[G5-P-1] Paleosol in the Metasequoia fossil forest
Keywords:Paleosol
1. はじめに 新第三紀から第四紀の地球規模の気候変化に伴い, 北半球では植生分布が大きく変化した(百原, 2010).メタセコイアはこの植物相変遷期の示準化石とされており(百原, 2010), 日本各地から産出する. 植物化石の存在はその地にかつて植生が繁茂し, 古土壌が広がっていたことを示す.東京都八王子市清川町から楢原町付近の北浅川河床にはメタセコイア化石林が広く露出し, その周辺には古土壌が分布する. この研究では,このメタセコイア化石林周辺の堆積相と古土壌から,詳細な古環境とメタセコイアの生育環境を検討した.
2.地質概説 加住丘陵と北浅川に分布する上総層群は下から山田層, 加住層, 小宮層, 福島層, 小山田層, 連光寺層に区分される(植木・酒井, 2007). 東京都八王子市上壱分方町から清川町にかけての北浅川河床には山田層, 加住層が露出し, これらは完新世の現河床堆積物に覆われている. 本研究地より上流に位置する上壱分方町の北浅川河床には, 基盤岩である四万十帯美山ユニットを覆う山田層が露出し, 広域テフラ(火山灰)から約2.0Maの年代値が得られている(多摩川中上流域上総層群調査研究プロジェクト実行委員会, 2020). 加住層は上壱分方町付近で山田層を不整合関係で覆い, 本研究地では材化石を多量に含む細粒砂層からシルトからなる(植木・酒井, 2007).
3. 研究手法 現地での露頭観察・岩相記載・古土壌記載・1/10スケールでの柱状図作成を行い,採取した試料について,鏡下観察を行った.野外での古土壌記載では植物化石の産状に留意し, メタセコイア化石(直径50 cm以上)・立木化石(直径50 cm以下)・根化石(太さ5 mm以上)・根化石(太さ5 mm以下)・細根(太さ1 mm以下)・異地性の材化石に分類した. 古土壌薄片の偏光顕微鏡下での観察では, 土壌微細構造である団粒構造・ペレット・Cutan・Sepic plasmic microfabric組織に注目した.
4. 北浅川の堆積環境と古土壌形成 北浅川河床において層厚約10mの柱状図を作成した. また岩相・堆積構造・植物化石の産状から9つの堆積相を認定し,それぞれの各層準において岩石薄片を作成して観察した. その結果,堆積相組み合わせの検討から後背湿地~氾濫原~自然堤防~河川の変化が見られ, 北浅川河床では蛇行河川システムが発達していたと考えられる. また薄片観察ではどの層準でもペレットや団粒構造が見られ, 土壌化が起こったことを示す.鏡下では,粘土鉱物が一部分のみ連結したMosepic plasmic組織, 粘土鉱物が断片的に基質に形成されたInsepic plasmic組織が認められた.メタセコイア化石の産出する層準付近は根化石を含むやや粗粒な氾濫源相であり,メタセコイアの樹幹から水平に根を張る状態が2層準にわたり観察できた.その層準を古地表面として記載し,その直下の土壌組織を鏡下で観察したところ,自生粘土鉱物が全体に発達し同時消光するOmnisepic plasimic組織, 粘土鉱物が直交しない2方向に発達したClinobimasepi plasmic組織が特徴的に認められた.しかし土層分化は不十分であり,集積粘土の形成に乏しく,土壌化の程度は低い.
5. メタセコイアの生育環境 メタセコイア化石は根化石の豊富な氾濫源相にのみ見られる.この堆積相は側方漸移関係にある氾濫源相に比べてやや粗粒で堆積構造に乏しいことから, 氾濫原の微高地であったと推測される. 鏡下において観察できる土壌組織からはわずかに土壌化が進行した状態であったと考えられる.現生メタセコイアや他地域のメタセコイア化石も氾濫原や地形的高まりを好むとされており(百原ほか, 1993;百原, 2017), 北浅川河床のメタセコイアの生育環境もその生態と整合的である. 本研究では2枚の古地表面が認識され, 氾濫原の洪水イベントにより植生破壊と更新が繰り返されたと考えられる. また薄片観察の結果からメタセコイア化石の層準付近は他の層より土壌化が進んでいたと考えられるが,この層準の古土壌成熟度は低い. これはメタセコイアの成長速度が非常に早く, 先駆植物のような存在であることから(百原ほか, 1993), 短い土壌化期間でも森林を形成できたことを示すと考えられる.
引用文献 百原 新, 2010, 第四紀研究, 49, 299-308; 百原 新, 2017, 第四紀研究, 56, 251-264; 百原 新ほか, 1993, 植生史研究, 1, 73-80; 多摩川中上流域上総層群調査研究プロジェクト実行委員会, 2020, 報告書. 222p; 植木岳雪・酒井 彰, 2007, 青梅地域の地質. 199p.