129th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Poster

G1-9. sub-Session 09

[7poster45-52] G1-9. sub-Session 09

Sat. Sep 10, 2022 9:00 AM - 12:30 PM poster (poster)


フラッシュトーク有り 9:00-10:00頃 ポスターコアタイム 10:30-12:30

[G9-P-8] (Entry) Spatial distributions in recent ostracode assemblages in the Kii-Channel, southwestern Japan and discovery of Neomonoceratina delicata

*Miyu Takeuchi1, Hokuto Iwatani1, Atsuko Amano2, Jun Arimoto2, Yoshiaki Suzuki2, Takuya Itaki2, Toshiaki Irizuki3 (1. Yamaguchi Univ., 2. AIST, 3. Shimane Univ.)


Keywords:The Kii-Channel, Recent ostracoda, Neomonoceratina delicata

【はじめに】 本研究で調査対象とする紀伊水道は、四国と紀伊半島に囲まれた海域であり、北部では紀淡海峡および鳴門海峡により、それぞれ大阪湾および播磨灘と接続し、南部では太平洋へと繋がる。紀伊水道は、瀬戸内海と太平洋の合流地点に位置し、本邦太平洋側を流れる黒潮の動態を解明するために重要な海域である。また、紀伊水道には、主要河川として四国からは吉野川、本州からは紀の川が、都市圏を通り流入しており、人間活動による海洋環境への影響を明らかにするためにも重要な海域といえる。そこで、本研究は海洋環境の変化に鋭敏に応答する貝形虫(微小甲殻類の一分類群)をモデル生物として用い、紀伊水道の海洋生物相分布とその規制要因を明らかにすることを目的として研究を行った。
 紀伊水道周辺海域の現生貝形虫の研究は、大阪湾においてYasuhara and Irizuki(2001)、紀伊水道南部の和歌山県沿岸においてZhou(1995)により行われている。また、紀伊水道北部の紀淡海峡周辺海域では、完新世コアを用いた貝形虫相の鉛直変化について検討が行われている(Yasuhara et al., 2002)。しかしながら、紀伊水道内における現生貝形虫の詳細な水平分布はこれまで明らかにされておらず、本研究が初めての報告となる。さらに、本研究海域より、これまでトカラ海峡以北では報告のなかった南方系の貝形虫種であるNeomonoceratina delicataの遺骸殻を発見したため、ここに報告する。
【結果と考察】 試料は産総研により実施されたGKC21航海にて、K-グラブ採泥器により採取された表層堆積物を用いた。結果として、日本の内湾域で普遍的に認められる貝形虫種が多く認められた。また、紀伊水道の貝形虫相は、北部、中央部、南部で大きく3つに分けられることが明らかになった。瀬戸内海側(北部)はBicornucythere bisanensisNipponocythere bicarinataCytheromorpha acupunctataといった湾央部の泥底を主に分布の中心とする種(安原, 2007)が優占的に産出した。太平洋側(南部)は外洋種が多くみられ、Argilloecia spp.Bradleya japonicaの産出が認められた。また、太平洋側からは、Falsobuntonica taiwanicaPacambocythere sp.といった暖流域を主な生息域とする種(Zhou, 1995)が特徴的に産出した。南部は北部に比べ底層水温が高いため、温暖な黒潮に影響を受けた群集が形成されている可能性がある。調査地域中央部は内湾種が比較的多く外洋種は南側ほど産出数が多くないが認められる、内湾種と外洋種の混在群集であることが明らかになった。
 紀淡海峡南部の水深51.04 m地点から、保存の良いN. delicataの複数個体の遺骸殻が産出した。N. delicataは、現在、琉球列島や南シナ海、東南アジアなど暖流の影響を強く受ける亜熱帯から熱帯の内湾域に広く分布する種である。日本においても、中~後期更新世の化石記録では九州以北からは内湾域の優占種として多数の報告がある(例えば、入月・瀬戸,2004)。しかしながら、九州以北の完新世以降の記録は、局所的に生存していることが期待されつつも、大阪湾から発見された再堆積と考えられる保存不良な片殻の一標本(Yasuhara and Irizuki, 2001)を除いては、全く報告がなかった。したがって、最終氷期以降の水温低下によりトカラ列島以北の日本列島周辺海域ではほぼ全ての個体群が消滅した可能性が指摘されていた(Irizuki et al., 2009)。
 本研究により得られたN. delicataは軟体部が残っていない遺骸殻のため、リワークの影響を受けている可能性も考えられる。しかしながら、保存状態の良い背甲が複数個体産出しているため、調査海域が何らかのシェルターとして機能することにより、トカラ列島以北の日本における例外的な生息域として、現在も紀伊水道にはN. delicataが生存しているのかもしれない。
【引用文献】 Irizuki, et al., 2009, Palaeoecology, 271, 316-328. 入月・瀬戸, 2004, 地質学雑誌, 110, 309-324. 安原, 2007, 人間活動による自然の変化, 161―266. Yasuhara, and Irizuki 2001, Journal of Geosciences, Osaka City Univ., 44, 57-95. Yasuhara et al., 2002, Paleontological Research, 6, 85―99. Zhou, 1995, Memories of the Faculty of Science, Kyoto Univ. 57, 21―98.