[G5-P-4] Fossil landslide deposits in the Basement of the Middle Miocene Kuma Group in the Tobe Area, Ehime Prefecture, Japan.
Keywords:Median Tectonic Line, Kuma Group, Crystalline schist Breccia, Fossil Landslide, Middle Miocene
中央構造線は西南日本内帯と外帯をわける大断層で,四国では愛媛県伊予市から徳島県の吉野川沿いをほぼ東西方向に通過する.愛媛県にある砥部衝上断層は中央構造線の活動を記録した地質学的に重要な露頭として砥部衝上断層公園内で観察できる.この断層露頭は砂岩泥岩互層主体の白亜系和泉層群と和泉層群由来の砂岩円礫を多数含む礫岩層の第三系久万層群明神層が接する露頭であり,この露頭から約180m上流では久万層群の基盤岩である三波川変成岩類の境界が露出している.
越智ほか(2014)に従うと,久万層群は砂岩泥岩円礫主体の明神層と結晶片岩角礫主体の古岩屋層に分類されるが,従来から三波川変成岩類と久万層群明神層の境界部には,古岩屋層とまでは言えない小規模な“結晶片岩礫主体の礫岩”が分布することが知られている(例えば,奈良ほか,2017).奈良ほか(2017)は,この断層公園内の角礫岩を「結晶片岩礫から主に構成される淘汰不良の礫岩」と記載し,「基底礫のようなもので,明神層が直接不整合で基盤を覆っているところではしばしば見られる」としている.一方,岩本(1984)は砥部川右岸側の段丘面で深さ約1.4mの簡易トレンチ調査を行い,三波川変成岩類と明神層の間に層厚0.3~0.5mの断層角礫を含む断層粘土が存在するとした.そして,砥部川河床部の結晶片岩礫岩を断層角礫岩と考え,トレンチで確認した断層粘土との位置関係から南傾斜の逆断層が存在すると解釈した.また,高橋ほか(1992)は,砥部衝上断層露頭の約30m北側で実施された深度100mのボーリング試料を観察し,上位から破砕された和泉層群,“安山岩(フィロナイト様岩)”,久万層群の礫岩層,三波川変成岩類が重なり,特に久万層群礫岩層の最下部の鉛直層厚8.3m程度は,結晶片岩礫主体の角礫岩から構成されると記載した.
今回,筆者らは砥部川の三波川変成岩類と結晶片岩礫主体の角礫岩の露頭観察を行い,角礫岩の特徴や下位の基盤岩および上位の久万層群明神層との関係を記載し,それらの関係を再検討した. その結果,以下の点が明らかになった;
① 角礫岩は径2~30cm程度の泥質片岩角礫~亜角礫を主体とし,基質部はこれらの細礫で充填されている.
② 角礫岩には層理面等の特定の堆積構造は認められない.一方,礫支持部では原岩の片理面が保存された箇所がある.
③ 砥部川左岸側に基盤岩と角礫岩の境界があり,境界面の走向傾斜はN84°E24°Nである.この境界では基盤岩と角礫岩は密着している.
④ 角礫岩と久万層群明神層の境界の走向傾斜はN78°E60°Nで,明神層の層理面(N52°E12°N)とは斜交関係を示す.角礫岩との境界付近の明神層は径10~20cm程度の砂岩円礫を多く含むが,時に角礫岩の礫と同質の結晶片岩礫を含む.
以上の事実および既存データに基づくと,砥部衝上断層公園の上流部で基盤岩直上に分布する結晶片岩角礫岩は約200m北側まで連続し,この場合,基盤岩上に北傾斜で分布する.また,高橋ほか(1992)に「断層角礫と見間違うような礫支持礫岩」との記載はあるが,断層粘土の記述はなく,砥部川左岸側の露頭では厚さ数10cmの断層粘土は確認できない.以上より,岩本(1984)が指摘する南落ち逆断層は存在しないと考えられる.
基盤岩直上の角礫岩の構成礫が角礫~亜角礫主体で,淘汰が悪く,原岩片理を保存したような礫群が確認されることから,礫の供給源は近いと予想され,その位置関係から下盤側の三波川結晶片岩の可能性が高い.通常,基盤岩付近に基盤岩と同種角礫の堆積物がある場合,基盤側の斜面崩壊や地すべり等の堆積物と考えるのが妥当である.当箇所では河床の不整合部から約200m先まで角礫岩が連続すると推定され,当時の地形条件にもよるが地すべり的な斜面変動が発生したと予想される.地すべり等の堆積物は規模にもよるがその後の侵食によって地質学的時間の中では認識できなくなると予想される.しかし,当箇所では地すべり発生後速やかに久万層群明神層の堆積場となったことで化石地すべり堆積物が現在まで残存したと推測される.このことから,この三波川変成岩類の礫からなる角礫岩は,久万層群の堆積場形成プロセスを示す重要な露頭と考えられる.既往研究では当箇所と類似した産状報告があり,地すべりは当然過去にも発生していたことから,現在の応用地質学的観点を取り入れた露頭観察を行うことで過去の地層形成に関する知見を得られる可能性がある.
