15:00 〜 15:15
[G4-O-7] 博物館における砂標本収集の意義とその活用
キーワード:砂、博物館資料、市民科学、環境教育
「砂」は私たちの周りにありふれたものであるにもかかわらず、資源としての砂は世界的に枯渇してきているといわれている(Torres et al., 2017;UNEP,2019)。建設資材、工業材料などに大量の砂が採取されることで、砂資源の枯渇だけでなく、環境改変による生物種の減少や絶滅、海岸侵食による砂浜環境の消失など、自然環境への影響も非常に大きくなっている。地質学的側面から見れば、砂は河川を流下する過程で、破壊・摩耗・選別され、また他流域からの砂と混合する。やがて海に流れ出て、波でさらに選別されて海浜に堆積し、その地域に特有の砂組成となる。すなわち、地質や生物の多様性と同様に、それぞれの地域・環境に堆積する砂も、その場所ごとの多様性を有しているといえる。多くの人の知らぬ間に砂資源が危機的状況を迎えている現在、砂の多様性が軽視されていることは、地球環境を考える上で看過できない問題である。
多種多様な自然のアーカイブを目的の1つとする自然史系博物館では、砂の多様性が維持されている現在のうちに、砂の標本およびその情報を集めていく必要がある。一方で、砂は多くの人にとって安全かつ身近に接することのできる多様な地域性を持った地質学的素材であるといえる。砂に関する普及教育活動を行うことで、多くの人に砂粒子の背後にある砂の成り立ちや地球の歴史を伝えることができるであろう。本報告では、大阪市立自然史博物館(以下、自然史博物館)で行っている海浜砂を中心とした砂標本の収集活動と、その砂を活用した普及教育活動について紹介し、地質学分野における環境教育や市民科学についての展望を考察する。
自然史博物館における砂標本は、発表者の1人(中条)が採用されるまではほとんど収集されておらず、また一部の収集された標本についても登録が行われていなかった。これは、堆積学・地質学を専門にしている学芸員が不在だったことに加え、現在ほど砂資源の重要性が認識されていなかったことに起因していると考えられる。現在(2022年6月時点)の自然史博物館の砂標本は、海浜砂を中心にして900資料を超え(未登録標本も含む)、日本国内のみならず海外の砂資料も収集が進んでいる。砂標本の収集に関しては、岩石や化石などの他の地質標本と比べて収集するのが非常に容易かつ安全であることから、市民科学(citizen science)的手法を用いて自然史博物館友の会を中心とした一般市民にも協力してもらっている。一般市民による収集に関しては、砂浜海岸の観察会や講演会を通じて、法令の遵守や砂の採取による環境への負荷について事前に研修を行い、その内容を理解してもらったうえで実施してもらっている。
自然史博物館では全国から収集された砂資料を基に、それぞれの地域の代表的な砂浜や、特徴的な砂組成を持つ資料を選んで、展覧会の開催(テーマ展示「砂浜の砂とその自然」、2021年7月24日〜9月26日)やフルカラー冊子の作成(別所・中条,2021)を行った。これらの展示や冊子を活用して、砂の形成や砂組成・鉱物の観察、そのバックグラウンドである地球の歴史を知るきっかけを提供している。また、砂に関する子ども向けワークショップを開催し、砂の観察を通じて子どもたちへの砂に対する見方・理解を深めることを試みている(山中ほか,2019)。
これまで砂は私たちの生活の中で身近な素材でありながら、自然史資料的価値や教育的素材、地域学習の教材として十分に活用されてこなかった面がある。今回紹介した事例では、砂、特に砂浜の砂の収集によって砂の地域性や多様性を明らかにし、環境教育や自然環境保全、地域学習を博物館活動を通して進めてきた。また、砂標本の収集に市民科学的の手法を取り入れて資料収集を行うことで、市民への地質学への理解を促進させるとともに、環境問題に目を向けるきっかけになることが期待される。砂粒子は地域ごとに異なった組成を持ち、地域に根ざした自然科学や理科の学習、自然環境の保護と地域の地質を学ぶのに適切な素材であるといえる。
文献:別所・中条(2021)大阪市立自然史博物館.74pp.;Torres, A. et al., (2017) Science, 357, 970-971.; UNEP(United Nations Environment Programme)(2019)UNEP, 35pp.;山中ほか(2019)日本堆積学会2019年大阪大会プログラム・講演要旨,46-47.
多種多様な自然のアーカイブを目的の1つとする自然史系博物館では、砂の多様性が維持されている現在のうちに、砂の標本およびその情報を集めていく必要がある。一方で、砂は多くの人にとって安全かつ身近に接することのできる多様な地域性を持った地質学的素材であるといえる。砂に関する普及教育活動を行うことで、多くの人に砂粒子の背後にある砂の成り立ちや地球の歴史を伝えることができるであろう。本報告では、大阪市立自然史博物館(以下、自然史博物館)で行っている海浜砂を中心とした砂標本の収集活動と、その砂を活用した普及教育活動について紹介し、地質学分野における環境教育や市民科学についての展望を考察する。
自然史博物館における砂標本は、発表者の1人(中条)が採用されるまではほとんど収集されておらず、また一部の収集された標本についても登録が行われていなかった。これは、堆積学・地質学を専門にしている学芸員が不在だったことに加え、現在ほど砂資源の重要性が認識されていなかったことに起因していると考えられる。現在(2022年6月時点)の自然史博物館の砂標本は、海浜砂を中心にして900資料を超え(未登録標本も含む)、日本国内のみならず海外の砂資料も収集が進んでいる。砂標本の収集に関しては、岩石や化石などの他の地質標本と比べて収集するのが非常に容易かつ安全であることから、市民科学(citizen science)的手法を用いて自然史博物館友の会を中心とした一般市民にも協力してもらっている。一般市民による収集に関しては、砂浜海岸の観察会や講演会を通じて、法令の遵守や砂の採取による環境への負荷について事前に研修を行い、その内容を理解してもらったうえで実施してもらっている。
自然史博物館では全国から収集された砂資料を基に、それぞれの地域の代表的な砂浜や、特徴的な砂組成を持つ資料を選んで、展覧会の開催(テーマ展示「砂浜の砂とその自然」、2021年7月24日〜9月26日)やフルカラー冊子の作成(別所・中条,2021)を行った。これらの展示や冊子を活用して、砂の形成や砂組成・鉱物の観察、そのバックグラウンドである地球の歴史を知るきっかけを提供している。また、砂に関する子ども向けワークショップを開催し、砂の観察を通じて子どもたちへの砂に対する見方・理解を深めることを試みている(山中ほか,2019)。
これまで砂は私たちの生活の中で身近な素材でありながら、自然史資料的価値や教育的素材、地域学習の教材として十分に活用されてこなかった面がある。今回紹介した事例では、砂、特に砂浜の砂の収集によって砂の地域性や多様性を明らかにし、環境教育や自然環境保全、地域学習を博物館活動を通して進めてきた。また、砂標本の収集に市民科学的の手法を取り入れて資料収集を行うことで、市民への地質学への理解を促進させるとともに、環境問題に目を向けるきっかけになることが期待される。砂粒子は地域ごとに異なった組成を持ち、地域に根ざした自然科学や理科の学習、自然環境の保護と地域の地質を学ぶのに適切な素材であるといえる。
文献:別所・中条(2021)大阪市立自然史博物館.74pp.;Torres, A. et al., (2017) Science, 357, 970-971.; UNEP(United Nations Environment Programme)(2019)UNEP, 35pp.;山中ほか(2019)日本堆積学会2019年大阪大会プログラム・講演要旨,46-47.