日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T8.[トピック]文化地質学

[1oral512-18] T8.[トピック]文化地質学

2022年9月4日(日) 13:30 〜 15:30 口頭第5会場 (14号館402教室)

座長:大友 幸子、石橋 弘明(なし)

15:00 〜 15:15

[T8-O-6] 遺跡内堆積土の透水性と岩石の風化過程について~溶結凝灰岩の風化皮膜に着目して~

*猪股 雅美1 (1. 広島大学)

キーワード:透水性、溶結凝灰岩、風化生成物



広島県東広島市に位置する中世の山城跡では,遺跡の一部である空堀跡堆積土の粒径分布が,城跡の立地する地質により大きく異なっている.花崗岩地域では透水性で中位を示す砂質であったのに対し,流紋岩地域では透水性が小さいシルト質であることが分かった.自然斜面の表土については,両地質で土壌の粒度分布に大きな違いはない.土壌の粒径分布は透水性に寄与するとされ,土壌の粒度試験より透水係数を求める推定式は複数存在する(例えばCreager1). 今回堆積土を採取した市内の花崗岩地域と流紋岩地域の山城跡は,築城による地形改変は同時期である2).それにもかかわらず堀を埋める堆積土の粒径分布が大きく異なるのは,母岩となる岩石の風化過程が影響していると考えられる.そこで,空堀内部に残存している岩石礫の風化過程について,岩石観察,薄片観察により比較をおこなった.また今回は災害地質としてこれまでに検討例が多い花崗岩ではなく流紋岩に着目し,岩石中の粘土鉱物をX線回折により分析して,空堀跡堆積土の粒径分布の違いについての解明を試みた. 今回分析の対象とした岩石礫を有する山城跡は,ががら山城(鏡山城跡ががら地区;東広島市鏡山)が広島花崗岩類である中粒弱斑状黒雲母花崗岩に,第1若山城(東広島市西条町下三永)が高田流紋岩類の流紋岩溶結ガラス質凝灰岩(一部溶結)に立地している.後期白亜紀に噴出した高田流紋岩は,同時代に広島花崗岩の貫入が確認されている3. 一般的に中世の山城は防御と攻撃を可能とする戦略的な構造を目的に斜面などを人工的に改変している2).分析には,そうした山城遺構の一つであり,敵の侵入を防ぐために尾根を絶ち切る深さ数mの水のない空堀である「堀切」跡深さ25-30㎝に混在していた岩石礫を用いた.現在は「堀切」のほとんどが堆積土で埋没している. 岩石観察では,花崗岩礫は容易に薄く剥離し,ハンマーで軽くたたくと砂状になった.また,剥離面が酸化作用によると考えられる暗褐色を呈していた為,シーティング層に雨水が流入し風化していたと考えられる.流紋岩礫は花崗岩礫と比較して緻密であり強度が高い.周囲には赤褐色粘土が付着しており,約1cm幅の厚い明褐色風化皮膜と中心に灰黒色の部分を残す風化形態がみられた. 薄片観察では,花崗岩礫は斜長石,石英などを主体とし,黒雲母や一部緑泥石も確認された.また斜長石には多数のクラックが生じており,強い風化作用を受けていたことを示す.流紋岩礫では外縁部と中心部分共に,石英,斜長石,カリ長石,有色鉱物は黒雲母の斑晶が確認された.基質は花崗岩の接触変成作用により再結晶している.風化皮膜部は間隙が大きく,斜長石のクラックに二次鉱物がみられた.以上より両岩石とも堆積土壌内で風化が進んでいることが確認できた.これは,空堀内が風化を促進する環境であることが考えられる.さらに流紋岩礫の風化皮膜についてその粘土化を検討するため,礫をハンマーで5mm程度に粉砕し外縁部と中心部をそれぞれ分類したのち,粘土鉱物学4に記載された手順に従い試料を作成し,X線回折により粘土鉱物の同定をおこなった.風化皮膜については,その形成に降雨などによる陽イオンの溶脱が影響していることが指摘されている5.分析の結果,流紋岩礫の中心部分からは石英・曹長石・絹雲母が検出された.外縁部の風化皮膜では石英と,より風化が進行した際に確認されるギブサイト・ハロイサイトのような二次鉱物が検出された. 以上の結果をまとめると,花崗岩礫はシーティング状の風化で砂質層を形成し,流紋岩礫はその風化皮膜に二次鉱物が検出されたことから,外縁部から風化が促進し粘土化していることが示された. 自然斜面の表土については両地質で土壌の粒度分布に大きな違いがないにもかかわらず,流紋岩地域の空堀跡堆積土が透水性の小さいシルト質で形成されているのは,風化による生成物の違いによるものと考えられる. 空堀部の流紋岩礫の風化皮膜層がこれまでに報告があった事例6と比較しても1cm以上と厚い理由が堆積環境によるものなのかは大変興味深く,今後の調査で検討していきたい. (参考文献) 1) Creager W. P., Author et al: Engineering for Dams, Vol.Ⅲ, John Wiley & Sons, Inc., N.Y., 645-649,1945 2) 広島県教育委員会:都道府県別日本の中世城館調査報告書集成18,広島1第2集,東洋書林, 2003,291p 3) 高木哲一・水野清秀:海田市地域の地質(5万分の1地質図幅),1999,49p 4) 白水春雄:粘土鉱物学,53-77,朝倉書店,1993 5) 松倉公憲:地学雑誌126(3),271-296 ,2017 西山賢一・長岡信治:徳島大学自然科学研究,27(4),59-70,2013