【参考文献】越智ほか(2014):地質学雑誌,第120巻,第5号,p165-179.奈良ほか(2017):地質学雑誌,第123巻,第7号,p471-489.岩本(1984):砥部町資料.高橋ほか(1992):愛媛大学教育学部紀要,第Ⅲ部,自然科学,vol.13,no.1,p9-13.
越智ほか(2014)に従うと,久万層群は砂岩泥岩円礫主体の明神層と結晶片岩角礫主体の古岩屋層に分類されるが,従来から三波川変成岩類と久万層群明神層の境界部には,古岩屋層とまでは言えない小規模な“結晶片岩礫主体の礫岩”が分布することが知られている(例えば,奈良ほか,2017).奈良ほか(2017)は,この断層公園内の角礫岩を「結晶片岩礫から主に構成される淘汰不良の礫岩」と記載し,「基底礫のようなもので,明神層が直接不整合で基盤を覆っているところではしばしば見られる」としている.一方,岩本(1984)は砥部川右岸側の段丘面で深さ約1.4mの簡易トレンチ調査を行い,三波川変成岩類と明神層の間に層厚0.3~0.5mの断層角礫を含む断層粘土が存在するとした.そして,砥部川河床部の結晶片岩礫岩を断層角礫岩と考え,トレンチで確認した断層粘土との位置関係から南傾斜の逆断層が存在すると解釈した.また,高橋ほか(1992)は,砥部衝上断層露頭の約30m北側で実施された深度100mのボーリング試料を観察し,上位から破砕された和泉層群,“安山岩(フィロナイト様岩)”,久万層群の礫岩層,三波川変成岩類が重なり,特に久万層群礫岩層の最下部の鉛直層厚8.3m程度は,結晶片岩礫主体の角礫岩から構成されると記載した.
今回,筆者らは砥部川の三波川変成岩類と結晶片岩礫主体の角礫岩の露頭観察を行い,角礫岩の特徴や下位の基盤岩および上位の久万層群明神層との関係を記載し,それらの関係を再検討した. その結果,以下の点が明らかになった;
① 角礫岩は径2~30cm程度の泥質片岩角礫~亜角礫を主体とし,基質部はこれらの細礫で充填されている.
② 角礫岩には層理面等の特定の堆積構造は認められない.一方,礫支持部では原岩の片理面が保存された箇所がある.
③ 砥部川左岸側に基盤岩と角礫岩の境界があり,境界面の走向傾斜はN84°E24°Nである.この境界では基盤岩と角礫岩は密着している.
④ 角礫岩と久万層群明神層の境界の走向傾斜はN78°E60°Nで,明神層の層理面(N52°E12°N)とは斜交関係を示す.角礫岩との境界付近の明神層は径10~20cm程度の砂岩円礫を多く含むが,時に角礫岩の礫と同質の結晶片岩礫を含む.
以上の事実および既存データに基づくと,砥部衝上断層公園の上流部で基盤岩直上に分布する結晶片岩角礫岩は約200m北側まで連続し,この場合,基盤岩上に北傾斜で分布する.また,高橋ほか(1992)に「断層角礫と見間違うような礫支持礫岩」との記載はあるが,断層粘土の記述はなく,砥部川左岸側の露頭では厚さ数10cmの断層粘土は確認できない.以上より,岩本(1984)が指摘する南落ち逆断層は存在しないと考えられる.
基盤岩直上の角礫岩の構成礫が角礫~亜角礫主体で,淘汰が悪く,原岩片理を保存したような礫群が確認されることから,礫の供給源は近いと予想され,その位置関係から下盤側の三波川結晶片岩の可能性が高い.通常,基盤岩付近に基盤岩と同種角礫の堆積物がある場合,基盤側の斜面崩壊や地すべり等の堆積物と考えるのが妥当である.当箇所では河床の不整合部から約200m先まで角礫岩が連続すると推定され,当時の地形条件にもよるが地すべり的な斜面変動が発生したと予想される.地すべり等の堆積物は規模にもよるがその後の侵食によって地質学的時間の中では認識できなくなると予想される.しかし,当箇所では地すべり発生後速やかに久万層群明神層の堆積場となったことで化石地すべり堆積物が現在まで残存したと推測される.このことから,この三波川変成岩類の礫からなる角礫岩は,久万層群の堆積場形成プロセスを示す重要な露頭と考えられる.既往研究では当箇所と類似した産状報告があり,地すべりは当然過去にも発生していたことから,現在の応用地質学的観点を取り入れた露頭観察を行うことで過去の地層形成に関する知見を得られる可能性がある.
【参考文献】越智ほか(2014):地質学雑誌,第120巻,第5号,p165-179.奈良ほか(2017):地質学雑誌,第123巻,第7号,p471-489.岩本(1984):砥部町資料.高橋ほか(1992):愛媛大学教育学部紀要,第Ⅲ部,自然科学,vol.13,no.1,p9-13.