2:15 PM - 2:30 PM
[S2-O-4] Importance of water quality monitoring for usage of aquifer thermal storage systems in large cities -case studies in Osaka Plain
Keywords:Renewable energy, ATES (Aquifer Thermal Energy Storage), Redox reaction, stacking of well screen, effective utilization of groundwater
地中熱は環境負荷の少ない再生可能熱エネルギーである。中でも、地下水を熱媒体として用い、大規模化が可能であるATES(帯水層蓄熱: Aquifer Thermal Energy Storage)は、欧米で先行して普及している1)。一方で、国内では、エネルギー対策への効果が大きいと期待される大都市の多くが、地盤沈下対策のために地下水利用が制限されている海岸平野に立地するため、普及が進まない。ATESでは、冬期に冷却された地下水を夏期の冷房に用い、加温・還水された地下水を冬期の暖房に用いるという循環型の使用(オープンループ)が一般的である。この循環を効率よく行うためには、1)熱循環の観点からは、停滞的な地下水域であることが好ましく、2)井戸管理の観点からは、目詰まり事故を誘発する流量や水質変化が起こらないことが好ましい。私たちは、これら2点を水質の観点から評価する方法を確立するために、大阪市と神戸市の沿岸部に設置された施設において、継続的に水質分析を行ってきた。本報告では、それらの結果に基づいて、ATES運用における水質監視の重要性を紹介したい。
大阪市(舞洲の公共施設)では、Dg-2(第2被圧帯水層)とDg-3(第3被圧帯水層)を貫き、パッカーで遮水した井戸(熱源井A・B)を用いてATESを設置した。ATESは2020年5月に冷房用として供用が開始された。10月から2ヶ月間の休止期間を置いて、12月23日に暖房を開始した。この時、Dg-3の地下水は熱源井Aで揚水し熱源井Bに還水、Dg-2の地下水を熱源井Bで揚水し熱源井Aに還水していたが、2021年2月9日に熱源井AのDg-2のストレーナー部分に目詰まりが発生した。事故前後で、酸化還元電位・溶存酸素・溶存鉄濃度のみに変化が見られたことから、大気が配管に流入することによって、井戸と配管内部が一時的に好気的環境となり、溶存鉄が酸化・沈澱したことが明らかであった。また、目詰まり事故発生の2週間前には沈殿が始まっていたと推定された。さらに、この事故に伴って、熱源井A内部でDg-2の地下水がDg-3へ流入し、本来は淡水であったDg-3の地下水に高濃度の塩水(海水の10分の1程度)が混入することとなった。事故後は井戸を使用しない状態で放置し、7月27日に採水・水質分析を行ったところ、井戸〜配管で還元反応が進行し、目詰まり状況が改善されていた。そのことから、冷房運転を開始した。井戸内部での還元反応はその後も進行し、10月には鉄は溶解して沈澱は見られなくなった。以上のことから、井戸と配管を大気と遮断して放置しておくことで、自然的に還元状態が回復したことが明らかであった。特に、夏期の気温上昇に伴って配管内の生物活動が活発化することにより還元反応が促進されたと推定された。停滞的かつ還元的な状態で溶存鉄を多く含む水質の地下水を用いたATESでは、還元的環境を保つことが、井戸運用では必須である。また、水質の異なる複数の帯水層を貫く井戸を用いる場合には、地下水混合が起こらないように十分配慮しなければならない。
神戸市に設置されたATESでは、Dg-2の地下水を冷暖房に用いている。運用開始後3年以上経過するが、目詰まり事故は発生していない。しかし、地下水水質の季節変動が観測されており、春期に酸水酸化鉄の安定領域近くまで酸化還元電位が上昇する現象が観察される。この時、わずかではあるが、地下水中に懸濁物が観察される。塩化物イオン濃度の変動も伴うことから、帯水層内で異なる水質を持つ2種類の地下水が自然的要因によって混合割合を変えて井戸内に流入することを示している。このことは、帯水層に貯留した熱が自然的に失われる可能性があることを示唆している。水質分析結果から、熱エネルギーの損失が許容範囲を評価できる可能性がある。
地中熱利用において、地下水質は軽視されがちであるが、ATES施設の適正管理の一環として水質監視を運用開始前から行うことが望ましい。ATES設置による環境影響評価に関する研究は少ない2)。しかし、遠隔地や近隣の異なる帯水層への環境影響評価の観点からも水質監視をすることが望まれる。
引用文献: 1) Fleuchaus, P., et al, 2018. Renewable and Sustainable Energy Reviews 94, 861–876; 2) Sommer, W.T., et al., 2014. Hydrogeol J 22, 263–279.
