[G9-P-3] (エントリー)広島県庄原市西城川における中新統備北層群の貝形虫化石群集とCNS元素分析
キーワード:貝形虫、古環境、備北層群、庄原、CNS元素分析、中新世
広島県庄原市とその周辺に分布する中新統は,備北層群(今村ほか,1953)と呼ばれ,中国地方の瀬戸内区の代表的な層序学的単位である.備北層群は,白亜系吉舎安山岩類,高田流紋岩類,および花崗岩類のような基盤岩を不整合に覆い,下位より非海成の礫岩・砂岩・泥岩からなる塩町層,浅海成の主に砂岩からなる是松層,および深海成の泥岩からなる板橋層より構成されている(上田,1989).層厚は150 m前後で,火砕岩に乏しく,著しい褶曲構造などは認められない.軟体動物化石や底生有孔虫化石をはじめとして,多くの化石を産出するため,中新世における瀬戸内区の古地理を考察する上で,古くから地質学的・古生物学的に注目され,多くの研究が行われてきた(上田,1986, 1989など).しかしながら,微化石の一種で甲殻類の貝形虫化石を対象とした研究は,予察的なものしか存在しないため,種構成が明らかになっていなかった.
そこで,本研究の目的は,広島県庄原市西城川河床に露出する備北層群是松層と板橋層の貝形虫化石群集を明らかにすること,さらに,この結果とCNS元素分析による全有機炭素 (TOC),全窒素(TN),全硫黄(TS)含有率の測定結果と合わせて,古環境を復元することである.
貝形虫化石の処理には採取された34試料を用い,硫酸ナトリウム法とナフサ法を併用して岩石を細粒化し,その後,全ての貝形虫化石を抽出した.CNS元素分析には主に泥質岩よりなる26試料を使用し,島根大学エスチュアリー研究センターのFISON製CHNS元素分析計を使用した.
地質調査の結果,調査地域における岩相は,下位から礫岩,砂岩,泥岩を主体とし,大型有孔虫のOperculina密集層を挟む是松層,その上位に位置する黒色ないし暗灰色の塊状泥岩からなる板橋層よりなり,山本(1999)により定義されたユニット1〜4が認められた.
貝形虫化石分析の結果,17試料から貝形虫化石が産出した.是松層最下部のユニット1の泥岩から内湾奥泥底種のSpinileberis sp.などが産出した.砂岩と砂質泥岩の互層からなる是松層のユニット2では,ほとんど貝形虫化石が産出しなかった.是松層最上部のユニット3の泥岩では多様性の高い群集が認められた.この群集は藻場周辺を示唆するPseudoaurila ishizakii, 内湾種のTrachyleberis leei, T. mizunamiensis, T. praeniitsumai,および温暖な浅海生種のAcanthocythereis aff. munechikaiなどが主な構成種であった.これらの種は門ノ沢動物群が産出する1600万年前前後の浅海成層から普通に産出する(Ozawa, 2016など).板橋層に相当するユニット4では,下位の群集と全く異なり,Cytherella sp., Krithe sp., Bradleya sendaiensis, および Hirsutocythere nozokiensisのような深海生種が認められた.この群集はOzawa (2016)により富山県の下–中部中新統黒瀬谷層から報告された群集Aと類似し,当時の日本海の深海を代表する群集であると推定される.
CNS元素分析の結果,是松層の試料のTOC/TN比は15前後と高く,陸上高等植物由来の有機物を多く含んでいることが示された.一方,板橋層の試料のそれは10前後と相対的に低く,海洋プランクトン由来の有機物が混在していることが示唆された.TOC/TS比は,板橋層の最上部層準以外は全体的に低く,堆積時に比較的還元的な内湾環境であった可能性がある.
以上の結果から,本地域の是松層堆積期では,徐々に海進が進み,閉鎖的内湾奧の環境から温暖な浅海環境へと変化したが,陸域からの河川の影響を受けやすいやや閉鎖的な環境であったことが推定された.また,板橋層堆積時には急激な深海化が起き,さらに外洋からの暖流の影響を受ける環境へと変化した.
【引用文献】 今村ほか(1953)巡検案内書, 50p., 広島大地鉱教室.Ozawa (2016) Paleont. Res., 20, 121–144. 上田(1986)地球科学,40, 437–448. 上田(1989)地質雑,95, 919-931. 山本(1999)地球科学,53, 202–216.
そこで,本研究の目的は,広島県庄原市西城川河床に露出する備北層群是松層と板橋層の貝形虫化石群集を明らかにすること,さらに,この結果とCNS元素分析による全有機炭素 (TOC),全窒素(TN),全硫黄(TS)含有率の測定結果と合わせて,古環境を復元することである.
貝形虫化石の処理には採取された34試料を用い,硫酸ナトリウム法とナフサ法を併用して岩石を細粒化し,その後,全ての貝形虫化石を抽出した.CNS元素分析には主に泥質岩よりなる26試料を使用し,島根大学エスチュアリー研究センターのFISON製CHNS元素分析計を使用した.
地質調査の結果,調査地域における岩相は,下位から礫岩,砂岩,泥岩を主体とし,大型有孔虫のOperculina密集層を挟む是松層,その上位に位置する黒色ないし暗灰色の塊状泥岩からなる板橋層よりなり,山本(1999)により定義されたユニット1〜4が認められた.
貝形虫化石分析の結果,17試料から貝形虫化石が産出した.是松層最下部のユニット1の泥岩から内湾奥泥底種のSpinileberis sp.などが産出した.砂岩と砂質泥岩の互層からなる是松層のユニット2では,ほとんど貝形虫化石が産出しなかった.是松層最上部のユニット3の泥岩では多様性の高い群集が認められた.この群集は藻場周辺を示唆するPseudoaurila ishizakii, 内湾種のTrachyleberis leei, T. mizunamiensis, T. praeniitsumai,および温暖な浅海生種のAcanthocythereis aff. munechikaiなどが主な構成種であった.これらの種は門ノ沢動物群が産出する1600万年前前後の浅海成層から普通に産出する(Ozawa, 2016など).板橋層に相当するユニット4では,下位の群集と全く異なり,Cytherella sp., Krithe sp., Bradleya sendaiensis, および Hirsutocythere nozokiensisのような深海生種が認められた.この群集はOzawa (2016)により富山県の下–中部中新統黒瀬谷層から報告された群集Aと類似し,当時の日本海の深海を代表する群集であると推定される.
CNS元素分析の結果,是松層の試料のTOC/TN比は15前後と高く,陸上高等植物由来の有機物を多く含んでいることが示された.一方,板橋層の試料のそれは10前後と相対的に低く,海洋プランクトン由来の有機物が混在していることが示唆された.TOC/TS比は,板橋層の最上部層準以外は全体的に低く,堆積時に比較的還元的な内湾環境であった可能性がある.
以上の結果から,本地域の是松層堆積期では,徐々に海進が進み,閉鎖的内湾奧の環境から温暖な浅海環境へと変化したが,陸域からの河川の影響を受けやすいやや閉鎖的な環境であったことが推定された.また,板橋層堆積時には急激な深海化が起き,さらに外洋からの暖流の影響を受ける環境へと変化した.
【引用文献】 今村ほか(1953)巡検案内書, 50p., 広島大地鉱教室.Ozawa (2016) Paleont. Res., 20, 121–144. 上田(1986)地球科学,40, 437–448. 上田(1989)地質雑,95, 919-931. 山本(1999)地球科学,53, 202–216.