2:45 PM - 3:00 PM
[T1-O-23] Metamorphic geology of Berrnabbane from the western Lützow-Holm Bay in East Antarctica
Keywords:metamorphism, Berrnabbane, Lützow-Holm Complex, East Antarctica
東南極リュツォ・ホルム湾からプリンスオラフ海岸までの東西400 km以上にわたり分布するリュツォ・ホルム岩体は,原生代末期〜カンブリア紀の変動,いわゆるゴンドワナ超大陸形成期のパンアフリカン変動を記録した地質体として,長らく日本の南極地域観測隊により研究が行われてきた.近年は特に年代学的な解析が精力的に行われ,原岩形成時期や砕屑性ジルコン年代に基づいた詳細な岩体区分が進んでいる(Takamura et al., 2018; Takahashi et al., 2018; Dunkley et al., 2020).一方で,南極特有の限定された露岩分布やアクセスの困難さから,岩体区分の詳細やその境界について,必ずしも統一した見解が得られているわけではない.このような最近のリュツォ・ホルム岩体の研究動向や約940 Maの変成年代をしめす異地性ブロックの存在(Baba et al., 2022)は,同岩体のテクトニクスやゴンドワナ復元時の近隣地質体への延長解読のためのより高密度な調査・データ取得の必要性をしめしている.本年3月末に帰国した第63次南極地域観測隊では,これまで未踏査であった複数の小露岩域の調査を実施した.本発表ではその1つであるベルナバネについて報告する.
ベルナバネは,リュツォ・ホルム湾西岸,アウストホブデの東南東約7 kmに位置する東西・南北とも700 m程度の小露岩である.Takamura et al. (2018)の区分では南部リュツォ・ホルム岩体と中部リュツォ・ホルム岩体の境界部に位置し,Dunkley et al. (2020)の区分ではアウストホブデとともにルンドボークスヘッタ小岩体を構成する.いずれにしても,リュツォ・ホルム岩体において想定されている最高温度軸付近に位置しており,スリランカ・ハイランド岩体や南インド・トリバンドラム岩体との関連を考える上でも最重要地点の一つといえる.変成岩類は露岩域最西端を除き,広域的に西北西−東南東の走行をしめし,中〜高角度で北傾斜する.主要な岩層は角閃石−黒雲母トーナル岩質片麻岩であり,まれに単斜輝石を含むことがある.同片麻岩は,露岩南部において直方輝石角閃岩のレンズおよび多数の変成輝岩のブロックを含む.変成輝岩は直方輝岩から単斜輝岩まで多様である.露岩中央部には3枚のザクロ石−黒雲母片麻岩レイヤーが産し,その最大幅は100 mにおよぶ.ザクロ石はしばしばスピネルや珪線石を包有し,基質には珪線石または直方輝石を含む場合がある.また,黒雲母に乏しいコンダライト質片麻岩も認められる.これらの泥質片麻岩類は,複数地点で比較的大規模なザクロ石を含むマフィックグラニュライトブロックを包有する.マフィックグラニュライト中のザクロ石,角閃石,直方輝石の存在量はブロックにより異なるが,一般に単斜輝石に富み石英を含む.斜長石は直方輝石または単斜輝石とのシンプレクタイトとして認められる.単斜輝石にはJd成分は含まれない.
これらのベルナバネの構成岩類は,下部地殻(もしくは上部マントル)から表層までの様々な深度を起源とする原岩が,高圧グラニュライト相程度の変成作用を被ったことをしめしている.また,周囲の露岩域と同様にピーク条件から等温・減圧する変成履歴が想定される.ザクロ石−珪線石−黒雲母片麻岩およびザクロ石−直方輝石−黒雲母片麻岩からの予察的なEPMA分析により,基質部に580–520 Maをしめすモナズ石,ザクロ石中に1.9–1.8 Gaをしめすモナズ石の存在を確認した.このことは,同地域の複変成作用の可能性や堆積上限年代に重要な新知見をもたらす可能性がある.発表では,より詳細な岩石学的・年代学的検討を加え,同露岩域に認められた岩相の形成過程やテクトニックな位置づけについて議論する予定である.
引用文献:[1] Baba et al. (2022) Gondwana Res., 105, 243–261. [2] Dunkley et al. (2020), Polar Sci., 26, 100606. [3] Tahakashi et al. (2018), J. Asian Erth Sci., 157, 245–268. [4] Takamura et al. (2018), Geosci. Frontiers, 9, 355–375.
ベルナバネは,リュツォ・ホルム湾西岸,アウストホブデの東南東約7 kmに位置する東西・南北とも700 m程度の小露岩である.Takamura et al. (2018)の区分では南部リュツォ・ホルム岩体と中部リュツォ・ホルム岩体の境界部に位置し,Dunkley et al. (2020)の区分ではアウストホブデとともにルンドボークスヘッタ小岩体を構成する.いずれにしても,リュツォ・ホルム岩体において想定されている最高温度軸付近に位置しており,スリランカ・ハイランド岩体や南インド・トリバンドラム岩体との関連を考える上でも最重要地点の一つといえる.変成岩類は露岩域最西端を除き,広域的に西北西−東南東の走行をしめし,中〜高角度で北傾斜する.主要な岩層は角閃石−黒雲母トーナル岩質片麻岩であり,まれに単斜輝石を含むことがある.同片麻岩は,露岩南部において直方輝石角閃岩のレンズおよび多数の変成輝岩のブロックを含む.変成輝岩は直方輝岩から単斜輝岩まで多様である.露岩中央部には3枚のザクロ石−黒雲母片麻岩レイヤーが産し,その最大幅は100 mにおよぶ.ザクロ石はしばしばスピネルや珪線石を包有し,基質には珪線石または直方輝石を含む場合がある.また,黒雲母に乏しいコンダライト質片麻岩も認められる.これらの泥質片麻岩類は,複数地点で比較的大規模なザクロ石を含むマフィックグラニュライトブロックを包有する.マフィックグラニュライト中のザクロ石,角閃石,直方輝石の存在量はブロックにより異なるが,一般に単斜輝石に富み石英を含む.斜長石は直方輝石または単斜輝石とのシンプレクタイトとして認められる.単斜輝石にはJd成分は含まれない.
これらのベルナバネの構成岩類は,下部地殻(もしくは上部マントル)から表層までの様々な深度を起源とする原岩が,高圧グラニュライト相程度の変成作用を被ったことをしめしている.また,周囲の露岩域と同様にピーク条件から等温・減圧する変成履歴が想定される.ザクロ石−珪線石−黒雲母片麻岩およびザクロ石−直方輝石−黒雲母片麻岩からの予察的なEPMA分析により,基質部に580–520 Maをしめすモナズ石,ザクロ石中に1.9–1.8 Gaをしめすモナズ石の存在を確認した.このことは,同地域の複変成作用の可能性や堆積上限年代に重要な新知見をもたらす可能性がある.発表では,より詳細な岩石学的・年代学的検討を加え,同露岩域に認められた岩相の形成過程やテクトニックな位置づけについて議論する予定である.
引用文献:[1] Baba et al. (2022) Gondwana Res., 105, 243–261. [2] Dunkley et al. (2020), Polar Sci., 26, 100606. [3] Tahakashi et al. (2018), J. Asian Erth Sci., 157, 245–268. [4] Takamura et al. (2018), Geosci. Frontiers, 9, 355–375.