129th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Poster

G1-1.sub-Session 01

[7poster19-28] G1-1.sub-Session 01

Sat. Sep 10, 2022 10:30 AM - 12:30 PM poster (poster)

[G1-P-1] (Entry)Constraints on slip behavior for a cataclastic zone within a fossil sesimogenic fault in an exhumed accretionary complex: the Yokonami mélange, the Cretaceous Shimanto Belt, Shikoku

★「日本地質学会優秀ポスター賞」9/10受賞★

*mako kawaji1, Yoshitaka Hashimoto1, Yohei Hamada2 (1. kochi university, 2. JAMSTEC)


Keywords:subduction zone, accretionary complex, slow earthquake, seismogenic fault

●はじめに
 近年,地球物理学的手法により発見されたスロー地震は,汎世界的な現象であることが明らかとなり,スロー地震と巨大地震との関連が注目されている. しかし,スロー地震を発見した地球物理学的観測では空間的な相互作用を理解することが困難であり,空間分解能が高い地質学的手法によってスロー地震の化石を認定することが鍵となるが,決定的な証拠は発見されていない.
 そこで,本研究では巨大地震とスロー地震の断層岩が共存していることの認定を目指し, 陸上付加体において石英がゆっくりと変形した痕跡を示す結晶塑性変形組織が見られる巨大地震の化石を含む断層を対象に,石英が遅い変形を起こした際の被熱温度とすべり挙動の定量化を目的とした.
●地質概説
 対象の断層は,四国白亜系四万十帯に属する横浪メランジュの北縁断層である五色ノ浜断層で,およそ2 mmの断層帯である.個々の断層には,厚さ約20 cmの破砕帯を伴うものがあり,破砕帯中を厚さ約1 mmの断層が切っている.この断層には摩擦発熱による溶融を示すシュードタキライトが見られ,過去の地震断層と認定される.また,母岩のメランジュの過去の最高被熱温度はビトリナイト反射率によって約250 ℃と報告されている(Sakaguchi, 1999).
●手法・結果
 まず,塑性変形した石英のバルジの粒径を測定し変形温度に変換するStipp et al. (2002)の手法を採用し分析を行った.この結果,推定された変形温度は299 ~324 ℃と母岩の過去の最高温度よりも有意に高く,温度分布は測定範囲内(断層中心から約15 mm)で一定の値を示した.
 次に,発熱帯の厚さとすべり速度の条件を複数設定して摩擦熱による熱拡散パターンの時間変化をシミュレーションし,石英の粒径から推定された温度分布に適合するすべり速度とすべり時間を拘束した.この結果,発熱帯が1 mmの場合にはすべり速度が10-5 m/sですべり時間が104 s,発熱帯が20 cmの場合にはすべり速度が10-1-10-6 m/sですべり時間が100-107 sと広い範囲で許容された.
 より精度の高い制約を行うため,破砕帯に隣接する未変形砂岩ブロックの母岩でビトリナイト反射率(Ro) を測定したところ距離に応じたRo の減少パターンが見られた.この現象パターンと試料の熱物性を用いて,Hamada et al. (2015)の手法で摩擦熱による温度推移を再構築した.数値計算では,ビトリナイトの反応速度と断層からの距離による温度の時間発展を組み合わせ,最適なQ(単位面積・単位時間あたりの熱量)とtr(すべり継続時間)を求めた.この結果,発熱帯の厚さは20cm,すべり時間は1034 s,単位発熱量は10443 J/m2/sと制約され,この時のすべり速度はおよそ10-4 m/sと推定された.
 また,熱源が摩擦発熱ではなく高温流体によるものである可能性を考慮し,メランジュ相母岩と未変形砂岩ブロックの母岩,破砕帯,断層のXRD分析を行い,RockJockを用いて,それぞれの鉱物組成とそこから推定される化学組成を求めた.この結果,破砕帯はメランジュ由来のものであることがわかり,易水溶性で岩石―流体間反応で減衰するSiがメランジュ相母岩,破砕帯,断層で不動性のAlと相対的にほとんど同じ割合で含まれていた.よって,流体の影響は小さく,塑性変形した石英やビトリナイトが記録している変形温度は摩擦発熱によるものと推測された.
●議論
 これまでに物理学的に観測されている地震のデータから,地震の規模Moとすべり時間Tdにスケーリング則が見られ,通常地震とスロー地震ではMoとTdの関係が異なるトレンドを持つことが既に明らかとなっている(Ide et al., 2007). このMoを,単位面積・単位時間あたりの熱量Qに変換し,地球物理学的手法によって過去に観測されたスロー地震と本研究の結果を比較したところ,本研究で得られた値はスロー地震に対するスケーリング則(Ide et al., 2007)と一致した.
 以上のことから,対象の地震断層の破砕帯が過去にスロー地震の化石である可能性があり,同一断層で巨大地震とスロー地震が共存しうることが示唆された.
 ただし,さらに精度高く岩石―流体間反応を考慮するために,今後はXRFやICP-MSによって追加の分析を行う必要がある.また,現在までに推定された温度構造の確度を高めるため,ラマン分光法による分析も行う予定である.
●引用
①Sakaguchi, A., 1999, Earth and Planetary Science Letters
②Stipp, M et al., 2002, Journal of Structural Geology
③Hamada, Y et al., 2015, Earth Planet and Space
④Ide, S et al., 2007, Nature