1:30 PM - 2:00 PM
[T10-O-1] (Invited)The latest genetic model and initial formation process of seafloor hydrothermal deposit revealed by drilling cruises
Keywords:seafloor hydrothermal deposit, subseafloor mineralization, microbial activity, drilling cruise, Okinawa Trough
1977年のガラパゴス海嶺における海底熱水噴出孔の発見以来,世界で700を超える海底熱水サイトが報告されている.日本近海では1986年の伊平屋小海嶺東方なつしま84-1海丘における低温熱水湧水域の発見を端緒に,沖縄トラフおよび伊豆・小笠原海域から30を超える熱水サイトが発見されている.その後,船舶や探査機による調査から海底面上の試料・データに関する膨大な知見が得られているが,海底下の地球科学的事象を直接的に観察するには高コストの掘削しか手段がなく,海底下鉱化作用についてはいまだ不明な点が多い.そのような中,2010~2016年にかけて地球深部探査船「ちきゅう」による4度の掘削航海が沖縄トラフで行われた.本講演では,これらの航海から描像された海底下鉱体の成因モデル・初期形成過程について論じる.
海底下軽石置換鉱化作用の提唱:2016年11~12月に中部沖縄トラフ伊是名海穴においてCK16-05航海が行われた.本航海ではJOGMECニュースリリース (2013,2016) と同様に,北部マウンド中心に位置するHole C9027A,Bおよび北部マウンド東方のHole C9025A,C9026A,C9028A,C9032Aで硫化鉱を捉えた.特に,北部マウンド東方では層厚30~35 mの海底下鉱体を捉えたが,硫化鉱は複数枚の非変質~弱変質堆積物を挟在し,単純一様な塊状鉱体ではなかった.Hole C9025A,C9026A,C9032Aの物理検層によるガンマ線強度は類似の深度プロファイルを示し,海底下鉱体に挟在する堆積物が広く延長している.また,Hole C9025A,C9026Aにおいて,海底下鉱体とその上位の堆積物層の連続的採取に成功した.船上記載とXRD分析から,海底下鉱体の上部境界は上位~下位にかけて,硬石膏に富む中性変質粘土層⇒カオリナイトに富む酸性変質粘土層⇒重晶石に富む層 (硬石膏層に由来)⇒硫化鉱と遷移する.このような層準変化は,上部境界ほど明瞭でないが海底下鉱体の下部境界でも観察される.また,北部マウンド北方あるいは北西のHole C9029A,C9030Aからは細粒~粗粒軽石が互層するコア試料が,カルデラ底の東端よりさらに東方に位置するHole C9031Aからは半遠洋性堆積物に富むコア試料が得られている.したがって,伊是名海穴の海底下鉱体は軽石と堆積物の互層を受け皿とし,透水率の高い軽石層を置換しながら鉱化作用が進行していると考えられる.また,堆積物との境界部では硬石膏のキャップ層が形成され,海底下の熱水移動を側方規制していたと考えられる.キャップ層直上の酸性変質粘土層は,キャップ層からしばしば漏れ出る酸性流体により,pHが間欠的に低下して形成されたと考えれば調和的である.以上から,海底下鉱体は硬石膏キャップ層と外側にしばしば酸性粘土層を随伴し,熱水活動の強弱に伴いキャップ層を移動させながら成長していると考えると,コア試料の記載・岩相・構成鉱物・同位体比組成を調和的に説明できる.
鉱床の初期形成過程と微生物活動の関係:海底熱水鉱床と聞くと300度を超える熱水が噴出するイメージから,生物の生息限界温度 (122度) より高温の無機化学的反応が支配する世界を想像する.したがって鉱床学者も含め,海底熱水鉱床生成における微生物活動の寄与はマイナーであるというのが通説である.しかし,沖縄トラフの掘削コアおよびチムニー中の黄鉄鉱粒子の局所硫黄同位体比組成 (d34S) 分析を行った結果,鉱床の初期形成過程に微生物活動が大きく寄与していることが明らかとなった. 分析には,2010~2016年に沖縄トラフで行われた4度の掘削航海のコア試料および人工熱水孔上のチムニーを用いた.マウンドおよび海底下鉱体中の黄鉄鉱は,成熟度に応じて『フランボイダル⇒コロフォーム⇒自形』組織を示す.これらの黄鉄鉱粒子のd34Sは,鉱化作用の進行に伴い,大きく負の値から正の値へと漸移する.特に,フランボイダル黄鉄鉱のd34Sは最低で-38.9‰を示し,海水硫酸 (+21.2‰) と比べて-60‰に達する同位体分別が起こっている.一方,チムニー中の黄鉄鉱は,組織・晶出順序に関わらず約0‰のd34Sを示した.海底熱水鉱床中の硫黄の起源として,(1) マグマ起源,(2) 硫酸塩鉱物や海水硫酸の熱的還元,(3) 海水硫酸の微生物還元の3つが考えられるが,(1) および (2) では-60‰に達するd34Sの分別を説明できない.また,フランボイダル黄鉄鉱は,しばしば黄銅鉱や方鉛鉱などの他の硫化鉱物に置換されており,引き続く鉱化作用で鉄や硫黄を供給する『核』となっている.したがって,海底下鉱体の初期生成過程は微生物硫酸還元プロセスにより促進されていることが明らかとなった.
