11:45 〜 12:00
[G3-O-4] 印旛沼流域における谷津の地下水調査
キーワード:印旛沼流域、谷津、地下水、脱窒
1.はじめに
印旛沼は千葉県北西部の下総台地のほぼ中央部に位置する面積約11.55k㎡の湖沼である。流域面積は千葉県面積の約1割に相当する約541k㎡(千葉県、2007)で、利根川水系一級河川鹿島川をはじめ、手繰川、師戸川、新川とそれらの支川を含め7河川から構成されている。
印旛沼流域内の地形地質は、後期更新統下総層群よりなる下総台地と、これらの台地を樹枝状に開析する「谷津」と呼ばれる完新統の谷から成る。流域内の下総台地の標高は約T.P.20~50mで西側に向かって低くなっている。一方、谷埋め低地の標高はT.P.10~40mほどで流域上流側ほど谷が浅くなっている。
調査地は、印旛沼流域のほぼ西側下流部に位置し印旛沼まで直線距離で約5kmの位置にあり、標高約14m、谷頭部までの奥行き約100m、幅約50mほどの手繰川支川畔田沢に注ぐ枝谷津のひとつである(図-1)。調査地は約20年前まで水田耕作地であったが、現在は放棄され、カサスゲやガマなどの群落がみられる。谷頭部には湧出口が2箇所あり、それぞれ谷津の右岸、左岸の水路を流下しているほか、一方の湧水は谷津低地内に流入し湿地を形成している。
筆者らは湿地内で湧水中の硝酸性窒素の脱窒による浄化機能を検証し、脱窒機構解明を目的として、2016年7月より調査を開始した。本稿では、谷津低地に設置した観測井の地下水調査より、完新統と更新統の地下水位の変化と水質について報告する。
2.調査内容
谷津低地内の水文地質構造を把握するために、ハンドオーガーにより深度3.5mまで地質調査を7箇所で実施した。また、Φ50mmの観測井を谷津低地の完新統に8本(深度GL-1.0、-1.5m、-2.0m、-2.5m各2本)、更新統に1本(深度GL-3.2m)設置し、月1回の頻度で実測による地下水位を測定している。2019年には簡易揚水試験により透水係数を算出した。さらに、2020年より自記記録計(HOBOウォーターレベルロガー)による地下水位の観測を開始した。
水質測定は、2016年より湧水、観測井、湿地表流水を対象に月1回の頻度でpH、電気伝導率、溶存酸素濃度、酸化還元電位、硝酸性窒素濃度(パックテスト)、二価鉄(パックテスト)、水温の7項目について現地測定を行っている。そのほか、形態別窒素4項目、主要イオン8項目、窒素安定同位体比、酸素安定同位体比の室内分析を行った。
3.調査結果及び考察
地質調査の結果、谷津低地は地質調査の結果は下位より凝灰質中砂を主体とする更新統及び軟質で含水が大きい有機質シルトや腐植土を主体とする完新統よりなることを確認した。完新統の層厚は下流に向かって厚くなり、上流部では2.5m、中流部では3.5m以上であった。完新統は全体に暗褐色~黒色を呈し、不均質で連続性は認められなかった。
現場揚水試験で算出した透水係数は完新統が7.2×10-7~2.31×10-8の値、谷津低地の更新統は5.26×10-7であった。完新統ではGL-2.5m付近で最も透水性が低いことが確認された(図-2)。完新統内の水位の回復は一様ではなく、浅い観測井で相対的に回復が早い傾向がみられたが、完新統内の不均質性に因るものと考える。一方、水位が安定した後、完新統底部に設置した観測井W2-2.5②と更新統の観測井W2の水頭は拮抗して変動しており、両者の水頭の順位交代により更新統と完新統の境界付近で地下水の上下方向の動きが生じているものと想定される。図-2に示した室内分析による主要8イオンのヘキサダイアグラムではW2とW2-2.5②の水質に類似性がみられたことからも推察できる。また、これまでの水質調査により更新統の地下水は硝酸性窒素濃度が高いこと、完新統の地下水は酸化還元電位がGL-2.0~2.5mの範囲で還元的環境にあることを示している(図-2)ことから、完新統と更新統の境界付近で脱窒の場が形成されている可能性がある。
現在、完新統の透水係数や水質データに欠測があるため、今後はこれらのデータを補完するとともに、谷津の台地から谷津低地までの地下水流動系と脱窒との関連性を明らかにすることが必要であると考える。
4.謝辞
本調査はちば環境再生基金の助成事業として実施しました。また土地の立入りや観測井の設置に関して地権者および佐倉市環境保全課のご理解とご協力をいただきました。。ここに関係者の皆様に深く謝意を表します。
