[G7-P-3] 孔壁画像を用いた褶曲パラメータの簡易取得法の開発と紀伊半島沖・南海トラフ歪み蓄積域への適用
キーワード:南海トラフ、fold parameter、応力履歴
褶曲は過去の応力方向の変遷の情報を保存する重要な構造である。しかし、褶曲軸、軸面、インターリム角などの褶曲パラメータは大規模な地質露頭においても直接測定できることは限られており、まして~数十センチメートルの掘削試料や孔壁画像から詳細な褶曲姿勢を見出すことは困難である。本研究では、孔壁画像を用いた地層姿勢の解釈をもとに、深さ方向に連続的に褶曲パラメータを算出する手法を開発した。褶曲が同心褶曲とみなせる場合、中位面・変曲点での地層の姿勢(変曲面)を延長することで、疑似的な褶曲軸を描くことができる。また、褶曲軸面は変曲面ベクトルの交点と褶曲軸から、インターリム角は変曲面のなす角からそれぞれ算出することができる。模擬褶曲モデルを作成し、この手法の正確性を検討したところ、孔壁画像から正確な変曲面を認定することができない場合でも、前後の地層の走向・傾斜を用いることで、ある程度正確な褶曲パラメータが推定可能であることが示された。また、本手法は同心円褶曲を想定しているが、相似褶曲などの対称褶曲に適用可能であり、正確に褶曲軸と軸面を推定することができることを示した。 また、開発した手法を南海トラフ掘削計画で得られた孔壁画像データに適用するとともに、孔壁画像の記載・構造解析をおこなうことで、インナーウェッジの内部構造を復元し、南海トラフ付加体の応力方向の変遷を推定した。南海トラフ掘削計画第314、338、348次航海では、熊野海盆に位置するC0002サイトにおいて前弧海盆堆積物を貫き付加体に達する掘削孔が掘られ、海底下約3000 mまでの連続的な検層データが得られている。このうち、孔壁画像データや電気比抵抗・ガンマ線検層データなどから、地層面や亀裂面の認定と走向・傾斜測定をおこなった。付加体内の地層面は2000個所程度見いだされ、60-90°の高角でNNW及びSSE両方向へ傾斜することが分かった。一方、300ほどの亀裂面は明瞭な方向を持っていなかったが、海底下2600–2700 m付近で亀裂の集中帯が認められた。これらの記載は、それぞれの航海レポートや先行研究(Boston et al. 2016)とおおむね同じ結果であったが、新たに比抵抗画像上に眼状紋(eye)を見出した。eyeの上下では地層の傾斜方向が大きく変化することから、これは褶曲軸部の閉じた地層であると考えられる。このとき、褶曲軸の走向はこのeye spotに直行する方位で与えられ、ENE–WSW となることが確認された。 また、本研究で開発した手法を用いて褶曲パラメータの深度分布を推定した。この結果、褶曲は主として翼間150°– 170°程度の開いた褶曲で、軸の走向はENE–WSW方向となり、eyeから求めた方向と調和的であった。しかし、そのプランジは0-70°と大きく変化しており、単一の褶曲とはとらえられない。ただ、この褶曲軸はステレオプロット上でガードル分布を示すことから、この褶曲はNNW–SSE方向に軸を持つ褶曲によって二次的に変形していることが示唆された。実際、このガードル分布を回帰する面の軸方向に褶曲面を回転させたところ、ほぼ鉛直に極を持つ、単一の褶曲面が得られた。 以上のことから、紀伊半島沖南海トラフインナーウェッジには高角の地層と開いた褶曲の存在が明らかとなった。この褶曲軸は水平でENE–WSW方向を示し、褶曲軸面が低角である。このことから、この褶曲は地層が傾動する前に、現在この低角軸面褶曲がみられるアウターウェッジのトラフ近傍で形成したと考えられる。その後、傾動とともに、または傾動の後に、stage2の褶曲がNNW–SSE方向を軸に発達したと考えられる。この歪みの方向は、掘削孔を用いた応力方向解析や巨大分岐断層近傍での横ずれ断層運動(Tsuji et al., 2014)と調和的であり、本研究によって明らかとなった多重褶曲はアウターウェッジからインナーウェッジへと遷移した際の応力変化を記録していると考えられる。
引用文献 B. Boston et al., 2016, Geochem. Geophys. Geosyst., 17, 485–500. T. Tsuji et al., 2014, Earth, Planets and Space, 66:120.
引用文献 B. Boston et al., 2016, Geochem. Geophys. Geosyst., 17, 485–500. T. Tsuji et al., 2014, Earth, Planets and Space, 66:120.