129th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T1.[Topic Session]Metamorphic rocks and tectonics

[2oral314-28] T1.[Topic Session]Metamorphic rocks and tectonics

Mon. Sep 5, 2022 1:30 PM - 5:30 PM oral room 3 (Build. 14, 102)

Chiar:Nobuhiko NAKANO, Tatsuro Adachi, Kazuki Yoshida

2:15 PM - 2:30 PM

[T1-O-21] Sulfide mineralogy and whole-rock sulfur isotope composition of high-grade metamorphic rocks from the Sør Rondane Mountains, East Antarctica

*Tetsuo Kawakami1, Satish-Kumar M.2, Mitsubori Tokuya2, Silpa Ammini Sasidharan2,3 (1. Kyoto University, 2. Niigata University, 3. Shimane University)

Keywords:Sulfur isotope, geofluids, saline fluids, sulfide minerals, collision zone

東南極セール・ロンダーネ山地には、約6.5-5億年前の大陸衝突帯の下部地殻岩石が広く露出している。衝突境界と考えられているMTBを境にして、北東側のNEテレーンにはグラニュライト相の変成岩類が、南西側のSWテレーンにはグラニュライト相の変成岩類と角閃岩相以下の変成度の変成岩類が主として分布する[1]。
 これらの変成岩類のうち、硫化鉱物が多く含まれる岩相は、主としてブラットニーパネ地域とバルヒェン地域に分布していることがわかった。硫化鉱物の大部分は磁硫鉄鉱と黄鉄鉱であり、岩石のマトリクス部分の粒界に不定形で産することが多い。一部の試料では、ザクロ石や単斜輝石中にもわずかに硫化鉱物が包有される。本研究では、これらの硫化鉱物を含む試料の全岩硫黄同位体組成(32S、33S、34S、36S)を測定した。測定値は、マトリクスの硫化鉱物の硫黄同位体組成を反映していると考えられる。分析の結果、質量非依存同位体分別は見られず、ザクロ石-黒雲母片麻岩、ザクロ石-珪線石片麻岩などの珪長質片麻岩類はδ34Sが-7.0から+12.0まで広い値をとった。これは現世の堆積性硫化鉱物や花崗岩質岩の示す値[2]に整合的である。一方、ザクロ石-直方輝石-黒雲母片麻岩やザクロ石-角閃石片麻岩などの苦鉄質片麻岩類は、一試料を除き、-6.0から+3.9までの値をとり、玄武岩や斑レイ岩の示す値[2]に整合的であった。苦鉄質片麻岩のうち玄武岩や斑レイ岩の示す値から大きく離れたδ34S値(+12.8)を与えた試料は、ブラットニーパネ地域から得られた。この試料は、面構造を切るザクロ石-角閃石脈を有するザクロ石-直方輝石-角閃石片麻岩の、壁岩部分である。[3][4]は、ザクロ石-角閃石脈の周囲に塩素による拡散プロファイルを見い出し、この脈が後退変成期の塩水流体活動の痕跡であると解釈した。詳細な岩石学的研究[4]により、脈周辺の壁岩部分も塩水流体活動の影響を受けたことがわかっているため、本研究で得られた硫黄同位体組成は、ザクロ石-角閃石脈形成に関与した、硫黄を含む塩水流体活動の痕跡である可能性が高い。高いδ34S値(+12.8)は、海水中の硫酸塩が示す値、ないしは、堆積性硫化鉱物や花崗岩質岩の値[2]に近い。ザクロ石-角閃石脈に類似した、面構造を切る角閃石や黒雲母の脈は、セール・ロンダーネ山地一帯に広く分布し、セール・ロンダーネ山地一帯で後退変成期の塩水流体活動が起きたことを示唆する。本研究の結果は、こうした後退変成期の塩水流体が、海水ないしは花崗岩質マグマや珪長質片麻岩の部分融解メルトの結晶化に伴い放出された流体である可能性を示す。実際、本研究で高いδ34S値(+9.1)が得られたブラットニーパネの珪長質片麻岩のマトリクスには、後退変成期の流体流入によって、硫化鉱物+菫青石を含む鉱物組み合わせがザクロ石を置換する組織が観察される[5]。従って、苦鉄質片麻岩のみならず、高いδ34S値を示す一部の珪長質片麻岩も、ザクロ石-角閃石脈形成に関与した流体と同様の、後退変成期の塩水流体の流入の影響を受けていると考えられる。
 [6]は、バルヒェンに産する珪長質片麻岩中の、ザクロ石の酸素同位体組成ゾーニングを詳細に調べ、ザクロ石リムでδ18Oが著しく低下することを見出した。これをもとに、ザクロ石リムに包有される塩素に富む黒雲母の形成にかかわった流体が、低いδ18O値をもつと推定されることから、その起源を苦鉄質岩に求めた。本研究で求めたこの試料のδ34S値は+5.4であった。したがって、面構造を切る角閃石や黒雲母の脈の場合と同様に、海水中の硫酸塩起源の硫黄を含む流体の関与を考えることもできる。
 以上のように、セール・ロンダーネ山地に産する塩素に富む鉱物の形成にかかわった流体活動は、変成段階によって異なる可能性がある一方、海水中の硫酸塩起源の硫黄を含む流体(海水そのものを含む)の流入として、統一的に理解することができる可能性もある。今後、より多くの試料について、複数の同位体組成を用いた検証が必要である。

引用文献
[1] Osanai et al. (2013) Precam. Res. 234, 8-29.
[2] Giacometti et al. (2014) Geochem. Geophys. Geosyst. 15, doi:10.1002/2014GC005459
[3] Higashino et al. (2015) JMPS, 110,166–178.
[4] Higashino et al. (2019a) J. Pet. 60, 329–358.
[5] Ikeda et al. (2021) JpGU abstract, R8-11.
[6] Higashino et al. (2019b) J. Metamorph. Geol. 37, 1037–1048.