3:30 PM - 3:45 PM
[G3-O-13] In-situ sealing feasibility experiment of flow-paths factures learnt from spherical carbonate concretion formation
Keywords:concretion, self-sealing, In-situ feasibility experiment
1.はじめに
球状コンクリーションには,鉄やシリカ,炭酸塩(カルサイトやドロマイト)を主成分とするものがある.その中でも炭酸カルシウムを主成分とする球状岩塊は,世界中の数億年〜完新世までの海性堆積岩中から発見され,そのサイズは数センチ〜数メートルと様々である.この炭酸カルシウムを主成分とするコンクリーションは非常に緻密で,地表に露出した後も風化に耐え,内部の化石も新鮮な状態のまま保持されていることが多い.このような産状や特徴を有するコンクリーションの成因・形成速度を明らかにすることを目的に,国内外の数百に及ぶ試料を用いて,産状や形態,化学成分などの調査・分析を進めてきた.その結果,球状コンクリーションは,未固結の海底堆積物中において,炭素起源となる生物を取り巻くようにコンクリーションが内部から外へと急速な反応(数ヶ月〜数年)で成長することが明らかとなってきた(例えばYoshida et al., 2018; 吉田, 2022).
2.コンクリーションの工学的評価
このようなコンクリーション化プロセスを工学的に応用することを目的に,天然のコンクリーションの緻密性,力学特性,透水性などの工学的評価と人工的にコンクリーション化を促進させるコンクリーション化材の開発を進めている.工学的評価に関してはこれまでの測定結果から,以下のことが分かってきた.まずコンクリーション部分に含まれる炭酸カルシウムの量は,周辺地層の約10〜20倍の50〜60wt%である.この割合は,ほとんどのコンクリーションに共通した値である.またこの割合は,海底堆積物(未固結)の初期空隙率に近く,コンクリーションが未固結堆積物中で形成されたことと整合的である.またコンクリーションの空隙率は,古い地質時代のコンクリーションほど低い値を示す傾向があるものの,完新世のコンクリーションにおいても5%程度であり,炭酸カルシウムの濃集・沈殿が速やかに進行したことを示す.また,透水係数も10-12m/s オーダーと花崗岩に匹敵するものが認められる.炭酸カルシウム(カルサイト:CaCO3)を主成分とする球状コンクリーション中の化石が保存良好なのは,微細なカルサイト結晶の空隙内での急速な沈殿によって,堆積物の細かい隙間まで充填・シーリングされることで外部との化学反応が抑制され,物質循環的に隔離されるためと考えられる.
3.コンクリーション化剤の開発と原位置実証試験
人工的コンクリーション化材の開発については,地下岩盤中での水みちなどの空隙をシーリングさせるための‘コンクリーション化剤(コンクリーションシード(略称コンシード))’を積水化学工業と共同で開発してきた(特願第6889508号).このコンクリーション化剤の利点・特徴は;1)従来の物理的圧入法と異なり,元素の拡散・沈殿によりミクロンオーダー以下の微細な空隙もシーリングが可能であること2)元素の拡散によるシーリングであることから,地下水の(高)間隙水圧の影響を受けないこと3)地下水中の自然由来の重炭酸イオンやカルシウムイオンも活用可能であり,持続的かつ長期的なシーリングが可能,という点である. 開発したコンクリーション化剤を用いた実証試験を,日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センター(北海道幌延町)において現在実施中である.実験は,地下350mの試験坑道において,地下坑道掘削に伴う岩盤の破壊領域(掘削損傷領域:EDZ)部分を対象とし、コンクリーション化剤によるシーリング効果を確認するために,坑道壁面や底盤から深さ1〜2mのボーリングを複数本掘削し,そのうちの1本を透水性変化のモニター孔として残し,他のボーリング孔にコンクリーション化剤を注入し,時間経過と共にどのように水みちが閉塞されていくのかの変化をモニターするものである.その最新の結果として,地下坑道周辺の掘削に伴い生じたEDZの透水性が,これまでに約2オーダー以上低下し,周辺母岩とほぼ同様の透水性にまで改善されつつあることが確認された.今後,さらに実証研究を進めるとともに,将来的には,岩盤中の割れ目帯や断層破砕帯などの大規模水みちの止水対策や,既存トンネルの修復に用いられるグラウト技術の代替策として,さらにはCCSや石油廃孔の長期シーリングなどへの適用性も検討する計画である.なお,本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地層処分施設閉鎖技術確証試験)」の成果の一部である.
文献1) Yoshida,H. et al., (2018) Scientific Reports,doi.org/10.1038/s41598-018-24205-5.2) 吉田英一 (2022) 球状コンクリーションの理解と応用, 地質学雑誌(印刷中).
