[G9-P-7] Paleoceanographic change of surface and deep water based on oxygen and carbon isotope records during the last 330 kyr in the eastern margin of Japan Sea
Keywords:Japan Sea, planktonic foraminifera, benthic foraminifera, stabe isotope
日本海は周囲を浅い海峡で囲まれていることから、第四紀後半には汎世界的な海水準変動の影響によって劇的な海洋環境の変化を受けている。現在の日本海は対馬暖流(Tsushima Warm Current, TWC)の流入と、対馬暖流を起源とする日本海独自の底層水(日本海固有水;Japan Sea Proper Water, JSPW)の存在が特徴的であるが、過去の海水準変動は対馬海峡を通る海流の強弱や日本海固有水の形成にも影響を及ぼしてきたと考えられる。有孔虫は古海洋環境の復元に非常に有効であり、これまで日本海における有孔虫殻の同位体組成に関する研究は数多く行われてきたが(Oba et al., Paleoceanography(1991)6, 499-518; Sagawa et al., Progress in Earth and Planetary Science(2018) 5:18など)、10万年以上の長期にわたって浮遊性・底生有孔虫の双方を対象として同位体組成から海洋環境の変遷を議論した例はあまりない。そこで今回、日本海東縁で採取された4本のコア(HR14-RC1408(最上トラフ;WD=834 m)/MD179-3312(上越沖;WD=1,026 m)/MD179-3304(上越沖;WD=896 m)/MD179-3326G(西津軽沖;WD=325 m))を用いて浮遊性・底生有孔虫殻の酸素・炭素同位体組成の変動を明らかにし、表層および底層の海洋環境を水深ごとに対比しながら日本海の海洋環境と成層構造の変遷を三次元的に復元することを目的に研究を行なった。
有孔虫の同位体組成および群集の特徴は4本のコアで良く対比され、最上トラフのHR14-RC1408コアは海洋同位体ステージ(MIS)1-9に相当すると推定することができた。上越沖のMD179-3312はMIS 1-5e、MD179-3304はMIS 1-5cに相当し(Ishihama et al., Journal of Asian Earth Science(2014)90, 254-265)、西津軽沖のMD179-3326GはMIS 1-2に相当すると推定された。MIS 1, 5e, 9の間氷期のピークに相当する層準では、いずれのコアにおいても津軽暖流の流入を示唆する温暖種のGlobigerinoides ruberやNeogloboquadrina incompta (dextral)、Globigerina bulloides(thin-walled form)が産出するとともに、浮遊性有孔虫殻のδ18O値が減少し、底生有孔虫殻のδ18Oおよびδ13C値がやや減少する。これらの3層準は現在と同様の高海水準期であり、対馬海峡を通ってTWCが流入し、TWC起源の表層水が沈み込むことによって酸素に富むJSPWが底層に形成され、酸化的な底層で有機物の分解が活発に行われたことを示唆している。MIS 3, 5a, 5cの亜間氷期には浮遊性有孔虫殻のδ18Oおよびδ13C値はやや軽くなるものの底生有孔虫殻の同位体組成には影響を及ぼしておらず、低塩分の東シナ海沿岸水が対馬海峡を通じて流入するものの底層には日本海固有水が十分に発達しなかったと考えられる。