海底下軽石置換鉱化作用の提唱:2016年11~12月に中部沖縄トラフ伊是名海穴においてCK16-05航海が行われた.本航海ではJOGMECニュースリリース (2013,2016) と同様に,北部マウンド中心に位置するHole C9027A,Bおよび北部マウンド東方のHole C9025A,C9026A,C9028A,C9032Aで硫化鉱を捉えた.特に,北部マウンド東方では層厚30~35 mの海底下鉱体を捉えたが,硫化鉱は複数枚の非変質~弱変質堆積物を挟在し,単純一様な塊状鉱体ではなかった.Hole C9025A,C9026A,C9032Aの物理検層によるガンマ線強度は類似の深度プロファイルを示し,海底下鉱体に挟在する堆積物が広く延長している.また,Hole C9025A,C9026Aにおいて,海底下鉱体とその上位の堆積物層の連続的採取に成功した.船上記載とXRD分析から,海底下鉱体の上部境界は上位~下位にかけて,硬石膏に富む中性変質粘土層⇒カオリナイトに富む酸性変質粘土層⇒重晶石に富む層 (硬石膏層に由来)⇒硫化鉱と遷移する.このような層準変化は,上部境界ほど明瞭でないが海底下鉱体の下部境界でも観察される.また,北部マウンド北方あるいは北西のHole C9029A,C9030Aからは細粒~粗粒軽石が互層するコア試料が,カルデラ底の東端よりさらに東方に位置するHole C9031Aからは半遠洋性堆積物に富むコア試料が得られている.したがって,伊是名海穴の海底下鉱体は軽石と堆積物の互層を受け皿とし,透水率の高い軽石層を置換しながら鉱化作用が進行していると考えられる.また,堆積物との境界部では硬石膏のキャップ層が形成され,海底下の熱水移動を側方規制していたと考えられる.キャップ層直上の酸性変質粘土層は,キャップ層からしばしば漏れ出る酸性流体により,pHが間欠的に低下して形成されたと考えれば調和的である.以上から,海底下鉱体は硬石膏キャップ層と外側にしばしば酸性粘土層を随伴し,熱水活動の強弱に伴いキャップ層を移動させながら成長していると考えると,コア試料の記載・岩相・構成鉱物・同位体比組成を調和的に説明できる.
鉱床の初期形成過程と微生物活動の関係:海底熱水鉱床と聞くと300度を超える熱水が噴出するイメージから,生物の生息限界温度 (122度) より高温の無機化学的反応が支配する世界を想像する.したがって鉱床学者も含め,海底熱水鉱床生成における微生物活動の寄与はマイナーであるというのが通説である.しかし,沖縄トラフの掘削コアおよびチムニー中の黄鉄鉱粒子の局所硫黄同位体比組成 (d34S) 分析を行った結果,鉱床の初期形成過程に微生物活動が大きく寄与していることが明らかとなった. 分析には,2010~2016年に沖縄トラフで行われた4度の掘削航海のコア試料および人工熱水孔上のチムニーを用いた.マウンドおよび海底下鉱体中の黄鉄鉱は,成熟度に応じて『フランボイダル⇒コロフォーム⇒自形』組織を示す.これらの黄鉄鉱粒子のd34Sは,鉱化作用の進行に伴い,大きく負の値から正の値へと漸移する.特に,フランボイダル黄鉄鉱のd34Sは最低で-38.9‰を示し,海水硫酸 (+21.2‰) と比べて-60‰に達する同位体分別が起こっている.一方,チムニー中の黄鉄鉱は,組織・晶出順序に関わらず約0‰のd34Sを示した.海底熱水鉱床中の硫黄の起源として,(1) マグマ起源,(2) 硫酸塩鉱物や海水硫酸の熱的還元,(3) 海水硫酸の微生物還元の3つが考えられるが,(1) および (2) では-60‰に達するd34Sの分別を説明できない.また,フランボイダル黄鉄鉱は,しばしば黄銅鉱や方鉛鉱などの他の硫化鉱物に置換されており,引き続く鉱化作用で鉄や硫黄を供給する『核』となっている.したがって,海底下鉱体の初期生成過程は微生物硫酸還元プロセスにより促進されていることが明らかとなった.