[G1-P-4] Strain analysis of low-grade metamorphic rocks of the Sanbagawa belt in the Kahada area, central Kii Peninsula, SW Japan
Keywords:Sanbagawa (Sambagawa) belt, central Kii Peninsula, low-grade metamorphism, ductile deformation, strain analysis, detrital grain
【はじめに】高圧変成岩類が分布する三波川帯に関する既存研究は,深部情報を記録した高変成度域を中心になされてきた.一方で,三波川帯の大部分は低変成度域が占めるとともに,近年では,その形成場は地震発生領域であるモホ面付近であることが指摘されており(Kouketsu et al. 2020),低変成度域の研究は三波川帯の包括的理解や沈み込み境界における諸現象の究明に重要である.ただし,三波川帯は低変成度域を含めて上昇時に複数回の延性変形を被っており(e.g. Wallis et al. 1992),沈み込み時の状態復元には,これら上昇期の変形影響,特に普遍的に発達する主片理面を形成した上昇初期の変形評価は欠かせない.近年,Yamaoka & Wallis(2022)は,紀伊半島中央部の低変成度域において,砕屑性粒子を用いた歪解析による変形評価を実施している.ただし同研究は,中央構造線近傍域での主片理面を基準としたXZ面のみの解析であり,より大局的な傾向把握や,高変成度域で実施された三次元解析(Moriyama & Wallis 2002)との比較にはデータが不十分である.そこで本研究では,紀伊半島中央部・香肌地域のMTL近傍(北限域)から秩父帯との境界付近(南限域)までを対象に,XZ面とYZ面に関する三次元的な歪解析を行った.
【地質概要】香肌地域の三波川帯(e.g. 西岡ほか 2010)には,北から南に,粥見コンプレックス,波瀬コンプレックス,蓮コンプレックス,および迷岳コンプレックスが分布する(Jia & Takeuchi 2020).大局的には北ほど粒径が大きく,主片理面の発達が顕著になるとともに,粥見コンプレックスのみに主片理面を曲げる微細褶曲の普遍的な発達が認められる.また今回,変成度把握のために実施した炭質物ラマン温度計(Kouketsu et al. 2014)による最高被熱温度推定では,粥見コンプレックスで約310〜400 °C,波瀬コンプレックスで約300〜310 °C,蓮コンプレックスで約250〜300 °C,迷岳コンプレックスで約250〜300 °Cが得られた.
【歪解析手順】砕屑性の石英・斜長石粒子を歪マーカーとして,長軸/短軸比(Rf)および長軸方向と片理面のなす角(φ)を計測した後,Rf-φ法による粒子形状と変形の相関関係の検討,Harmonic mean法による歪楕円の楕円率(Rs)の算出,Flinn図に基づく歪量および歪タイプの検討を行った.
【鉱物種の比較】鉱物種ごとのXZ面とYZ面のRs値(以下では,それぞれRs(XZ)とRs(YZ)とする)は,石英でRs(XZ) = 1.5〜2.9とRs(YZ) = 1.4〜1.9,斜長石でRs(XZ) = 1.4〜2.0とRs(YZ) = 1.4〜1.7を示す.また,Rs値の空間分布の大局的な特徴としては,XZ面では石英の方が斜長石よりも地点間の変化が大きい一方,YZ面では石英・斜長石ともに地点間の変化は乏しい.また,Rf-φ図においても,石英のXZ面のみに分布形態の差が試料間で認められる.本地域の変成温度が400 °C以下であることを考慮すると,この鉱物ごとの挙動の違いは変形に対する鉱物間の強度差に起因するとともに,本研究で着目する延性変形履歴は石英のみに記録されていることを示唆する.
【空間変化と高変成度域との比較】試料間の差が最も大きかった石英のRs(XZ)値に関しても,コンプレックス境界をまたいで顕著な変化は認められない.また,主片理面を曲げる上昇後期の変形を強く被った際にYZ面上の粒子形状影響が生じる可能性が指摘されているが(Moriyama & Wallis 2002),石英のRs(YZ)値に関して主片理面を曲げる微細褶曲が発達する粥見コンプレックスを含めほぼ一定の値を示す.これらは,主片理面形成後の変形作用ではコンプレックス境界を含め大規模な地質構造改変は生じなかったことを示し,隣接地域の研究結果(Yamaoka & Wallis 2022)とも整合的である.一方,本研究で得られた解析結果をFlinn 図上にプロットすると,歪タイプとしては高変成度域の解析結果(Moriyama & Wallis 2002)と同様にflattening strain領域に分布する一方で,高変成度域よりも明瞭に原点側に偏っており歪量は小さい.このことは,三波川帯上昇初期における延性変形時の歪量が,変成度に依存していた可能性を示す.
