日本地質学会第129年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

T13.[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域

[3oral413-19] T13.[トピック]都市地質学:自然と社会の融合領域

2022年9月6日(火) 13:30 〜 15:30 口頭第4会場 (14号館401教室)

座長:中澤 努(産業技術総合研究所)、小島 隆宏(千葉県環境研究センター)

14:45 〜 15:00

[T13-O-17] 房総半島九十九里平野中部における上ガスの分布と噴出状況について:2009~2022年の調査結果

*風岡 修1、小島 隆宏1、伊藤 直人1、八武崎 寿史1、吉田 剛1、香川 淳1 (1. 千葉県環境研究センター地質環境研究室)

キーワード:メタンガス、九十九里平野、上総層群、アーバン地域、災害

はじめに:
 人間活動が営まれているアーバン地域では,自然現象と人為活動が相まって,さまざまな災害が発生することがある.国内の第四紀層が分布する地域の中には,天然ガスの噴出現象である「上ガス」(以下「上ガス」と呼ぶ)により,農作物被害や構造物での火災・爆発が生ずることが,新潟県,北海道,千葉県などで報告されている.これらの発生場所の多くは,水溶性天然ガス田上である.
 上ガスの発生状況の調査から,戦後の復興のため水溶性天然ガス田の発見やその開発につながってきた(金原ほか,1949;品田ほか,1951).
 2000年代に入る頃より,房総半島の九十九里平野中央部の東金市,大網白里市,九十九里町を中心に,水田の農作物被害やガス爆発事故が報告されたため,この地域での上ガスの発生状況が調べられてきた(風岡ほか,2006;風岡ほか,2021など).今回は,本格的に噴出量も含めて現地調査が行なわれた2009年から2022年春の調査までの対象地域全域の調査結果について,250 mの行政メッシュを利用しまとめた結果を報告する.
調査・集計方法:
 毎年4月~6月初旬に水田や河川・池などの水域において,場所を変えながらガスの噴出地点と噴出量を観察した.水が張られた水田において,噴出ガスの泡1つが約1 mLであることを水上置換法の測定により確認した.これを利用して,1 m2あたり1秒間に何個の気泡が噴出しているのかを観察し,噴出量を見積もっている.ガス噴出が見られた際には,10秒間に噴出する気泡の個数を同じ場所に対して3回調べ,ほぼ同数となることを確認し,その位置と噴出量を記録した.ガス噴出のタイプについては,次のように区分した.ガスが出ていないが噴出孔がみられるものをCタイプ,噴出孔から数秒または数分ごとに断続的に出るものをBタイプ,連続的にガスが噴出しているものをAタイプとした.さらに,Aタイプについては,1 m2あたり1秒間にガスの気泡が1~2個噴出しているものをA1タイプ,3~7個噴出しているものをA2タイプ, 8~20個噴出しているものをA3タイプ, 21個以上噴出しているものをA4タイプとした(風岡ほか,2020).集計にあたっては,1メッシュの中で1/4以上の面積の調査を行ったメッシュについて集計を行った.
調査結果:
 1メッシュあたり0.5 L/sec以上のガス噴出量が多いメッシュが塊となっている部分が複数箇所にみられた.特に北西部において多数みられ,上総層群の大局的な走向方向である北東方向に連なっていることが明らかとなった.一番面積の大きな塊は,東金市福俵~大網白里市清名幸谷である.
 調査地域全体で見つかった上ガスの総発生量は,418.104L/sec.日量に換算すると36,124m3/day であった.これは,千葉県内での2018年度における水溶性天然ガスのガス採取量である1,126,485m3/day(九十九里地域地盤沈下対策協議会,2020)の約3.2%である.また,調査対象の3市町における同年度のガス採取量である124,555m3/dayの約29%にも達していることが明らかとなった.
引用文献:
風岡 修・風戸孝之・笠原 豊・楠田 隆,2006,地質汚染-医療地質-社会地質学会誌,2巻,82 - 91. 
風岡 修・伊藤直人・潮﨑翔一・吉田 剛・荻津 達,2020,千葉県環境研究センター年報,令和元年度版,6P.https://www.pref.chiba.lg.jp/wit/chishitsu/nenpou/ documents/ar2019chishitsu011.pdf 
風岡 修・小島隆宏・伊藤直人・香川 淳・荻津 達・八武崎寿史・吉田 剛,2021,第31回環境地質学シンポジウム論文集,9-12.
金原均二・大山 桂・小野 暎・伊田一善・本島公司・石和田靖章・品田芳二郎・牧野登喜男・三梨 昂・安國 昇,1949,石油技誌,vol.14,245 - 274. 
九十九里地域地盤沈下対策協議会,2020,天然ガス採取の現状と地盤沈下の防止対策 令和元年度版,九十九里地域地盤沈下対策協議会事務局,58P.  
品田芳二郎・牧 真一・高田康秀・大森えい,1951,石油技誌,16巻,312-326.