130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T1[Topic Session]Deformation and reaction of rocks and minerals

[1oral101-10] T1[Topic Session]Deformation and reaction of rocks and minerals

Sun. Sep 17, 2023 9:00 AM - 12:15 PM oral room 1 (4-11, Yoshida-South Campus Bldg. No 4)

Chiar:Keishi Okazaki(Hiroshima University), Masaoki Uno, Hideki Mukoyoshi(Shimane University)

11:00 AM - 11:30 AM

[T1-O-7] [Invited] Upscaling of seismic velocity: Effects of heterogeneity, dimensions, and permeability of cracks

【ハイライト講演】

*【ECS】Yuya Akamatsu1 (1. JAMSTEC)

世話人よりハイライトの紹介:広い時空間スケールの現象を扱う地質学において,小さな試料で取得した室内実験データを大きな地質学的スケールへいかに拡張するかは重要である.本発表では室内実験により得られた弾性波及び比抵抗データや掘削コア試料のCTスキャンデータなどから抽出したクラックの物理パラメーターを発表者独自の解析により拡張し,海洋地殻内のダメージ分布について議論している.※ハイライトとは

Keywords:Seismic velocity, Crack, Fracture

クラックなどの空隙を通じて海洋プレートに取り込まれた水は,沈み込み帯の地震活動や物質循環と密接に関連している.海底下の間隙水を直接観測することはできないが,岩石中の空隙に含まれる水は母岩の弾性的性質に大きく影響するため,地震波速度から水の存在を間接的に推定することができる.そのため,沈み込み帯などで地震波速度構造の調査が近年盛んに行われている.地震波速度の観測結果から間隙水の量や形状などの特徴を推定するためには,岩石の弾性的性質と間隙水の関係を知る必要がある.そのため,含水条件での岩石の弾性波速度を測定する実験的研究がこれまでに多く行われてきた.それらの実験結果は,実験試料スケールでのクラックの効果を反映している.一方で,海域での地震波探査では通常100 Hz以下の周波数を持つ地震波が用いられるため,観測される地震波が反映する構造は数百m以上に及ぶ.そこには,小さな実験試料では考慮できないクラックの空間的な不均質性の影響や,巨視的なクラックの効果も含まれているはずである.したがって,実験室で測定される弾性波速度から実際のフィールドで観測される地震波速度へのスケールアップを実現するためには,数百mを超えるスケールにおいて,実験室で確認されるようなマイクロクラックと実験試料には含まれないメソスケールのクラック(フラクチャー)が,どれくらい,どのように分布しているのかを理解する必要がある.そこで本研究は,クラックの不均質性とサイズの効果を評価するために,掘削コア試料をから得られた連続的な物性測定データおよび脈状鉱物の分布データから,地震波の波長スケールでミクロ・メソスケールのクラックがどのように分布しているのかを推定した.また,観測される地震波速度は,地震波が伝播するときの岩石内部の間隙水圧の平衡度合いによって変化する.そこで,得られたクラックとフラクチャーの空隙率とサイズから,岩石のミクロ・メソスケールでの浸透率をそれぞれ推定し,見かけの地震波速度に与える影響を調べた.

サンプルには,ICDP Oman Drilling Project Hole GT3Aで採取されたコア試料とその物性データを用いた.Hole GT3Aは,オマーンオフィオライトにおける海洋地殻のシート状岩脈からはんれい岩層への遷移帯に相当し,全長約400 mのコアがほぼ100%の回収率で得られた.まず.掘削コアの連続的なP波速度データから,コアに含まれる微視的なクラック(マイクロクラック)の分布を推定した.P波速度は掘削船ちきゅう船内のMSCL(Multi-Scanner Core Logger)システムで測定され,波長が数mm程度のP波速度が4 cm間隔で得られている.そのため,測定されたP波速度の深さ変化は,コアに含まれるマイクロクラックの量の変化を反映していると考えられる.そこで,有効媒質理論に基づいてP波速度からクラック空隙率を計算し,その深さ変化からマイクロクラックの巨視的なスケールでの空間分布を評価した.一方,メソスケールのクラック(フラクチャー)の分布は,MSCLや実験室での物性測定では考慮できない.そこで本研究は,コアを横切る数mm程度の幅をもつ脈状鉱物を,かつてのフラクチャーであると仮定し,脈状鉱物の分布からフラクチャーの分布を推定した.脈状鉱物は掘削コアのX線CT画像を用いて検出し,得られた脈状鉱物の深さ分布や形状から,フラクチャーの空隙率や空間分布を評価した.

その結果,Hole GT3Aにおけるマイクロクラックの平均空隙率は0.4%–0.6%,フラクチャーの平均空隙率は0.1%–0.3%と推定された.空隙率とサイズから推定される浸透率は,マイクロクラックを含む岩石では最大で10-16m2程度,フラクチャーを含む岩石では最大で10-10m2程度となった. これらの値をもとに,地震波探査の周波数(<100 Hz)での見かけの地震波速度をモデル計算した.その結果,フラクチャーは岩石の浸透率を大きく増加させ,岩石内部の間隙水圧が容易に平衡になることで,見かけの地震波速度を変化させる効果がマイクロクラックよりも大きいことが示された.これは,沈み込み帯などでしばしば観測される高Vp/Vs異常や地震波の減衰異常が,マイクロクラックだけでなくフラクチャーの存在に起因している可能性を示唆している.