3:30 PM - 3:45 PM
[T2-O-14] Middle Miocene along-arc stress gradient in the backarc regions in Kyushu and SW Japan
Keywords:stress inversion, Chikuho-type structure, Okinawa Trough
九州北西部から山口県西部ではNW-SE方向の地質図規模の正断層群が古第三系を切っており,ハーフグラーベンも多い.松下(1951)はこれらを筑豊型構造と命名し,後年,古第三紀の堆積同時断層と考えた(e.g., 松下, 1971).しかし,この解釈には次の問題がある.1) ハーフグラーベンでも地層のgrowthが見られない(尾崎, 2013).2) 層厚の側方変化が大きいことと断層がリストリックであることを松下(1967)は堆積同時であることの根拠としているが,前者は何らかの堆積同時テクトニクスを示唆するものの,いずれもNW走向の正断層が堆積同時であることの証拠とはいえない.3) 山口県湯谷湾地域では,NW走向の正断層で下部~中部中新統が傾動している(尾崎ほか, 2006).これは,筑豊型構造が古第三系の堆積後,中期中新世頃に形成したことを示唆する(尾崎, 2013).
天草地域にも始新統を切るNW-SE方向の断層群が多数存在し,それらを松下(1951)は筑豊型構造,すなわち正断層としているが,高井ほか(1997)は横ずれ断層としている.しかし,いずれも判断の根拠を示しておらず,活動時期も不明であった.そこで,本研究で新しく天草下島北西部の地質図を作成し,また,同断層群のすべり方向を検討した.さらにまた,断層の活動時期を制約するため,天草全域で中期中新世(14‒16 Ma)の流紋岩~安山岩質の貫入岩類(永尾ほか, 1992; 濱崎ほか, 1996)を観察し,露頭規模の変形構造を調べた.
結果として,調査地域で約30条のNW-SE方向の地質図規模の断層を今回認定した.その中の14条で条線が観察でき,NW-SE方向の断層は正断層であることが分かった.また,貫入岩類の観察の結果,流紋岩~安山岩質の岩体がNW-SE方向の小断層に切られていることを見出した.反対に,貫入岩体が小断層を切っている露頭は無かった.貫入岩体を切る小断層のデータを解析したところ,応力比の低いNNE-SSW引張の正断層型応力が検出された.この応力は,地質図規模の断層群で観察されるすべり方向と整合的であった.以上の結果は,天草地域で14‒16 Maの火成活動以降に筑豊型構造ができたことを示す.
湯谷湾地域では,筑豊型構造に参加する最上位層の堆積年代は約14 Maで,これが7.8~10.4 Maの玄武岩に覆われる(尾崎ほか, 2006).宍道褶曲帯は12 Ma頃から成長を始めるので(e.g., Kim et al. 2020),Langhian期末~Serravallian期に山口県付近から天草までのNWトレンドの正断層群が活動したのだろう.この時期,山陰東部もσ3軸がNE-SW方向の伸張応力場にあったが,そこでは断層活動をおこすほど強い応力ではなかった(Haji & Yamaji, 2021).NWトレンドの正断層は島根県浜田以西にできている(Okamura, 2016).つまり山陰から九州中部にかけて応力勾配があったらしい.こうした勾配は,西南日本の外帯火成活動に続いて沖縄トラフをつくることになる伸張テクトニクスが,ローカライズしていったことの表現として理解できるのではなかろうか.
【引用文献】 Haji & Yamaji, 2021, Island Arc, 30, e12412; 濱崎ほか, 1996, 地調月報, 47, 201‒207; Kim et al., 2020, Basin Res., 32, 613–635; 松下, 1949, 九大理研報(地質学), 3, 1‒57; 松下, 1967, 九大理研報(地質学), 8, 181‒189; 松下, 1971, 九大理研報(地質学), 11, 1‒16; 永尾, 1992, 岩鉱, 87, 283‒290; Okamura, 2016, Island Arc, 25, 287–297; 尾崎, 2013, 海域シームレス地質情報集「福岡沿岸域」,産総研地質調査総合センター; 尾崎ほか, 2006, 仙崎地域の地質,5万分の1地質図幅,産総研地質調査総合センター; 斎藤ほか, 2010, 20万分の1地質図幅「八代および野母崎の一部」, 地質調査所; 高井ほか, 1997, 天草炭田地質図説明書,地質調査所.
天草地域にも始新統を切るNW-SE方向の断層群が多数存在し,それらを松下(1951)は筑豊型構造,すなわち正断層としているが,高井ほか(1997)は横ずれ断層としている.しかし,いずれも判断の根拠を示しておらず,活動時期も不明であった.そこで,本研究で新しく天草下島北西部の地質図を作成し,また,同断層群のすべり方向を検討した.さらにまた,断層の活動時期を制約するため,天草全域で中期中新世(14‒16 Ma)の流紋岩~安山岩質の貫入岩類(永尾ほか, 1992; 濱崎ほか, 1996)を観察し,露頭規模の変形構造を調べた.
結果として,調査地域で約30条のNW-SE方向の地質図規模の断層を今回認定した.その中の14条で条線が観察でき,NW-SE方向の断層は正断層であることが分かった.また,貫入岩類の観察の結果,流紋岩~安山岩質の岩体がNW-SE方向の小断層に切られていることを見出した.反対に,貫入岩体が小断層を切っている露頭は無かった.貫入岩体を切る小断層のデータを解析したところ,応力比の低いNNE-SSW引張の正断層型応力が検出された.この応力は,地質図規模の断層群で観察されるすべり方向と整合的であった.以上の結果は,天草地域で14‒16 Maの火成活動以降に筑豊型構造ができたことを示す.
湯谷湾地域では,筑豊型構造に参加する最上位層の堆積年代は約14 Maで,これが7.8~10.4 Maの玄武岩に覆われる(尾崎ほか, 2006).宍道褶曲帯は12 Ma頃から成長を始めるので(e.g., Kim et al. 2020),Langhian期末~Serravallian期に山口県付近から天草までのNWトレンドの正断層群が活動したのだろう.この時期,山陰東部もσ3軸がNE-SW方向の伸張応力場にあったが,そこでは断層活動をおこすほど強い応力ではなかった(Haji & Yamaji, 2021).NWトレンドの正断層は島根県浜田以西にできている(Okamura, 2016).つまり山陰から九州中部にかけて応力勾配があったらしい.こうした勾配は,西南日本の外帯火成活動に続いて沖縄トラフをつくることになる伸張テクトニクスが,ローカライズしていったことの表現として理解できるのではなかろうか.
【引用文献】 Haji & Yamaji, 2021, Island Arc, 30, e12412; 濱崎ほか, 1996, 地調月報, 47, 201‒207; Kim et al., 2020, Basin Res., 32, 613–635; 松下, 1949, 九大理研報(地質学), 3, 1‒57; 松下, 1967, 九大理研報(地質学), 8, 181‒189; 松下, 1971, 九大理研報(地質学), 11, 1‒16; 永尾, 1992, 岩鉱, 87, 283‒290; Okamura, 2016, Island Arc, 25, 287–297; 尾崎, 2013, 海域シームレス地質情報集「福岡沿岸域」,産総研地質調査総合センター; 尾崎ほか, 2006, 仙崎地域の地質,5万分の1地質図幅,産総研地質調査総合センター; 斎藤ほか, 2010, 20万分の1地質図幅「八代および野母崎の一部」, 地質調査所; 高井ほか, 1997, 天草炭田地質図説明書,地質調査所.