日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G1-3.ジェネラル サブセッション環境地質

[2oral511-19] G1-3.ジェネラル サブセッション環境地質

2022年9月5日(月) 13:30 〜 15:45 口頭第5会場 (14号館402教室)

座長:吉田 剛(千葉県環境研究センター)、吉田 英一(名古屋大学博物館)、竹内 真司(日本大学)

13:45 〜 14:00

[G3-O-6] 流れを止めて濁りを堆積させ,濁りを持続させ増大させる穴あきダムは環境に優しくない

*川辺 孝幸1、阿部 修2、清野 真人2、高桑 順一2、最上小国川の 清流を守る会3 (1. 元山形大学、2. 最上小国川の清流を守る会、3. 新庄市城西町5-37 沓沢正昭方)

キーワード:穴あきダム、流水型ダム、環境に優しくない、細粒堆積物の堆積、下流への濁りの増加

近年,「防災と環境の調和」を目指して環境に優しいという触れ込みで「穴あきダム」(流水型ダム;以下,穴あきダムと表記)の建設が各地で進められようとしている(池田ほか,2017).現在までに5基が完成し,4基が建設中,さらに川辺川ダムをはじめ,今後nの治水対策で穴あきダムが選ばれようとしている.
 池田ほか(2017)の穴あきダムのモデル(図1左)では,平常時もしくは常用洪水吐より低い洪水時には,流れはダムが無いのと同じで,常用洪水吐を越える激しい洪水時には,ピークカットして水を貯め,ダム湖ができる.その際,洪水流の土砂や泥はダム湖に堆積するが,ダム湖の水位の低下中の流れで,それらは侵食されてダムから排出され,ダムには堆積物はほとんど残らない.僅かに残った堆積物は人為的に排出する必要がある.
 2020年度に完成した山形県最上郡最上町の最上小国川に建設された穴あきダムの上流域には,約200万年前の赤倉カルデラ湖に堆積した火山ガラスを主体とする非常に淘汰良い火山灰の二次移動堆積物からなる地層が広く分布し,従来から頻繁に崩壊して下流に濁流をもたらしてきた.しかし平均河床勾配が1/77.5と急なため濁流は下流まで一気に流下し,雨が収まると翌日には清流に戻ると言われていた.実際,途中で細粒堆積物がトラップされることは無かった.
 しかし,我々の調査で,ダムができたために河床の状況は一変したことが明らかになった(図右).すなわち,ダム建設中の2019年10月台風19号と2020年1月29日豪雨の際には,いずれもダムの約3.8km上流のヘアピン状の曲流の攻撃斜面で崩壊が起こり高濃度の濁流が流下した.ピークカットでできたダム湖に流れ込むと,粗粒粒子は水中扇状地または三角州を作って堆積する一方で,細粒堆積物は,厚さ5~3mの密度流状の堆積物重力流となって約1.6km下流のダム提体まで,植生の有無によらず,ダム湖底一面に広がって流れ下り,細粒堆積物を沈殿・堆積させた.これにより,ダムからは7~8日の間下流に濁流が流下した.さらに堆積した粒子はその後の降雨で徐々に流出して下流を濁らせる.
 このように,下流での長期の濁りは,ピークカットで水の流れを止めるという穴あきダムの本質に伴い発生する現象であり,穴あきダムは濁りを持続させる点で,環境に優しくないということができる.
文献:池田ほか(2017)流水型ダム−防災と環境の調和に向けて−.技報堂出版,270p.