日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T11.[トピック]堆積地質学の最新研究

[2oral401-11] T11.[トピック]堆積地質学の最新研究

2022年9月5日(月) 08:45 〜 12:00 口頭第4会場 (14号館401教室)

座長:松本 弾(産総研)、横山 由香(東海大学海洋学部)、山口 悠哉(石油資源開発株式会社)

10:15 〜 10:30

[T11-O-13] サージ的混濁流によるサイクリックステップの形成と粒度分布:実験的研究

*横川 美和1、永野 蓮1、松波 和真1、福岡 篤生1 (1. 大阪工業大学)

キーワード:サイクリックステップ、サージ的混濁流、粒度分布、水路実験、高流砂階

混濁流によってデルタ斜面や海底谷近辺にセディメントウェーブが形成されることが知られている.富山深海長谷では,自然堤防上に混濁流の溢れ出しによって形成されたと考えられるセディメントウェーブがあり,これを構成するタービダイトの最粗部の粒度を比較すると,場所によって上流側斜面の粒度が下流側斜面に比べて粗い場合もあれば,逆の傾向になることもある(Nakajima & Satoh, 2001).また,サージ的混濁流によってサイクリックステップを形成する実験(藤田ほか,2019)でも,条件により上流側と下流側の粒度の大小が変わった.混濁流によるサイクリックステップの形成過程やその粒度分布については,実験例が少なく,詳細はわかっていないことが多い.そこで本研究では実験水路でサージ的混濁流によってサイクリックステップを形成し,その粒度分布を詳細に調べた.
 本実験では,長さ7.6m,幅0.3m,高さ1.2mの水槽の中に,長さ7m,幅8cm,高さ50cmの水路を勾配7°で設置した.また,サイクリップステップが形成されやすいようにアクリル板で上流端に傾斜7°の斜面(長さ180cm)を設置した.塩水(密度1.16g/cm3)と2種類のプラスチック粒子を重量比20:1:1の割合で自動攪拌機を用いて混ぜ合わせてヘッドタンクから供給し,混濁流を発生させた.プラスチック粒子の粒度範囲は,粒径75-150µmと180-325µmである. 1回のサージは3秒間で,流量約17.7Lを141回流した.その結果,2つのステップが形成された.上流側のステップの波形勾配は0.06であった.
 141回流した後の堆積物表面では中央粒径は下流側に向かうほど大きくなる傾向が見られた.また,上流側のステップ1では上流側斜面より下流側斜面の方が粗い傾向がある一方で,下流端近くに位置するステップ2では上流側斜面の方が粗い傾向がある.初期状態での混濁流中の浮遊砂の濃度と粒度を上流端から400cm,590cm地点で調べた結果,混濁流の底面付近の浮遊砂の中央粒径は,ヘッドでは400cm,590cm地点ともにおよそ230μm,ボディーでは400cm付近でおよそ220μm,590cm付近でおよそ160μmであった.堆積物表面の中央粒径と比較すると,上流端から400cm付近ではボディーの浮遊砂の中央粒径と近く,560cm付近ではヘッドの底面付近の浮遊砂の中央粒径と近かった.
 いずれのステップでも上流側斜面で流れの厚さが増すが,下流側に位置するステップ2の方が,流れの厚さの増加度合いが大きく,増加と共に周囲水の巻き込みがみられるなどヘッドの減速が示唆される.堆積物表面や混濁流中の浮遊砂の粒度分析結果を合わせて考えると,上流側のステップ1ではヘッドの流速が大きくヘッドに含まれる浮遊砂はバイパスしてボディーから堆積が起きたのに対し,下流側のステップ2では,ヘッドの流速が落ちてヘッドの浮遊砂から堆積が起きたと推定される.水路全体の下流粗粒化の傾向も,このような上流側でのヘッドの浮遊砂のバイパスにより説明できると考えられる.
 引用文献
藤田和典ほか, 2019, 日本地質学会第126年学術大会(2019年山口大会)講演要旨.
Nakajima, T., and Satoh, M., 2001, Sedimentology, 48, 435-463.