(参考文献)
千葉県(2007):印旛沼流域情報マップー治水・利水編ー,p5
印旛沼は千葉県北西部の下総台地のほぼ中央部に位置する面積約11.55k㎡の湖沼である。流域面積は千葉県面積の約1割に相当する約541k㎡(千葉県、2007)で、利根川水系一級河川鹿島川をはじめ、手繰川、師戸川、新川とそれらの支川を含め7河川から構成されている。
印旛沼流域内の地形地質は、後期更新統下総層群よりなる下総台地と、これらの台地を樹枝状に開析する「谷津」と呼ばれる完新統の谷から成る。流域内の下総台地の標高は約T.P.20~50mで西側に向かって低くなっている。一方、谷埋め低地の標高はT.P.10~40mほどで流域上流側ほど谷が浅くなっている。
調査地は、印旛沼流域のほぼ西側下流部に位置し印旛沼まで直線距離で約5kmの位置にあり、標高約14m、谷頭部までの奥行き約100m、幅約50mほどの手繰川支川畔田沢に注ぐ枝谷津のひとつである(図-1)。調査地は約20年前まで水田耕作地であったが、現在は放棄され、カサスゲやガマなどの群落がみられる。谷頭部には湧出口が2箇所あり、それぞれ谷津の右岸、左岸の水路を流下しているほか、一方の湧水は谷津低地内に流入し湿地を形成している。
筆者らは湿地内で湧水中の硝酸性窒素の脱窒による浄化機能を検証し、脱窒機構解明を目的として、2016年7月より調査を開始した。本稿では、谷津低地に設置した観測井の地下水調査より、完新統と更新統の地下水位の変化と水質について報告する。
2.調査内容
谷津低地内の水文地質構造を把握するために、ハンドオーガーにより深度3.5mまで地質調査を7箇所で実施した。また、Φ50mmの観測井を谷津低地の完新統に8本(深度GL-1.0、-1.5m、-2.0m、-2.5m各2本)、更新統に1本(深度GL-3.2m)設置し、月1回の頻度で実測による地下水位を測定している。2019年には簡易揚水試験により透水係数を算出した。さらに、2020年より自記記録計(HOBOウォーターレベルロガー)による地下水位の観測を開始した。
水質測定は、2016年より湧水、観測井、湿地表流水を対象に月1回の頻度でpH、電気伝導率、溶存酸素濃度、酸化還元電位、硝酸性窒素濃度(パックテスト)、二価鉄(パックテスト)、水温の7項目について現地測定を行っている。そのほか、形態別窒素4項目、主要イオン8項目、窒素安定同位体比、酸素安定同位体比の室内分析を行った。
3.調査結果及び考察
地質調査の結果、谷津低地は地質調査の結果は下位より凝灰質中砂を主体とする更新統及び軟質で含水が大きい有機質シルトや腐植土を主体とする完新統よりなることを確認した。完新統の層厚は下流に向かって厚くなり、上流部では2.5m、中流部では3.5m以上であった。完新統は全体に暗褐色~黒色を呈し、不均質で連続性は認められなかった。
現場揚水試験で算出した透水係数は完新統が7.2×10-7~2.31×10-8の値、谷津低地の更新統は5.26×10-7であった。完新統ではGL-2.5m付近で最も透水性が低いことが確認された(図-2)。完新統内の水位の回復は一様ではなく、浅い観測井で相対的に回復が早い傾向がみられたが、完新統内の不均質性に因るものと考える。一方、水位が安定した後、完新統底部に設置した観測井W2-2.5②と更新統の観測井W2の水頭は拮抗して変動しており、両者の水頭の順位交代により更新統と完新統の境界付近で地下水の上下方向の動きが生じているものと想定される。図-2に示した室内分析による主要8イオンのヘキサダイアグラムではW2とW2-2.5②の水質に類似性がみられたことからも推察できる。また、これまでの水質調査により更新統の地下水は硝酸性窒素濃度が高いこと、完新統の地下水は酸化還元電位がGL-2.0~2.5mの範囲で還元的環境にあることを示している(図-2)ことから、完新統と更新統の境界付近で脱窒の場が形成されている可能性がある。
現在、完新統の透水係数や水質データに欠測があるため、今後はこれらのデータを補完するとともに、谷津の台地から谷津低地までの地下水流動系と脱窒との関連性を明らかにすることが必要であると考える。
4.謝辞
本調査はちば環境再生基金の助成事業として実施しました。また土地の立入りや観測井の設置に関して地権者および佐倉市環境保全課のご理解とご協力をいただきました。。ここに関係者の皆様に深く謝意を表します。
(参考文献)
千葉県(2007):印旛沼流域情報マップー治水・利水編ー,p5