球状コンクリーションには,鉄やシリカ,炭酸塩(カルサイトやドロマイト)を主成分とするものがある.その中でも炭酸カルシウムを主成分とする球状岩塊は,世界中の数億年〜完新世までの海性堆積岩中から発見され,そのサイズは数センチ〜数メートルと様々である.この炭酸カルシウムを主成分とするコンクリーションは非常に緻密で,地表に露出した後も風化に耐え,内部の化石も新鮮な状態のまま保持されていることが多い.このような産状や特徴を有するコンクリーションの成因・形成速度を明らかにすることを目的に,国内外の数百に及ぶ試料を用いて,産状や形態,化学成分などの調査・分析を進めてきた.その結果,球状コンクリーションは,未固結の海底堆積物中において,炭素起源となる生物を取り巻くようにコンクリーションが内部から外へと急速な反応(数ヶ月〜数年)で成長することが明らかとなってきた(例えばYoshida et al., 2018; 吉田, 2022).
2.コンクリーションの工学的評価
このようなコンクリーション化プロセスを工学的に応用することを目的に,天然のコンクリーションの緻密性,力学特性,透水性などの工学的評価と人工的にコンクリーション化を促進させるコンクリーション化材の開発を進めている.工学的評価に関してはこれまでの測定結果から,以下のことが分かってきた.まずコンクリーション部分に含まれる炭酸カルシウムの量は,周辺地層の約10〜20倍の50〜60wt%である.この割合は,ほとんどのコンクリーションに共通した値である.またこの割合は,海底堆積物(未固結)の初期空隙率に近く,コンクリーションが未固結堆積物中で形成されたことと整合的である.またコンクリーションの空隙率は,古い地質時代のコンクリーションほど低い値を示す傾向があるものの,完新世のコンクリーションにおいても5%程度であり,炭酸カルシウムの濃集・沈殿が速やかに進行したことを示す.また,透水係数も10-12m/s オーダーと花崗岩に匹敵するものが認められる.炭酸カルシウム(カルサイト:CaCO3)を主成分とする球状コンクリーション中の化石が保存良好なのは,微細なカルサイト結晶の空隙内での急速な沈殿によって,堆積物の細かい隙間まで充填・シーリングされることで外部との化学反応が抑制され,物質循環的に隔離されるためと考えられる.
3.コンクリーション化剤の開発と原位置実証試験
人工的コンクリーション化材の開発については,地下岩盤中での水みちなどの空隙をシーリングさせるための‘コンクリーション化剤(コンクリーションシード(略称コンシード))’を積水化学工業と共同で開発してきた(特願第6889508号).このコンクリーション化剤の利点・特徴は;1)従来の物理的圧入法と異なり,元素の拡散・沈殿によりミクロンオーダー以下の微細な空隙もシーリングが可能であること2)元素の拡散によるシーリングであることから,地下水の(高)間隙水圧の影響を受けないこと3)地下水中の自然由来の重炭酸イオンやカルシウムイオンも活用可能であり,持続的かつ長期的なシーリングが可能,という点である. 開発したコンクリーション化剤を用いた実証試験を,日本原子力研究開発機構の幌延深地層研究センター(北海道幌延町)において現在実施中である.実験は,地下350mの試験坑道において,地下坑道掘削に伴う岩盤の破壊領域(掘削損傷領域:EDZ)部分を対象とし、コンクリーション化剤によるシーリング効果を確認するために,坑道壁面や底盤から深さ1〜2mのボーリングを複数本掘削し,そのうちの1本を透水性変化のモニター孔として残し,他のボーリング孔にコンクリーション化剤を注入し,時間経過と共にどのように水みちが閉塞されていくのかの変化をモニターするものである.その最新の結果として,地下坑道周辺の掘削に伴い生じたEDZの透水性が,これまでに約2オーダー以上低下し,周辺母岩とほぼ同様の透水性にまで改善されつつあることが確認された.今後,さらに実証研究を進めるとともに,将来的には,岩盤中の割れ目帯や断層破砕帯などの大規模水みちの止水対策や,既存トンネルの修復に用いられるグラウト技術の代替策として,さらにはCCSや石油廃孔の長期シーリングなどへの適用性も検討する計画である.なお,本研究は,経済産業省資源エネルギー庁委託事業「令和3年度高レベル放射性廃棄物等の地層処分に関する技術開発事業(JPJ007597)(地層処分施設閉鎖技術確証試験)」の成果の一部である.
文献1) Yoshida,H. et al., (2018) Scientific Reports,doi.org/10.1038/s41598-018-24205-5.2) 吉田英一 (2022) 球状コンクリーションの理解と応用, 地質学雑誌(印刷中).