[J-P-12] ヘリコプリオンの顎部ロボ化石から生態を紐解く
★日本地質学会ジュニアセッション優秀賞 受賞★
石井陽凪、石川采燈
はじめに
ヘリコプリオンHelicoprionは、ペルム紀に生息していた軟骨魚類の絶滅種で、全頭亜綱エウゲネオドゥス目に所属すると考えられている。
本種は下顎の正中線上に1列の螺旋状の歯板を持ち、現生の脊椎動物には見られない特徴を持つ。Ramsay et al. (2015)によれば螺旋状の歯板を持つ下顎を周期的に開閉することにより、獲物を捕獲、切断、のどへ押し込む機能を果たしていた可能性を示唆した。しかし、生体力学的モデルは示されているものの、螺旋状の歯板の機能に関するアナログモデルの検証が行われていない。
そこで本研究では、先行研究によるヘリコプリオンの顎の形態モデルと歯板の実物化石の観察を元にしたロボットを製作し、現生脊椎動物では見られない螺旋状の歯板の機能をアナログ実験の観点から明らかにする研究を進めている。本講演では、第一段階として捕食時の口の動きに注目し、獲物をどのように捕食していたのか、実際に餌と代替となる生物を噛ませ実験・考察を行った。
材料と方法
顎の復元は、Tapetta et al. (2013)のCT画像を用いた復元図を元に製作を行った。ただし、圧密作用などにより左右に潰れていると考え、ウナギ目ハモを参考に喉を広げたロボットを作成した。これはハモの口蓋部に1列の大きな鋤骨歯が正中線上に見られ、下顎に1列の歯板が見られるヘリコプリオンと類似していると考えたためである.また、捕食時に獲物を吸引していたと考え、喉部にポンプを装着した。
歯の復元は切れ味が必要となる歯本体を工学的に再現することは困難であるため、現存し、化石と歯の形状が比較的近いく入手しやすいヨロイザメの歯を装着する方式とした。
比較のための実物標本は、城西大学大石化石ギャラリーにて展示されているロシア産の標本を参考にした。本標本は地質学的な作用による変形も少なく、歯の鋸歯も保存されている状態の良い標本である。
餌の代替となる生物は、キホウボウ、ホタルイカ、ハダカイワシ、メバルなどを用いた。
結果とまとめ
キホウボウ,ホタルイカ,ハダカイワシなど復元した顎のサイズより小さい餌については捕獲、切断、喉への押し込みが可能であった.一方,メバルなど顎のサイズより大きな餌については、傷はつけられたものの切断が困難であった。
水中で実際に餌を切ることで、ヘリコプリオンが何を食べたのかを検討する為の顎部の再現では、一般的に想像される水中ロボットとは多少異なるが、本研究を発端により水中工学や古生物学など分野横断型の成果物が集まる場になるものと考える。
謝辞
本研究ではAFK研究所合同会社で試作したヘリコプリオンの下顎の形態モデルを基本としている。工学部分は石川采燈氏(東京海洋大学)が開発を行った。古生物学的な解釈や検討は城西大学大石化石ギャラリーの宮田真也博士から助言を頂いた。また,実験や検討を以上の方々と共同で行った。この場を借りて感謝申し上げます
Ramsay, J. B., Wilga, C. D., Tapanila, L., Pruitt, J., Pradel, A., Schlader, R., and Didier, D. A. (2015). Eating with a saw for a jaw: Functional morphology of the jaws and tooth‐whorl in Helicoprion davisii. Journal of Morphology, 276(1), 47-64.
Tapanila, L., Pruitt, J. , Pradel, A. , Wilga, C.D. , Ramsay, J.B. , Schlader, R., and ,Didier, D.A. (2013) Jaws for a spiral-tooth whorl: CT images reveal novel adaptation and phylogeny in fossil Helicoprion. Biology Letters 9 (2): 20130057. doi:10.1098/rsbl.2013.0057.
はじめに
ヘリコプリオンHelicoprionは、ペルム紀に生息していた軟骨魚類の絶滅種で、全頭亜綱エウゲネオドゥス目に所属すると考えられている。
本種は下顎の正中線上に1列の螺旋状の歯板を持ち、現生の脊椎動物には見られない特徴を持つ。Ramsay et al. (2015)によれば螺旋状の歯板を持つ下顎を周期的に開閉することにより、獲物を捕獲、切断、のどへ押し込む機能を果たしていた可能性を示唆した。しかし、生体力学的モデルは示されているものの、螺旋状の歯板の機能に関するアナログモデルの検証が行われていない。
そこで本研究では、先行研究によるヘリコプリオンの顎の形態モデルと歯板の実物化石の観察を元にしたロボットを製作し、現生脊椎動物では見られない螺旋状の歯板の機能をアナログ実験の観点から明らかにする研究を進めている。本講演では、第一段階として捕食時の口の動きに注目し、獲物をどのように捕食していたのか、実際に餌と代替となる生物を噛ませ実験・考察を行った。
材料と方法
顎の復元は、Tapetta et al. (2013)のCT画像を用いた復元図を元に製作を行った。ただし、圧密作用などにより左右に潰れていると考え、ウナギ目ハモを参考に喉を広げたロボットを作成した。これはハモの口蓋部に1列の大きな鋤骨歯が正中線上に見られ、下顎に1列の歯板が見られるヘリコプリオンと類似していると考えたためである.また、捕食時に獲物を吸引していたと考え、喉部にポンプを装着した。
歯の復元は切れ味が必要となる歯本体を工学的に再現することは困難であるため、現存し、化石と歯の形状が比較的近いく入手しやすいヨロイザメの歯を装着する方式とした。
比較のための実物標本は、城西大学大石化石ギャラリーにて展示されているロシア産の標本を参考にした。本標本は地質学的な作用による変形も少なく、歯の鋸歯も保存されている状態の良い標本である。
餌の代替となる生物は、キホウボウ、ホタルイカ、ハダカイワシ、メバルなどを用いた。
結果とまとめ
キホウボウ,ホタルイカ,ハダカイワシなど復元した顎のサイズより小さい餌については捕獲、切断、喉への押し込みが可能であった.一方,メバルなど顎のサイズより大きな餌については、傷はつけられたものの切断が困難であった。
水中で実際に餌を切ることで、ヘリコプリオンが何を食べたのかを検討する為の顎部の再現では、一般的に想像される水中ロボットとは多少異なるが、本研究を発端により水中工学や古生物学など分野横断型の成果物が集まる場になるものと考える。
謝辞
本研究ではAFK研究所合同会社で試作したヘリコプリオンの下顎の形態モデルを基本としている。工学部分は石川采燈氏(東京海洋大学)が開発を行った。古生物学的な解釈や検討は城西大学大石化石ギャラリーの宮田真也博士から助言を頂いた。また,実験や検討を以上の方々と共同で行った。この場を借りて感謝申し上げます
Ramsay, J. B., Wilga, C. D., Tapanila, L., Pruitt, J., Pradel, A., Schlader, R., and Didier, D. A. (2015). Eating with a saw for a jaw: Functional morphology of the jaws and tooth‐whorl in Helicoprion davisii. Journal of Morphology, 276(1), 47-64.
Tapanila, L., Pruitt, J. , Pradel, A. , Wilga, C.D. , Ramsay, J.B. , Schlader, R., and ,Didier, D.A. (2013) Jaws for a spiral-tooth whorl: CT images reveal novel adaptation and phylogeny in fossil Helicoprion. Biology Letters 9 (2): 20130057. doi:10.1098/rsbl.2013.0057.