10:45 AM - 11:00 AM
[T1-O-6] Rheological properties of subducting slab estimated from stress state in the slab
Keywords:Subduction zone, Stress in slab, Rheological properties, Intermediate-depth earthquake
稍深発地震のCMT解から推定される沈み込むスラブ内の応力状態は,Down-dip tension(DT)が卓越する東向きの沈み込み帯とDown-dip compression (DC)が卓越する西向きの沈み込み帯に大別できる(文献1).一方,より深い地震(>350 km)はすべての地域でDCが卓越する(文献1).西太平洋縁に沈み込むスラブ(千島,東北日本,トンガ)の形状は1つのヒンジ部をもち,300 kmより浅いスラブの応力状態は,海溝付近でのbendingとより深部でのunbendingに伴う2組のDTとDCのセットからなる.東太平洋縁に沈み込むスラブ(チリ,ペルー,中央アメリカ)の形状は2つもしくは3つのヒンジ部をもつが,スラブの応力状態は海溝付近ではbending-unbendingに対応する2組のDTとDCのセットを示すが,より深部(100〜300 km)ではスラブの形状に関係なくDTが卓越する(文献2).このようなスラブの応力状態の違いは,スラブの負の浮力や660 km境界での抵抗による均一なDTまたはDCの応力状態とbending-unbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態の重ね合わせとして基本的に理解できる.本研究では,スラブの応力状態を制約条件として,スラブのレオロジー特性を検討することを目的として,2次元数値モデルによる計算を行った.
モデルの大きさは,水平距離7000 km,深さ2900 kmで,粘性や密度など一定の物性をもつ複数の層からなる.沈み込む海洋プレートの厚さと粘性,および上盤大陸プレートの動き(自由に動く場合とモデル側面に固定する場合)の条件を変えて結果を比較した.上盤プレートが自由に動く場合,海洋プレートの厚さと粘性に関係なく,沈み込みに伴い海溝が後退し,スラブ先端が下部マントルまで沈み込んだのちflat subductionに移行するとともに上盤プレートの応力状態が引張から圧縮に変化する.上盤プレートを固定した場合,固定した海溝から沈み込むため,スラブはほぼ鉛直に沈み込み,上盤プレートの応力状態は引張のまま変化しない.一方,深さ100〜300 kmでのスラブの応力状態は,おもにスラブの厚さと粘性に依存し,低粘性(1023 Pa s)かつ薄いスラブでは,DT応力が卓越するのに対し,高粘性(1024 Pa s)あるいは厚いスラブでは,unbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態が卓越する.低粘性で薄いスラブは曲げに対する抵抗が小さく,660 km境界での抵抗をスラブが褶曲することにより吸収するため,DC応力が上方へ伝播せず,より浅部(深さ100〜300 km)では負の浮力によるDT応力がunbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態よりも卓越する.一方,曲げに対する抵抗が大きいスラブでは,660 km境界での抵抗を吸収できずにDC応力が上方へ伝播するため,負の浮力によるDT応力よりもunbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態が卓越する結果になる.これらの結果は,東太平洋縁の沈み込み帯に特徴的な深さ100〜300 kmでDTが卓越するスラブの応力状態には,薄くて粘性の低い(1023 Pa s)スラブが必要であることを示している.
マントル物質の高温変形実験から推定されるクリープの活性化エネルギーは高く,それから予想されるスラブの粘性は1024 Pa s以上になる.しかし,かんらん岩など多相系岩石の拡散クリープでは粒成長速度が遅いため,粒成長の効果も考慮した拡散クリープの有効活性化エネルギーは小さくなると予想される.そこで,温度と圧力に依存するレオロジー則を使い,拡散クリープの有効活性化エネルギーとして110 kJ/mol(文献3)を仮定した2次元数値モデルで計算した.その結果,年齢の若いスラブの沈み込みでは,スラブの有効粘性係数は1023 Pa s以下になり,深さ100〜300 kmでDT応力が卓越するのに対し,古いスラブの沈み込みでは,スラブの温度が低いため,その粘性は1024 Pa s以上になり,深さ100〜300 kmでunbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態が卓越する結果になった.
