9:00 AM - 9:15 AM
[T1-O-6] Influence of pore fluid pressure on fracture pattern of mantle wedge serpentinites
Keywords:serpentinite, antigorite, slow earthquake, subduction zone
西南日本やカスカディアなどの温かい沈み込み帯では、微動・低周波地震とスロースリップイベントが同期して発生する現象(Episodic Tremor and Slip; ETS)が前弧マントルウェッジの先端付近で観測されている。ETSの発生後には、数 MPa程度の一時的な間隙流体圧の低下が起こることが知られており、これは岩石の破壊に起因した水のリークを示唆する(Gosselin et al., 2020, Sci. Adv.).したがって、数ヶ月から数年周期で繰り返し発生するETSは、間隙流体圧の上昇と下降のサイクルを表している可能性がある(Warren-Smith et al., 2019, Nat. Geosci.)。そこで本研究では、前弧マントルウェッジの破壊様式に対する間隙流体圧の影響について明らかにするべく、Griggs型固体圧式変形装置を用いた蛇紋岩の変形実験を行った。 実験は、温度500 °C、封圧(Pc)1 GPa、歪速度10−6 s−1の条件下で、アンチゴライト蛇紋岩のインタクトコアまたは粉末からなる円柱状試料に約0〜12 vol.%の純水を添加して行った。試料と純水は銀ジャケット内に封入しており、実験前後における重量変化から実験中における純水の流出量を見積った。蛇紋岩試料の差応力は約100〜1200 MPaの範囲であり、実験後の含水量が多い試料ほど差応力が低くなった。この差応力と含水量の関係は、銀ジャケット内の含水量が多いほどαPf(ここでPfは間隙流体圧、αはPfが岩石強度に与える効果を示す定数であり、0〜1の範囲をもつ)が大きくなり、かつ有効封圧(Pc-αPf)が低くなることを反映している。α = 1と仮定し、モール円解析を行ったところ、実験後の含水量が最も大きい試料の間隙流体圧比(λ)は約0.9であった。実験後のインタクトコア試料の薄片観察では、実験中のλが高くなるにつれて、破壊面の数が増えるとともに、破壊様式が最大主応力(σ1)方向に対して約30 °斜交する剪断(モードII型)破壊からσ1方向と平行あるいは20〜30 °斜交する開口(モードI型)破壊および開口・剪断(モードI-II型)破壊に遷移することがわかった。モードI型・モードI-II型混合破壊では、破壊面がネットワーク状に発達することで、蛇紋岩はいわゆるblock-in-matrix構造を呈していた。 以上の結果は、スラブ起源流体の付加により前弧マントルウェッジ浅部において高間隙流体圧が発生した場合、蛇紋岩は多数の開口・剪断破壊の形成を伴う幅広い剪断帯を形成する可能性を示唆する。このような産状は、ETS発生域に対応する温度圧力条件下で形成されたマントルウェッジ起源の蛇紋岩体中に見出されている(Hirauchi et al., 2021, Earth Planet. Sci. Lett.)。この蛇紋岩体には、開口破壊面に沿ってアンチゴライトが析出することで間隙を充填している。したがって、本実験結果は、ETSの発生サイクルが破壊および破壊後の蛇紋石による空隙の充填にともなう間隙流体圧の上昇・下降サイクルを反映しているという考えを支持する。