13:45 〜 14:00
[S2-O-2] 学術研究における社会貢献のあり方
キーワード:学術活動、社会貢献、人新世、SDGs
地球環境の問題は,既に20世紀中盤から大きな社会問題として取り上げられ,1972年にはローマ・クラブから「成長の限界」の報告書が公表された.この報告では,今後人口増加や環境汚染などの傾向が続けば,100年以内に地球上の成長は限界に達するというのがその内容であり,残すところ50年あまりでこの報告の結論が出る時代になってきた.その後も森林破壊,異常気象,オゾンホールの破壊などの問題が次々に取り上げられ,世界全体で取り組まないとこれらの問題が解決できない状況となっている.そのため,国連はミレニアム開発目標(MDGs,2000年9月)や SDGs(持続可能な開発目標,2015年9月)と国際的な目標を続けて提案した.このうちSDGsは国連サミットで採択され,国連加盟193ヶ国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標で,17の大きな目標とそれらを達成するための具体的な169のターゲットで構成されている.日本の産業界でもSDGsを念頭におき,経営に取り込む方針を打ち出す企業も多くなっている. 一方,学術研究は幅広い知的創造の活動で,真理の探究という知的欲求に根ざし,新しい法則や原理の発見,新しい知識や技術の体系化、先端的な学問分野の開拓などを目指すものである.そこから生まれる学術研究の成果は,人類の知的共有財産として文化の知的側面を形成するとともに,応用化や技術化を通して日常生活を豊かにする役割を果たし,人類社会の発展の基盤を形成するものと提言されている.すなわち,学術研究は真理や技術の探究だけではなく,その専門的な知識と研究成果を社会の繁栄に寄与させることを常に意識しておくことが責務であり,学術研究に対する社会的要請の中から研究課題を新たに見出し,貢献を積極的に果たせるようにすることが必要である.そのため,学術会議でもSDGsやゼロ・カーボンのような国際的な社会問題に対する発信や貢献が強く求められている. 地質学は災害,資源,環境の分野に広く関連し,社会の基盤を支える分野である.特に日本では変動帯やモンスーン気候下にあり,平野が少なく山地が多い地形であるため,多くの災害が引き起こされてきた.そのため自然災害に関しては,これまで多くの重要な社会貢献を果たしてきたといえる.一方,その時間概念の長さから工学や農学の分野に比べると,災害関連以外の分野における地質学の貢献への社会の理解が弱かったように思われる.また,フューチャーアースやIPCCといった国際プロジェクトは常に文理融合を基礎にして行われるようになっており,自然界を探る学術研究も社会科学との結びつきを意識しないと受け入れられない時代になってきた.今回,「人新世」という時間尺度が議論されるようになったのも,産業革命以後の約200年間に人類がもたらした森林破壊や気候変動の影響はあまりに大きく,人類社会が第四紀以降という地球史の括りでは足りないという学術的な認識が強くなってきたためである.地球温暖化の問題も,人類がかつてのシアノバクテリアのように大きく地球環境の改変を劇的に行っているという認識と,その改変が我々の生活を阻害するような環境への改悪を引き起こすという懸念からであろう.持続可能という言葉には,未来の人類のカタストロフィを起こしたくないという願いが込められている.われわれ地質学者も社会の要請や期待を強く意識し,それに対応できる学問体制を作らなければならない時代に来ている.そのためにも,「人新世」の問題にも関与する必要性は大きいのではないだろうか.また,近年,学術界は文理融合の方針が大きく打ち出されている.「人新世」は,フューチャーアースと同様にわれわれ地質学が文理融合で議論できる課題であることも重要な点であると思われる.
文献:ドネラ H. メドウス, 1972,成長の限界ーローマクラブ「人類の危機」レポート,ダイヤモンド社
文献:ドネラ H. メドウス, 1972,成長の限界ーローマクラブ「人類の危機」レポート,ダイヤモンド社