日本地質学会第129年学術大会

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セッション口頭発表

T11.[トピック]堆積地質学の最新研究

[2oral412-21] T11.[トピック]堆積地質学の最新研究

2022年9月5日(月) 13:30 〜 16:45 口頭第4会場 (14号館401教室)

座長:足立 奈津子(大阪公立大学)、加藤 大和(東京大学大学院理学系研究科)、白石 史人(広島大学)

15:15 〜 15:30

[T11-O-24] 鹿児島県喜界島西部における相対的海水準低下に伴う上部更新統琉球層群の堆積環境と堆積メカニズムの変化(予報)

*松田 博貴1、林田 将英2、熊谷 優香2、得重 和希2、辻 喜弘3、佐々木 圭一4 (1. 熊本大学大学院先端科学研究部、2. 熊本大学理学部、3. 喜界島サンゴ礁科学研究所、4. 金沢学院大学経済情報学部)

キーワード:喜界島、上部更新統琉球層群、コケムシ、潮汐流、隆起速度、海水準変動

鹿児島県喜界島には,サンゴ礁複合体堆積物からなる中・上部更新統琉球層群が広く分布する.喜界島は,我が国でも隆起速度が最も大きい地域の一つであり,最終間氷期(MIS 5)以降,汎世界的な海水準の低下と相まって,島の最高地点である百之台(標高212m)を含め複数の時代のサンゴ礁複合体が形成されてきた.その結果,島の段丘地形に応じて,より高位の段丘にサンゴ礁を構成するサンゴ石灰岩が,より低位の段丘に同じ時代の島棚外側から島棚斜面上部で堆積したコケムシに富む淘汰の悪い生砕性石灰岩や石灰藻球石灰岩が対をなして分布することが知られている(大村ほか,2000).しかしながら,島周縁部において,相対的海水準低下に伴い,島棚斜面上部から浅海域へと堆積環境が変化していく過程の詳細についてはよく判っていない.そこで著者らは,喜界島における最終間氷期以降の堆積環境と堆積メカニズム,加えてそれらと海水準との関係を明らかにするために,この数年にわたり調査・研究を進めてきた.本発表では,喜界島西部の坂嶺から湾,ならびに水天宮山から手久津久にかけて分布する上部更新統琉球層群の岩相と堆積環境の変化,ならびにそれらと海水準の関係について新たに得られた知見について報告する.
 調査地域の上部更新統琉球層群は,主に淘汰の悪い生砕性石灰岩,特にコケムシに富む生砕性石灰岩(以下,コケムシ質石灰岩)と,淘汰の良い生砕性石灰岩からなる.コケムシ質石灰岩は,島西岸の坂嶺から池治にかけてと南西部の上嘉鉄北方から手久津久北方にかけての標高8〜40mに分布する.中部更新統琉球層群を不整合に覆い,粗粒砂〜細礫サイズのコケムシ片,大型有孔虫Amphistegina sp.,軟体動物片や棘皮動物片などの生物骨格粒子を主体とする未固結〜半固結grainstoneからなる.コケムシは,網目状,太枝状,ならびに細枝状の群体形の遺骸片が卓越する.また石灰藻球を伴い,まれに中礫サイズのサンゴ礫を含む.坂嶺周辺ではしばしば 平板型斜交層理が発達し,同一層準に逆方向の平板型斜交層理が観察される場合もある.これらの特徴から,コケムシ質石灰岩は,宮古島西方沖現世海底堆積物におけるコケムシ質堆積物相(辻ほか,1993)に相当し,MIS 5a(約80ka)の礁前縁相堆積物(大村ほか,2000)に対比される.またコケムシの群体形(Bone and James, 1993)や喜界島南西沖現世試料から,堆積環境は水深130〜170m程度の島棚外側から島棚斜面上部と考えられる.さらに平板型斜交層理から,島の伸長方向に沿う北東-南西方向の潮汐流影響下の島棚外側から島棚斜面上部で堆積したと推定される.
 淘汰の良い生砕性石灰岩は,主にコケムシ質石灰岩より島外縁側の標高8〜50mに分布し,サンゴ片,石灰藻,大型有孔虫Baculogypsina sp.などの粗粒の生物骨格粒子を主体とする未固結〜半固結grainstoneからなり,しばしば平板型ならびにトラフ型斜交層理を伴う.まれに大礫サイズのサンゴ礫を含む.またよく円磨されたサンゴ円礫も観察され,池治では最上部に約51kaを示す造礁サンゴを含む(大村ほか,2000).これらの特徴から,淘汰の良い生砕性石灰岩は, MIS 5a 以降,相対的海水準が低下し,MIS 3(約50ka)前後以降に礁原から礁斜面上部で堆積したと推定される.また北東-南西方向ないし北方向への流れを示す平板型斜交層理の存在から,潮汐流の影響下にあるものの礁微地形に規制された流れにより堆積したと推定される.
 各岩相の関係は,坂嶺西部では,平板型斜交層理のよく発達するコケムシ質石灰岩から,上位に向け径1〜2cm程度の石灰藻球を含むようになり,さらにサンゴ礫を含む淘汰の悪い生砕性石灰岩へと変化するサクセションが観察される.手久津久北方から水天宮山南方にかけての一帯でも,同様の岩相変化が観察される.また赤連南東では,径1〜2cm程度の石灰藻球をまれに含む淘汰の悪い生砕性石灰岩から,上位に向けサンゴ石灰岩へと変化するサクセションが観察され,さらにその上位に風成砂丘砂層が重なる.これらの岩相変化は,上方あるいは外側への側方浅海化を示しており,最終間氷期以降の相対的な海水準の低下に伴って,島周縁側へ向けてサンゴ礁複合体がオフラッピングしていく過程を表したものと考えられる.
 今後は,さらに調査を進めると共に,より詳細に堆積環境の変化を明らかにするために,構成生物遺骸粒子,特に大型有孔虫の解析と年代値の決定を行うことが重要であろう.
Bone and Jame, 1993, Sediment. Geol., 86, 247–271.
大村明雄ほか,2000,第四紀研究,39,55–68.
辻 喜弘ほか,1993,石油公団石油開発センター研究報告,no.24,55–78.