129th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Poster

G1-1.sub-Session 01

[7poster19-28] G1-1.sub-Session 01

Sat. Sep 10, 2022 10:30 AM - 12:30 PM poster (poster)

[G1-P-7] The time-space distribution in Kamikochi Earthquake Swarm and Fault System Part2; Reconsideration of 1998 and 2020

*Tatsuro Tsugane1 (1. Shinshu Univ.)


Keywords:3D fault model, Kamikochi Fault, geofluid, Conrad discontinuity, deep low frequency earthquakes

■はじめに
 2020年4月から始まった上高地群発地震について,津金(2021)は2021年8月20までのデータを用い,同地域で発生した1998年8月からの群発地震とその活動推移を比較・検討した.その結果,群発地震は3D震源分布から判読できる10以上の断層(東西走向)での連鎖的な本震-余震活動として認識でき,微小地震数が群発開始以前に比べ十分減少していないことから活動はまだ終息していないとした.また,1998年群発地震で最大マグニチュード(M5.6)を記録した槍ヶ岳以北で規模の大きな地震が起きていない事を指摘した.
 その後2021年9月19日に槍ヶ岳西方(2㎞)でM5.3の地震が発生した(919地震と呼ぶ).初秋の北アルプスは好天で多数の登山者が訪れており,地震発生時の落石や崩壊を捉えた多くの動画がweb上で確認できる.報道では落石によるけが人の報告があるが,誰も亡くならなかったのは幸運でしかない.

■新たな地震と南北走向断層の判読
 9月19日は槍ヶ岳西方から西穂高岳付近まで,震度1以上の16回の地震が発生したが(気象庁震度データベース検索),M4以上の震源を見ると2時間半ほどで,北から南へ震央距離8㎞の間で震源深度が次第に深くなるという特徴があった.その後の余震も含めて3D震源分布から全体では南北11kmで垂直に近い(やや西傾斜)の断層面と認識した.2020年5月にはこの断層面南部付近でM4.4~5.4の4度の地震が発生していたが,この時は余震が少なかったため,これらが同一断層か並行(雁行)する別断層によるものか判断しづらい.しかし南北走向の活動的な断層が北アルプス主稜線近くに存在するのは確かである.1998年群発地震でもこの断層面の中北部付近でM4以上の7回の地震が発生していた.なお,この断層面(南北走向)は上高地付近に並行して存在する断層面(東西走向)を切らない.

■活断層との関係
 東西系の断層面の一部は地表に延長すると上高地断層(井上・原山,2012・本合ほか,2015)と一致する(津金,2021).この付近の南北走向の活断層は,上高地黒沢断層と徳本峠断層(本合ほか,2015),屏風岩断層(本合ほか,2017),境峠断層があるが,位置的にこれら既知の活断層には全く対応しない.

■活動推移の比較
 [1998年/2020年]群発地震を発生から2年間で比較する.総観測地震は設定範囲(30km以浅)で[7675/49281]回,極微小な地震を除いたM1以上の地震回数は[3919/7827]回.2年目の1年間での地震数増加率は全地震[11.4/17.3]%,M1以上[5.4/14.7%]であった.最大Mは[5.6/5.5]と1998年の方が大きいが,2年目は最大Mは[3.1/5.3]である.総地震エネルギーをM換算すると,[5.757/5.914]となり,2020年は1998年の約1.7倍である.1998年群発地震は2年目中には完全に終息したとみられる(津金,2021).2020年群発地震の微小地震の発生数は群発開始前ほどまでは減っていないが(2022年6月時点),919地震前と比べれば格段に低下してきており,ようやく終息に向かいそうだ.ただし,群発域と設定した最北部の野口五郎岳付近での大きな地震は1998年群発地震では発生したが(最大M4.9)が2020年群発地震では発生していない.この付近は鷲羽・雲の平DHC(後述)近傍であるため,DHCとの関係を議論するなら野口五郎岳付近の地震は上高地群発地震と区別するべきかもしれない.

■20㎞以深を震源とする地震と群発地震の関係
 津金(2021)は活火山近傍の15㎞以深で地震の発生する領域を深部震源クラスター(DHC)と呼び,焼岳DHC(深度20-40km前後)での地震活動と群発地震(15km以浅)の関係を考察した.2020年群発地震開始の1年ほど前からDHCでの地震が増加しており,群発開始後はDHCでの地震の増加に対応してその1-2か月後に群発地震が活発化している可能性を示した.919地震は2021年3月下旬から6月中旬のDHCでの地震活動と対応しているように見える.また,2022年4月頃のDHCの地震活動が再び群発地震につながるのか注視しているところである.なおDHCは活火山周辺の深部低周波地震として認識されている(小菅ほか,2017など)ものである.

◇文献
本合弘樹・井上 篤・原山 智(2015)地質学会演旨
本合弘樹・井上 篤・原山 智(2017)地質学会演旨
井上 篤・原山 智(2012)地理学会演旨
小菅正裕・野呂康平・増川和真(2017)地震研究所彙報
津金達郎(2021)地質学会演旨

震源データは気象庁地震月報,気象庁一元化処理震源要素による.