【引用文献】Kouketsu et al., 2014, Island Arc; Kouketsu et al., 2020, JMG; Moriyama & Wallis, 2002, Island Arc; 西岡ほか, 2010, 産総研・地調; Wallis et al. 1992, Island Arc; Yamaoka & Wallis, 2022, Island Arc.
【地質概要】香肌地域の三波川帯(e.g. 西岡ほか 2010)には,北から南に,粥見コンプレックス,波瀬コンプレックス,蓮コンプレックス,および迷岳コンプレックスが分布する(Jia & Takeuchi 2020).大局的には北ほど粒径が大きく,主片理面の発達が顕著になるとともに,粥見コンプレックスのみに主片理面を曲げる微細褶曲の普遍的な発達が認められる.また今回,変成度把握のために実施した炭質物ラマン温度計(Kouketsu et al. 2014)による最高被熱温度推定では,粥見コンプレックスで約310〜400 °C,波瀬コンプレックスで約300〜310 °C,蓮コンプレックスで約250〜300 °C,迷岳コンプレックスで約250〜300 °Cが得られた.
【歪解析手順】砕屑性の石英・斜長石粒子を歪マーカーとして,長軸/短軸比(Rf)および長軸方向と片理面のなす角(φ)を計測した後,Rf-φ法による粒子形状と変形の相関関係の検討,Harmonic mean法による歪楕円の楕円率(Rs)の算出,Flinn図に基づく歪量および歪タイプの検討を行った.
【鉱物種の比較】鉱物種ごとのXZ面とYZ面のRs値(以下では,それぞれRs(XZ)とRs(YZ)とする)は,石英でRs(XZ) = 1.5〜2.9とRs(YZ) = 1.4〜1.9,斜長石でRs(XZ) = 1.4〜2.0とRs(YZ) = 1.4〜1.7を示す.また,Rs値の空間分布の大局的な特徴としては,XZ面では石英の方が斜長石よりも地点間の変化が大きい一方,YZ面では石英・斜長石ともに地点間の変化は乏しい.また,Rf-φ図においても,石英のXZ面のみに分布形態の差が試料間で認められる.本地域の変成温度が400 °C以下であることを考慮すると,この鉱物ごとの挙動の違いは変形に対する鉱物間の強度差に起因するとともに,本研究で着目する延性変形履歴は石英のみに記録されていることを示唆する.
【空間変化と高変成度域との比較】試料間の差が最も大きかった石英のRs(XZ)値に関しても,コンプレックス境界をまたいで顕著な変化は認められない.また,主片理面を曲げる上昇後期の変形を強く被った際にYZ面上の粒子形状影響が生じる可能性が指摘されているが(Moriyama & Wallis 2002),石英のRs(YZ)値に関して主片理面を曲げる微細褶曲が発達する粥見コンプレックスを含めほぼ一定の値を示す.これらは,主片理面形成後の変形作用ではコンプレックス境界を含め大規模な地質構造改変は生じなかったことを示し,隣接地域の研究結果(Yamaoka & Wallis 2022)とも整合的である.一方,本研究で得られた解析結果をFlinn 図上にプロットすると,歪タイプとしては高変成度域の解析結果(Moriyama & Wallis 2002)と同様にflattening strain領域に分布する一方で,高変成度域よりも明瞭に原点側に偏っており歪量は小さい.このことは,三波川帯上昇初期における延性変形時の歪量が,変成度に依存していた可能性を示す.
【引用文献】Kouketsu et al., 2014, Island Arc; Kouketsu et al., 2020, JMG; Moriyama & Wallis, 2002, Island Arc; 西岡ほか, 2010, 産総研・地調; Wallis et al. 1992, Island Arc; Yamaoka & Wallis, 2022, Island Arc.