurface geology in the Nagano Basin - Inferences from petrography of cuttings from the Kawanakajima spa boring
Keywords:Nagano Basin, Western Boundary Fault Zone of the Nagano Basin, spa boring, cuttings, subsurface geology
長野盆地は長野県北部にある北東-南西方向に伸びる内陸盆地で,この盆地の西縁は西側隆起の逆断層型活断層である長野盆地西縁断層帯によって限られる(Okada and Ikeda,2012).この断層帯の平均変位速度(上下成分)は1.8~2.6mm/yrと見積もられており,800~1000年に1回という高い頻度で大地震を繰り返し発生させたと考えられている(Sugito et al., 2010).
長野盆地を埋積する堆積物の厚さ(長野盆地の底の深さ)と基盤岩の帰属を明らかにすることは長野盆地西縁断層帯の垂直方向の総変位量を明らかにする上で極めて重要である.しかし,長野市権堂町の温泉ボーリングに基づき,長野盆地の底は海抜-400mよりも深いと推定されている(赤羽,2000)ものの,盆地の底に達する地質学的データはこれまで報告されていない.岡田ほか(2006)は,浅部反射法地震探査により地下構造を解析し,盆地を埋積する堆積物と基盤岩の境界が海抜-700m程度の深さ(地表から約1150m下)にあると推定した.以上の研究成果に基づくと,地表から深さ1200mまでの連続した地質試料を入手することができれば,長野盆地を埋積する堆積物の厚さおよび基盤岩の帰属を明らかにできる可能性が高い.
2015年3月~10月に長野市川中島町今井において,深度1250.5mに達する温泉ボーリング(川中島温泉)が掘削され,10mごとにカッティングスが採取された.カッティングスは粉砕されているため,コアに比べると深度情報がやや不正確であり,岩石学的検討が難しいが,川中島温泉のカッティングスは長野盆地の地下地質を直接探ることができるきわめて貴重な試料である.今回,川中島温泉社長の河本昇司氏からカッティングス試料を提供いただき,顕微鏡観察を実施することができたので報告する.
カッティングスは121試料あり,地表に近いものから順にKwb01~125のように試料番号を付した.掘削時に採取できなかった深度1060~1100mの4試料(Kwb106~110)については欠番とした.1mm以上の粒子の形状を実体顕微鏡で観察し,新鮮な破断面のみで囲まれた粒子(以後◇と表記)とそうでない粒子(一部でも円磨された礫としての面が残る粒子)とに区分して,1試料につき100粒ずつ鑑定した.
一部の試料で1mm以上の粒子が少なく100粒カウントできないものもあったが,Kwb01~77(深度0~770m)では◇が1~32%と少ないのに対し,Kwb79~125(深度780~1250m)では◇が91~100%を占めた.Kwb78(深度770~780m)は,◇が56%であった.カッティングスは掘削泥水の循環にともない地上に上がってくるものを採取するので,上位の地質体由来の破片が混入する可能性があるため,ほぼ◇からなるKwb79~125は固結した岩石,すなわち長野盆地の基盤岩が掘削により破砕されたものと判断できる.Kwb78で◇の割合がそれより浅い試料に比べ20%以上増えるため,長野盆地の底(基盤岩の上面)は深度770~780mの間にあると考えられる.
Kwb79~93はフレイク状に破砕された5mm以下の黒色~暗灰色泥岩片からなる.Kwb94~106は黄鉄鉱をまれに含む灰白色に変質した泥岩片からなり,形状と大きさはKwb79~93によく似る.Kwb111~125は中粒から粗粒砂サイズの緑灰色~灰白色軽石質凝灰岩の破片と少量の長石と石英粒子からなり淘汰が良い.長野盆地周辺で150mを超える層厚をもち緑灰色~灰白色を呈する凝灰岩は小川層の裾花凝灰岩部層(加藤・赤羽,1986)のみであるため,Kwb111~125は同部層に対比される.Kwb79~106は,裾花凝灰岩部層を覆う論地泥岩部層(加藤・赤羽,1986)に対比されると考えられる.
川中島温泉の標高は359mであるので,この地点における長野盆地の底は海抜-310~320mに位置することが明らかになった.また,長野盆地西縁断層帯西側(上盤側)における裾花凝灰岩部層と論地泥岩部層の境界は標高600~650mにあり,川中島温泉(下盤側)では海抜-700~740mの間にあるため,この断層帯の垂直方向の総変位量は1300~1400mに達する可能性がある.
