[G1-P-8] (Entry) Petrological characteristics and their spatial variations of the Ryoke mylonitic rocks nearby the Median Tectonic Line in central Kii Peninsula, SW Japan
Keywords:Median Tectonic Line, Ryoke belt, mylonite, mineral assemblages
日本陸上最大の断層である中央構造線(MTL)近傍の領家帯には,マイロナイト化が進行した岩石(以下,マイロナイト類)がMTLに沿って分布する.これらは深さ約10〜15 kmにおける断層活動の情報を記録した岩石であるとされており(Wibberley and Shimamoto, 2003),MTLの深部断層活動履歴を考える上で重要である.特に,紀伊半島中央部では,MTLに近づくにつれてのマイロナイト化の系統的な変化が明瞭に認められ,数多くの研究がなされてきた(e.g. 高木,1985;Shigematsu et al., 2012).また,同地域内では,鉱物組み合わせに関してもMTLに近づくにつれての系統的な空間変化が認められ,MTLの断層運動との関連性が示唆されている(Jefferies et al., 2006).ただし,これらの研究はいずれも原岩が同一のマイロナイト類(畑井トーナル岩起源)を対象とするとともに,再結晶石英粒径に基づくマイロナイト分類(変形作用の影響)と鉱物組み合わせの詳細な空間的関係性の議論は数百m以内の狭いエリアに限られており,その広域的な一般性が期待される.そのため,原岩の異なる領域を含むより広域的な検討は,変形過程と構成鉱物の関係性,さらには,MTL深部断層運動の一般化モデルの構築には欠かせない基礎情報となるが,未だ明らかではない.
そこで今回,紀伊半島中央部・高見山地域〜丹生地域のMTL近傍・領家帯(南北約2 km以内および東西約40 km)において,異なる原岩起源の領域(東から西に畑井トーナル岩,御杖花崗閃緑岩,および草鹿野アダメロ岩)をまたいで再結晶石英粒径(マイロナイト分類)と鉱物組み合わせの空間変化を検討した.
本研究では,畑井トーナル岩,御杖花崗閃緑岩,および草鹿野アダメロ岩を原岩とするマイロナイト類について,約150試料の岩石薄片を作成し,偏光顕微鏡観察を行った.いずれの原岩起源の領域でも,MTLに近づくにつれての細粒化が認められる一方で,草鹿野アダメロ岩を原岩とする調査地域の西側はMTL最近傍でも比較的粗粒で,ウルトラマイロナイトは確認されない.鉱物組み合わせに関しては,変形の影響が少ないMTLから離れた地域では,主要構成鉱物は石英,斜長石,アルカリ長石,黒雲母,白雲母,および,緑泥石であり,畑井トーナル岩のみ角閃石を主要構成鉱物として含む.鉱物組み合わせの空間変化としては,いずれの原岩起源のものであっても,MTL近傍約200 m以内で黒雲母が確認できなくなる一方で,石英,斜長石,アルカリ長石,白雲母,緑泥石は普遍的に認められる.
MTLに近づくにつれての系統的な細粒化とMTL近傍のみでの黒雲母の消滅が,原岩の違いに関わらず共通して認められたことは,鉱物組み合わせの空間変化がMTLの断層運動に起因することを強く支持する.また,MTL最近傍において緑泥石が存在することに加え,MTLからある程度離れた地域では黒雲母の部分的な緑泥石化が認められることを考慮すると,MTL近傍にあった黒雲母は緑泥石化により消滅したと考えられる.さらに,本研究において,黒雲母に脆性剪断組織の発達が顕微鏡観察から認められたことに加えて,これまでの研究から,MTLに近づくにつれて低温型への石英のc軸ファブリック転移が認められること(島田ほか,1998),および,MTL近傍で熱水変質による鉱物の存在が認められること (e.g. Shigematsu et al., 2012) を考慮すると,MTL近傍における緑泥石化の卓越は,比較的低温化での変形作用による脆性剪断組織の発達と熱水による変質の促進に起因すると推察される.
【引用文献】 Jefferies et al., 2006, Journal of Structural Geology, 28, 220-235. Shigematsu et al., 2012, Tectonophysics, 532-535, 103-118. 島田ほか,1998,地質学雑誌,104,825-844. 高木,1985,地質学雑誌,91,637-651. Wibberley and Shimamoto, 2003, Journal of Structural Geology, 25, 59-78.
そこで今回,紀伊半島中央部・高見山地域〜丹生地域のMTL近傍・領家帯(南北約2 km以内および東西約40 km)において,異なる原岩起源の領域(東から西に畑井トーナル岩,御杖花崗閃緑岩,および草鹿野アダメロ岩)をまたいで再結晶石英粒径(マイロナイト分類)と鉱物組み合わせの空間変化を検討した.
本研究では,畑井トーナル岩,御杖花崗閃緑岩,および草鹿野アダメロ岩を原岩とするマイロナイト類について,約150試料の岩石薄片を作成し,偏光顕微鏡観察を行った.いずれの原岩起源の領域でも,MTLに近づくにつれての細粒化が認められる一方で,草鹿野アダメロ岩を原岩とする調査地域の西側はMTL最近傍でも比較的粗粒で,ウルトラマイロナイトは確認されない.鉱物組み合わせに関しては,変形の影響が少ないMTLから離れた地域では,主要構成鉱物は石英,斜長石,アルカリ長石,黒雲母,白雲母,および,緑泥石であり,畑井トーナル岩のみ角閃石を主要構成鉱物として含む.鉱物組み合わせの空間変化としては,いずれの原岩起源のものであっても,MTL近傍約200 m以内で黒雲母が確認できなくなる一方で,石英,斜長石,アルカリ長石,白雲母,緑泥石は普遍的に認められる.
MTLに近づくにつれての系統的な細粒化とMTL近傍のみでの黒雲母の消滅が,原岩の違いに関わらず共通して認められたことは,鉱物組み合わせの空間変化がMTLの断層運動に起因することを強く支持する.また,MTL最近傍において緑泥石が存在することに加え,MTLからある程度離れた地域では黒雲母の部分的な緑泥石化が認められることを考慮すると,MTL近傍にあった黒雲母は緑泥石化により消滅したと考えられる.さらに,本研究において,黒雲母に脆性剪断組織の発達が顕微鏡観察から認められたことに加えて,これまでの研究から,MTLに近づくにつれて低温型への石英のc軸ファブリック転移が認められること(島田ほか,1998),および,MTL近傍で熱水変質による鉱物の存在が認められること (e.g. Shigematsu et al., 2012) を考慮すると,MTL近傍における緑泥石化の卓越は,比較的低温化での変形作用による脆性剪断組織の発達と熱水による変質の促進に起因すると推察される.
【引用文献】 Jefferies et al., 2006, Journal of Structural Geology, 28, 220-235. Shigematsu et al., 2012, Tectonophysics, 532-535, 103-118. 島田ほか,1998,地質学雑誌,104,825-844. 高木,1985,地質学雑誌,91,637-651. Wibberley and Shimamoto, 2003, Journal of Structural Geology, 25, 59-78.