MIS 2, 6の氷期極相期においては、全てのコアで浮遊性有孔虫のδ18O値がΔ= -3 ‰ほど減少するが、これは従来の研究と整合的な結果であり、表層水の低塩分化による影響をあらわすと解釈できる。一方、底生有孔虫の同位体組成はコアによって特徴が異なり、現水深325 mのMD179-3326G(西津軽沖)では、底生有孔虫のδ18Oおよびδ13C値が浮遊性有孔虫と同調して軽くなる。現水深830 mのHR14-RC1408(最上トラフ)や現水深896 mのMD179-3304(上越沖)では、ピーク時には底生有孔虫がほぼ存在しなくなるものの、ピークよりやや下位で底生有孔虫のδ18O値およびδ13C値がやや減少する傾向があり、さらに現水深1,026 mのMD179-3312(上越沖)ではMIS 2の期間を通してほとんど底生有孔虫が産出しない。表層水の低塩分化による水塊の成層化の影響は、水深によってそのタイミングが異なり、深層から徐々に影響が広がったこと、浅海ではその影響が及ばなかったことが同位体組成変動から明らかになった。またMIS 6ではMIS 2と異なる挙動がみられ、LGMと同様の低海水準となった氷期極相期でも同じような海洋成層化の変遷を辿らなかったことが示唆された。
なお本研究で使用した試料は経済産業省メタンハイドレート開発促進事業の一環として、産業技術総合研究所の再委託により実施された調査(MD179, 2010年およびHR14, 2014年)で採取した。関係者の方々には心より御礼申し上げる。
有孔虫の同位体組成および群集の特徴は4本のコアで良く対比され、最上トラフのHR14-RC1408コアは海洋同位体ステージ(MIS)1-9に相当すると推定することができた。上越沖のMD179-3312はMIS 1-5e、MD179-3304はMIS 1-5cに相当し(Ishihama et al., Journal of Asian Earth Science(2014)90, 254-265)、西津軽沖のMD179-3326GはMIS 1-2に相当すると推定された。MIS 1, 5e, 9の間氷期のピークに相当する層準では、いずれのコアにおいても津軽暖流の流入を示唆する温暖種のGlobigerinoides ruberやNeogloboquadrina incompta (dextral)、Globigerina bulloides(thin-walled form)が産出するとともに、浮遊性有孔虫殻のδ18O値が減少し、底生有孔虫殻のδ18Oおよびδ13C値がやや減少する。これらの3層準は現在と同様の高海水準期であり、対馬海峡を通ってTWCが流入し、TWC起源の表層水が沈み込むことによって酸素に富むJSPWが底層に形成され、酸化的な底層で有機物の分解が活発に行われたことを示唆している。MIS 3, 5a, 5cの亜間氷期には浮遊性有孔虫殻のδ18Oおよびδ13C値はやや軽くなるものの底生有孔虫殻の同位体組成には影響を及ぼしておらず、低塩分の東シナ海沿岸水が対馬海峡を通じて流入するものの底層には日本海固有水が十分に発達しなかったと考えられる。
MIS 2, 6の氷期極相期においては、全てのコアで浮遊性有孔虫のδ18O値がΔ= -3 ‰ほど減少するが、これは従来の研究と整合的な結果であり、表層水の低塩分化による影響をあらわすと解釈できる。一方、底生有孔虫の同位体組成はコアによって特徴が異なり、現水深325 mのMD179-3326G(西津軽沖)では、底生有孔虫のδ18Oおよびδ13C値が浮遊性有孔虫と同調して軽くなる。現水深830 mのHR14-RC1408(最上トラフ)や現水深896 mのMD179-3304(上越沖)では、ピーク時には底生有孔虫がほぼ存在しなくなるものの、ピークよりやや下位で底生有孔虫のδ18O値およびδ13C値がやや減少する傾向があり、さらに現水深1,026 mのMD179-3312(上越沖)ではMIS 2の期間を通してほとんど底生有孔虫が産出しない。表層水の低塩分化による水塊の成層化の影響は、水深によってそのタイミングが異なり、深層から徐々に影響が広がったこと、浅海ではその影響が及ばなかったことが同位体組成変動から明らかになった。またMIS 6ではMIS 2と異なる挙動がみられ、LGMと同様の低海水準となった氷期極相期でも同じような海洋成層化の変遷を辿らなかったことが示唆された。
なお本研究で使用した試料は経済産業省メタンハイドレート開発促進事業の一環として、産業技術総合研究所の再委託により実施された調査(MD179, 2010年およびHR14, 2014年)で採取した。関係者の方々には心より御礼申し上げる。