11:15 AM - 11:30 AM
[T5-O-9] Carbon-isotope stratigraphy and U-Pb radiometric ages of the Upper Jurassic to Lower Cretaceous Soma Nakamura Group, Fukushima, Japan
Keywords:Early Cretaceous, Somanakamura Group, Carbon-isotope stratigraphy, Weissert Event
白亜紀前期(Berriasian~Albian)は,地球温暖化が進行する時期であり,現在よりも大気CO2濃度や海水準が高い時代であった.また,白亜紀には巨大火成岩岩石区(Large Ignous Provinces : LIPs)の形成に起因する海洋無酸素事変(Oceanic Anoxic Events : OAEs)も頻繁に発生したことも特徴としてあげられる.産業革命以降,大気CO2濃度は上昇し続けており,様々な異常気象やそれに起因する生態系の大幅な変化が発生すると考えられている.したがって白亜紀の海洋-気候ダイナミクスや環境イベントを深く理解することで,将来の温暖化が地球環境にどのような影響を及ぼすか推定することにつながる.そして,過去のタイムスケールを信頼できるものに校正していくことは白亜紀前期の環境変動を研究する基盤であり,必要不可欠であるといえる.
白亜系各ステージのGSSP及びその候補地が多く存在するヨーロッパ地域の白亜系の多くは,非活動的大陸縁辺域の堆積盆地で形成されたため,凝灰岩がほとんどみられない.そのため,正確な放射年代が得られず,各化石帯やステージ境界の年代値が幾度も変更されてきた.とりわけ,最上部ジュラ系~下部白亜系下部(バレミアン階まで)の区間については,アンモナイト化石帯と放射年代の両方を検討した例は,アルゼンチンに露出する古南大西洋で形成した地層に限られる(Aguirre-Urreta et al., 2017).今回注目するValanginianにおいては,近年,天文年代校正により境界年代値の精度向上が進んでいるが,ヨーロッパ地域とそれ以外の地域との間で,アンモナイト化石による対比が難しく,同ステージのアンモナイト化石帯において放射年代の検討はまだ得られていない.
東北日本の太平洋沿岸地域には下部白亜系が断片的に露出しており,これらの地層にはアンモナイトや放散虫化石によっておおよその年代が推定されているが,ヨーロッパの模式階との詳細な対比には至っていない.しかし,これらの地層には凝灰岩や植物片を含んでおり,放射年代の測定や炭素同位体比層序による層序対比により,下部白亜系の詳細な年代モデルを構築する可能性を有している.
Weissert Eventとは,Valanginian後期からHautervianにかけて当時の汎世界的な炭素循環に大きな影響を与えた環境イベントであり,パラナ-エテンデカ洪水玄武岩の噴出時期と一致し,δ13Cの顕著な正のエクスカーションによって特徴づけられる.このイベントに関する層序学的研究や古環境変動ついては主にテチス海~大西洋地域で盛んに検討されているが,日本を含めた太平洋北西部ではまだ報告例がなく,また,国際的にもWeissert Eventの炭素同位体比層序と放射年代の両者を同じ地層で検討した例はない.そこで,本研究では北西太平洋地域でWeissertイベントを発見し,その発生年代を明らかにする目的で,福島県南相馬市相馬中村地域に分布する上部ジュラ系下部白亜系・相馬中村層群において炭素同位体比層序と凝灰岩の放射年代を検討した.その結果,Valanginianに対比される小山田層において,炭素同位体比が上位に向かって緩やかに減少したのち,小山田層最上部において約2‰正にシフトする変動がみられた.また,小山田層下部に挟まる凝灰岩のジルコンのU-Pb放射年代は135.59±0.77 Maを示し,最新のGeologic Timescale 2020 におけるValanginian前期の年代と一致する.このことから,本研究で確認した小山田層最上部の炭素同位体比の正の変動はWeissert Eventに対比される可能性が高い. 小山田層最上部の炭素同位体比の正のピーク層準にもジルコンを多く含む凝灰岩が数層挟まることから,今後これらの凝灰岩の年代測定により,Weissertイベントのより詳細な年代を得られる可能性が高い.
引用文献
Aguirre-Urreta et al., 2017, Cretaceous Research, 75, 193-204.
Gradstein et al., The Geologic Time Scale 2020, Elsevier, 1028-1030.
Weissert et al., 1998, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol, 137, 189-203.
白亜系各ステージのGSSP及びその候補地が多く存在するヨーロッパ地域の白亜系の多くは,非活動的大陸縁辺域の堆積盆地で形成されたため,凝灰岩がほとんどみられない.そのため,正確な放射年代が得られず,各化石帯やステージ境界の年代値が幾度も変更されてきた.とりわけ,最上部ジュラ系~下部白亜系下部(バレミアン階まで)の区間については,アンモナイト化石帯と放射年代の両方を検討した例は,アルゼンチンに露出する古南大西洋で形成した地層に限られる(Aguirre-Urreta et al., 2017).今回注目するValanginianにおいては,近年,天文年代校正により境界年代値の精度向上が進んでいるが,ヨーロッパ地域とそれ以外の地域との間で,アンモナイト化石による対比が難しく,同ステージのアンモナイト化石帯において放射年代の検討はまだ得られていない.
東北日本の太平洋沿岸地域には下部白亜系が断片的に露出しており,これらの地層にはアンモナイトや放散虫化石によっておおよその年代が推定されているが,ヨーロッパの模式階との詳細な対比には至っていない.しかし,これらの地層には凝灰岩や植物片を含んでおり,放射年代の測定や炭素同位体比層序による層序対比により,下部白亜系の詳細な年代モデルを構築する可能性を有している.
Weissert Eventとは,Valanginian後期からHautervianにかけて当時の汎世界的な炭素循環に大きな影響を与えた環境イベントであり,パラナ-エテンデカ洪水玄武岩の噴出時期と一致し,δ13Cの顕著な正のエクスカーションによって特徴づけられる.このイベントに関する層序学的研究や古環境変動ついては主にテチス海~大西洋地域で盛んに検討されているが,日本を含めた太平洋北西部ではまだ報告例がなく,また,国際的にもWeissert Eventの炭素同位体比層序と放射年代の両者を同じ地層で検討した例はない.そこで,本研究では北西太平洋地域でWeissertイベントを発見し,その発生年代を明らかにする目的で,福島県南相馬市相馬中村地域に分布する上部ジュラ系下部白亜系・相馬中村層群において炭素同位体比層序と凝灰岩の放射年代を検討した.その結果,Valanginianに対比される小山田層において,炭素同位体比が上位に向かって緩やかに減少したのち,小山田層最上部において約2‰正にシフトする変動がみられた.また,小山田層下部に挟まる凝灰岩のジルコンのU-Pb放射年代は135.59±0.77 Maを示し,最新のGeologic Timescale 2020 におけるValanginian前期の年代と一致する.このことから,本研究で確認した小山田層最上部の炭素同位体比の正の変動はWeissert Eventに対比される可能性が高い. 小山田層最上部の炭素同位体比の正のピーク層準にもジルコンを多く含む凝灰岩が数層挟まることから,今後これらの凝灰岩の年代測定により,Weissertイベントのより詳細な年代を得られる可能性が高い.
引用文献
Aguirre-Urreta et al., 2017, Cretaceous Research, 75, 193-204.
Gradstein et al., The Geologic Time Scale 2020, Elsevier, 1028-1030.
Weissert et al., 1998, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol, 137, 189-203.