大阪市(舞洲の公共施設)では、Dg-2(第2被圧帯水層)とDg-3(第3被圧帯水層)を貫き、パッカーで遮水した井戸(熱源井A・B)を用いてATESを設置した。ATESは2020年5月に冷房用として供用が開始された。10月から2ヶ月間の休止期間を置いて、12月23日に暖房を開始した。この時、Dg-3の地下水は熱源井Aで揚水し熱源井Bに還水、Dg-2の地下水を熱源井Bで揚水し熱源井Aに還水していたが、2021年2月9日に熱源井AのDg-2のストレーナー部分に目詰まりが発生した。事故前後で、酸化還元電位・溶存酸素・溶存鉄濃度のみに変化が見られたことから、大気が配管に流入することによって、井戸と配管内部が一時的に好気的環境となり、溶存鉄が酸化・沈澱したことが明らかであった。また、目詰まり事故発生の2週間前には沈殿が始まっていたと推定された。さらに、この事故に伴って、熱源井A内部でDg-2の地下水がDg-3へ流入し、本来は淡水であったDg-3の地下水に高濃度の塩水(海水の10分の1程度)が混入することとなった。事故後は井戸を使用しない状態で放置し、7月27日に採水・水質分析を行ったところ、井戸〜配管で還元反応が進行し、目詰まり状況が改善されていた。そのことから、冷房運転を開始した。井戸内部での還元反応はその後も進行し、10月には鉄は溶解して沈澱は見られなくなった。以上のことから、井戸と配管を大気と遮断して放置しておくことで、自然的に還元状態が回復したことが明らかであった。特に、夏期の気温上昇に伴って配管内の生物活動が活発化することにより還元反応が促進されたと推定された。停滞的かつ還元的な状態で溶存鉄を多く含む水質の地下水を用いたATESでは、還元的環境を保つことが、井戸運用では必須である。また、水質の異なる複数の帯水層を貫く井戸を用いる場合には、地下水混合が起こらないように十分配慮しなければならない。
神戸市に設置されたATESでは、Dg-2の地下水を冷暖房に用いている。運用開始後3年以上経過するが、目詰まり事故は発生していない。しかし、地下水水質の季節変動が観測されており、春期に酸水酸化鉄の安定領域近くまで酸化還元電位が上昇する現象が観察される。この時、わずかではあるが、地下水中に懸濁物が観察される。塩化物イオン濃度の変動も伴うことから、帯水層内で異なる水質を持つ2種類の地下水が自然的要因によって混合割合を変えて井戸内に流入することを示している。このことは、帯水層に貯留した熱が自然的に失われる可能性があることを示唆している。水質分析結果から、熱エネルギーの損失が許容範囲を評価できる可能性がある。
地中熱利用において、地下水質は軽視されがちであるが、ATES施設の適正管理の一環として水質監視を運用開始前から行うことが望ましい。ATES設置による環境影響評価に関する研究は少ない2)。しかし、遠隔地や近隣の異なる帯水層への環境影響評価の観点からも水質監視をすることが望まれる。
引用文献: 1) Fleuchaus, P., et al, 2018. Renewable and Sustainable Energy Reviews 94, 861–876; 2) Sommer, W.T., et al., 2014. Hydrogeol J 22, 263–279.