2:00 PM - 2:15 PM
[T11-O-21] Climatic records in Heinrich events revealed from Japanese stalagmites
Keywords:stalagmite, oxygen isotopes, carbonate clumped isotopes, paleo climate, Heinrich events
大西洋への氷山流出に端を発するハインリッヒイベントは、最終氷期を通じて、大規模な寒冷化イベントを周期的に引き起こした。本邦におけるハインリッヒイベントの影響を明らかにした研究成果は限定的であるが、中村ほか(2013)は、野尻湖堆積物の音波探査による過去4.5万年間の湖水位変動記録から、ハインリッヒイベントに伴う寒冷期に、冬季アジアモンスーン(EAWM)が強化し、冬季降水量が増加したと推定している。
発表者らは、鍾乳洞で発達する石筍の安定酸素同位体比(δ18O)と炭酸凝集同位体(Δ47)による温度指標を併用し、最終氷期から現在までの、日本陸域における古気温変化と、降水変動を明らかにする研究を行なっている。本発表では、これまでに分析した複数の石筍データから、ハインリッヒイベントに関連した気候変動記録を紹介したい。
日本の気候は、東アジアモンスーンの影響を強く受けている。夏季アジアモンスーン(EASM)は、太平洋側から日本の広い範囲に、高δ18Oの降水をもたらし、冬季アジアモンスーン(EAWM)は、日本海側から低δ18Oの降水をもたらす。EASMとEAWMは、季節的に変化する海洋/陸域間の熱コントラストによって駆動され、両者の強度には、数百年規模では負の相関関係があることが知られる。
岐阜県の大滝鍾乳洞から採取された石筍OT02(Mori et al., 2018)は、4度のハインリッヒイベントの記録を含む。OT02石筍のΔ47値は、ハインリッヒイベントに対応した数℃の寒冷化を記録しており、また、石筍δ18OとΔ47温度から復元される降水のδ18Oは、寒冷期に低い値をとる。ハインリッヒイベントに伴う寒冷期には、EASMの弱化とEAWM強化により、低いδ18Oをもつ冬季の降水量比が相対的に上昇したことで、年平均的な降水δ18Oが低下したものと考えられる。
一方、広島県幻鍾乳洞産の石筍Hiro-1(Shen et al., 2010; Hori et al., 2013, 2014; Kato et al., 2021)は、ハインリッヒ氷期(HS1)に成長量が著しく低下しており、洞窟環境の乾燥化を示唆した。幻鍾乳洞地域は、中国山地によって日本海側からの水蒸気流入が阻まれ、冬季の降水が非常に少ない。ハインリッヒイベントによる寒冷期には、EAWM強化による冬季降水量の増加は限定的である一方、EASMの弱化により、年降水の大きな割合を占める夏季降水量が減少した結果、年降水量が著しく減少した可能性がある。
引用文献
Hori et al. (2013) Prior calcite precipitation and source mixing process influence Sr/Ca, Ba/Ca and 87Sr/86Sr of a stalagmite developed in southwestern Japan during 18.0 4.5 ka. Chem. Geol. 347, 190−198.
Hori et al. (2014) Rare earth elements in a stalagmite from southwestern Japan: A potential proxy for chemical weathering. Geochem. J. 48, 73–84.
Kato et al. (2021) Influences of temperature and the meteoric water δ18O value on a stalagmite record in the last deglacial to middle Holocene period from southwestern Japan. Quat. Sci. Rev. 253, 106746.
Mori et al. (2018) Temperature and seawater isotopic controls on two stalagmite records since 83 ka from maritime Japan. Quat. Sci. Rev. 192, 47–58.
中村ほか (2013) 長野県野尻湖における過去4.5万年の湖水位変動とその要因. 第四紀研究 52, 203–212.
Shen et al. (2010) East Asian monsoon evolution and reconciliation of climate records from Japan and Greenland during the last deglaciation. Quat. Sci. Rev. 29, 3327–3335.
発表者らは、鍾乳洞で発達する石筍の安定酸素同位体比(δ18O)と炭酸凝集同位体(Δ47)による温度指標を併用し、最終氷期から現在までの、日本陸域における古気温変化と、降水変動を明らかにする研究を行なっている。本発表では、これまでに分析した複数の石筍データから、ハインリッヒイベントに関連した気候変動記録を紹介したい。
日本の気候は、東アジアモンスーンの影響を強く受けている。夏季アジアモンスーン(EASM)は、太平洋側から日本の広い範囲に、高δ18Oの降水をもたらし、冬季アジアモンスーン(EAWM)は、日本海側から低δ18Oの降水をもたらす。EASMとEAWMは、季節的に変化する海洋/陸域間の熱コントラストによって駆動され、両者の強度には、数百年規模では負の相関関係があることが知られる。
岐阜県の大滝鍾乳洞から採取された石筍OT02(Mori et al., 2018)は、4度のハインリッヒイベントの記録を含む。OT02石筍のΔ47値は、ハインリッヒイベントに対応した数℃の寒冷化を記録しており、また、石筍δ18OとΔ47温度から復元される降水のδ18Oは、寒冷期に低い値をとる。ハインリッヒイベントに伴う寒冷期には、EASMの弱化とEAWM強化により、低いδ18Oをもつ冬季の降水量比が相対的に上昇したことで、年平均的な降水δ18Oが低下したものと考えられる。
一方、広島県幻鍾乳洞産の石筍Hiro-1(Shen et al., 2010; Hori et al., 2013, 2014; Kato et al., 2021)は、ハインリッヒ氷期(HS1)に成長量が著しく低下しており、洞窟環境の乾燥化を示唆した。幻鍾乳洞地域は、中国山地によって日本海側からの水蒸気流入が阻まれ、冬季の降水が非常に少ない。ハインリッヒイベントによる寒冷期には、EAWM強化による冬季降水量の増加は限定的である一方、EASMの弱化により、年降水の大きな割合を占める夏季降水量が減少した結果、年降水量が著しく減少した可能性がある。
引用文献
Hori et al. (2013) Prior calcite precipitation and source mixing process influence Sr/Ca, Ba/Ca and 87Sr/86Sr of a stalagmite developed in southwestern Japan during 18.0 4.5 ka. Chem. Geol. 347, 190−198.
Hori et al. (2014) Rare earth elements in a stalagmite from southwestern Japan: A potential proxy for chemical weathering. Geochem. J. 48, 73–84.
Kato et al. (2021) Influences of temperature and the meteoric water δ18O value on a stalagmite record in the last deglacial to middle Holocene period from southwestern Japan. Quat. Sci. Rev. 253, 106746.
Mori et al. (2018) Temperature and seawater isotopic controls on two stalagmite records since 83 ka from maritime Japan. Quat. Sci. Rev. 192, 47–58.
中村ほか (2013) 長野県野尻湖における過去4.5万年の湖水位変動とその要因. 第四紀研究 52, 203–212.
Shen et al. (2010) East Asian monsoon evolution and reconciliation of climate records from Japan and Greenland during the last deglaciation. Quat. Sci. Rev. 29, 3327–3335.