以上の結果より,深さ100〜300 kmのスラブの応力状態を説明するには,変形実験から推定されるよりもスラブが低粘性である必要があり,そのメカニズムとして,拡散クリープによって変形するスラブが考えられる.
(1) Alpert, et al., 2010. doi: 10.1029/2010GC003301
(2) Sandiford, et al., 2020. doi: 10.1029/2019TC005894
(3) Nakakoji & Hiraga, 2018. doi: 10.1029/2018jb015819
モデルの大きさは,水平距離7000 km,深さ2900 kmで,粘性や密度など一定の物性をもつ複数の層からなる.沈み込む海洋プレートの厚さと粘性,および上盤大陸プレートの動き(自由に動く場合とモデル側面に固定する場合)の条件を変えて結果を比較した.上盤プレートが自由に動く場合,海洋プレートの厚さと粘性に関係なく,沈み込みに伴い海溝が後退し,スラブ先端が下部マントルまで沈み込んだのちflat subductionに移行するとともに上盤プレートの応力状態が引張から圧縮に変化する.上盤プレートを固定した場合,固定した海溝から沈み込むため,スラブはほぼ鉛直に沈み込み,上盤プレートの応力状態は引張のまま変化しない.一方,深さ100〜300 kmでのスラブの応力状態は,おもにスラブの厚さと粘性に依存し,低粘性(1023 Pa s)かつ薄いスラブでは,DT応力が卓越するのに対し,高粘性(1024 Pa s)あるいは厚いスラブでは,unbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態が卓越する.低粘性で薄いスラブは曲げに対する抵抗が小さく,660 km境界での抵抗をスラブが褶曲することにより吸収するため,DC応力が上方へ伝播せず,より浅部(深さ100〜300 km)では負の浮力によるDT応力がunbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態よりも卓越する.一方,曲げに対する抵抗が大きいスラブでは,660 km境界での抵抗を吸収できずにDC応力が上方へ伝播するため,負の浮力によるDT応力よりもunbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態が卓越する結果になる.これらの結果は,東太平洋縁の沈み込み帯に特徴的な深さ100〜300 kmでDTが卓越するスラブの応力状態には,薄くて粘性の低い(1023 Pa s)スラブが必要であることを示している.
マントル物質の高温変形実験から推定されるクリープの活性化エネルギーは高く,それから予想されるスラブの粘性は1024 Pa s以上になる.しかし,かんらん岩など多相系岩石の拡散クリープでは粒成長速度が遅いため,粒成長の効果も考慮した拡散クリープの有効活性化エネルギーは小さくなると予想される.そこで,温度と圧力に依存するレオロジー則を使い,拡散クリープの有効活性化エネルギーとして110 kJ/mol(文献3)を仮定した2次元数値モデルで計算した.その結果,年齢の若いスラブの沈み込みでは,スラブの有効粘性係数は1023 Pa s以下になり,深さ100〜300 kmでDT応力が卓越するのに対し,古いスラブの沈み込みでは,スラブの温度が低いため,その粘性は1024 Pa s以上になり,深さ100〜300 kmでunbendingに伴うDTとDCのセットの応力状態が卓越する結果になった.
以上の結果より,深さ100〜300 kmのスラブの応力状態を説明するには,変形実験から推定されるよりもスラブが低粘性である必要があり,そのメカニズムとして,拡散クリープによって変形するスラブが考えられる.
(1) Alpert, et al., 2010. doi: 10.1029/2010GC003301
(2) Sandiford, et al., 2020. doi: 10.1029/2019TC005894
(3) Nakakoji & Hiraga, 2018. doi: 10.1029/2018jb015819