引用文献:赤羽(2000)市誌研究ながの,8,227-236.加藤・赤羽(1986)長野地域の地質,5万分の1地質図幅,120p.Okada and Ikeda(2012)Jour. Geophys. Res. 117,B01404.岡田ほか(2006)地震研究所彙報,81,171-180.Sugito et al. (2010) Bull. Seismol. Soc. Amer., 100, 1678-1694.
長野盆地を埋積する堆積物の厚さ(長野盆地の底の深さ)と基盤岩の帰属を明らかにすることは長野盆地西縁断層帯の垂直方向の総変位量を明らかにする上で極めて重要である.しかし,長野市権堂町の温泉ボーリングに基づき,長野盆地の底は海抜-400mよりも深いと推定されている(赤羽,2000)ものの,盆地の底に達する地質学的データはこれまで報告されていない.岡田ほか(2006)は,浅部反射法地震探査により地下構造を解析し,盆地を埋積する堆積物と基盤岩の境界が海抜-700m程度の深さ(地表から約1150m下)にあると推定した.以上の研究成果に基づくと,地表から深さ1200mまでの連続した地質試料を入手することができれば,長野盆地を埋積する堆積物の厚さおよび基盤岩の帰属を明らかにできる可能性が高い.
2015年3月~10月に長野市川中島町今井において,深度1250.5mに達する温泉ボーリング(川中島温泉)が掘削され,10mごとにカッティングスが採取された.カッティングスは粉砕されているため,コアに比べると深度情報がやや不正確であり,岩石学的検討が難しいが,川中島温泉のカッティングスは長野盆地の地下地質を直接探ることができるきわめて貴重な試料である.今回,川中島温泉社長の河本昇司氏からカッティングス試料を提供いただき,顕微鏡観察を実施することができたので報告する.
カッティングスは121試料あり,地表に近いものから順にKwb01~125のように試料番号を付した.掘削時に採取できなかった深度1060~1100mの4試料(Kwb106~110)については欠番とした.1mm以上の粒子の形状を実体顕微鏡で観察し,新鮮な破断面のみで囲まれた粒子(以後◇と表記)とそうでない粒子(一部でも円磨された礫としての面が残る粒子)とに区分して,1試料につき100粒ずつ鑑定した.
一部の試料で1mm以上の粒子が少なく100粒カウントできないものもあったが,Kwb01~77(深度0~770m)では◇が1~32%と少ないのに対し,Kwb79~125(深度780~1250m)では◇が91~100%を占めた.Kwb78(深度770~780m)は,◇が56%であった.カッティングスは掘削泥水の循環にともない地上に上がってくるものを採取するので,上位の地質体由来の破片が混入する可能性があるため,ほぼ◇からなるKwb79~125は固結した岩石,すなわち長野盆地の基盤岩が掘削により破砕されたものと判断できる.Kwb78で◇の割合がそれより浅い試料に比べ20%以上増えるため,長野盆地の底(基盤岩の上面)は深度770~780mの間にあると考えられる.
Kwb79~93はフレイク状に破砕された5mm以下の黒色~暗灰色泥岩片からなる.Kwb94~106は黄鉄鉱をまれに含む灰白色に変質した泥岩片からなり,形状と大きさはKwb79~93によく似る.Kwb111~125は中粒から粗粒砂サイズの緑灰色~灰白色軽石質凝灰岩の破片と少量の長石と石英粒子からなり淘汰が良い.長野盆地周辺で150mを超える層厚をもち緑灰色~灰白色を呈する凝灰岩は小川層の裾花凝灰岩部層(加藤・赤羽,1986)のみであるため,Kwb111~125は同部層に対比される.Kwb79~106は,裾花凝灰岩部層を覆う論地泥岩部層(加藤・赤羽,1986)に対比されると考えられる.
川中島温泉の標高は359mであるので,この地点における長野盆地の底は海抜-310~320mに位置することが明らかになった.また,長野盆地西縁断層帯西側(上盤側)における裾花凝灰岩部層と論地泥岩部層の境界は標高600~650mにあり,川中島温泉(下盤側)では海抜-700~740mの間にあるため,この断層帯の垂直方向の総変位量は1300~1400mに達する可能性がある.
引用文献:赤羽(2000)市誌研究ながの,8,227-236.加藤・赤羽(1986)長野地域の地質,5万分の1地質図幅,120p.Okada and Ikeda(2012)Jour. Geophys. Res. 117,B01404.岡田ほか(2006)地震研究所彙報,81,171-180.Sugito et al. (2010) Bull. Seismol. Soc. Amer., 100, 1678-1694.