130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T7[Topic Session]Frontiers of Mineral Resources Research

[1oral401-12] T7[Topic Session]Frontiers of Mineral Resources Research

Sun. Sep 17, 2023 9:00 AM - 12:15 PM oral room 4 (25-North Wing, Yoshida-South Campus Academic Center Bldg.)

Chiar:Kazutaka Yasukawa, Shiki Machida(Chiba Institute of Technology)

10:30 AM - 10:45 AM

[T7-O-6] Preliminary study for reconstructing paleoceanic Ag isotope ratio

*【ECS】Keishiro AZAMI1,2, Kazutaka YASUKAWA3, Yasuhiro KATO3,2 (1. Waseda University, 2. Ocean Resources Research Center for Next Generation, Chiba Institute of Technology, 3. The University of Tokyo)

Keywords:Ferromanganese crust, Silver

Agは人類が最初に利用した金属の1つであり,古代から中世は貨幣や装飾品,近代は銀塩写真,近年は電子部品や抗菌剤として広く用いられている.Agは水生無脊椎動物等に強い毒性を示すが,我々が利用するAgがどこから来てどこへ行くのか,すなわち鉱床におけるAgの起源,環境中に放たれたAgの挙動については未だ不明瞭である.地球表層におけるAg循環を明らかにするためには,地球表層物質のAg同位体比 (107Ag/109Ag) に基づく議論が不可欠である.しかし,有史以来続く人為的Ag汚染[1]により現代の海水から自然状態の海洋Ag同位体比を測定する事は不可能である.そのため,堆積岩や堆積物から古海洋Ag同位体比を復元する必要がある.
海洋には陸源物質やマントル物質,宇宙塵由来の物質や元素が流入している.それらは堆積物や堆積岩として沈積し,海洋プレートの沈み込みに伴って上部マントルや陸上へともたらされ,地球表層を循環する.そのため,地球表層の7割を占める海洋のAg同位体比の解明は,地球表層におけるAg循環を理解する上で非常に重要である.例えば, Ag鉱石と海洋のAg同位体比を比較する事で,鉱床(主に浅熱水鉱床)へのAg供給源や鉱体形成プロセスの解明につながる可能性がある.しかし,実用的なAg同位体分析法が開発されたのは2010年代であり,Ag同位体比に関する知見は未だ不足している.特に海洋ではその傾向が顕著であり,堆積物の試験的な分析結果が数件報告されているのみである[2].Agは堆積物の初期続成過程において,二次的な溶出や間隙水を通じた上下移動が起きる元素の1つと考えられるため[3],堆積物のAg同位体比が堆積当時の海洋Ag同位体比を保持している保証は無い.そのため,酸化的環境が保たれ,Agの再移動が無いと考えられるFe–Mnクラストは,古海洋Ag同位体比の復元に適した試料と言える.
上部地殻の平均Ag濃度が0.05 ppmであるのに対して,Fe–MnクラストのAg濃度は概ね1 ppm未満である[4].Fe–MnクラストがAgを海水から取り込む際に酸化還元を伴うのであればわずかな同位体比の変化を伴う可能性があるが,AgがFe–Mnクラストに取り込まれるプロセスは未だ明らかになっていない.そのため,本研究では古海洋Ag同位体比の復元に向けた予察的研究として,ICP-MSを用いて西太平洋のFe–Mnクラストの化学組成を分析し,Fe–Mnクラスト中のAgと相関を示す元素やAg濃度の時代変化を調べた.
Fe–Mnクラスト試料のAg濃度は上部地殻の平均濃度よりも高く (概ね0.1–0.4 ppm),Al濃度と正の相関を示さない事から,砕屑物は主要なAgのホスト相たり得ない.また,AsやAu濃度と無相関である事から,Ag鉱床で観察されるような含Ag鉱物粒子として存在しているわけではないと考えられる.一方で,Fe,Mn濃度とも明確な相関を持たない事から,ホスト相のFe–Mn酸化物の量によってAg濃度が決まるわけではなく,形成時の海水中の溶存Ag濃度や成長速度(クラスト表面のFe–Mn酸化物が海水からAgを取り込める時間)によってAg濃度が決まると考えられる.
Ag濃度と正の相関を示す元素としてCo,Cu,Zn,Snが挙げられる.CoはMn酸化物によって酸化されることでFe–Mnクラスト中に取り込まれるため,海水中の溶存Co濃度が一定ならばFe–Mnクラストの成長が遅いほど高濃度になると考えられている.一方,同様にMn酸化物よって酸化されて取り込まれるCeはAg濃度と相関を示さず,そもそもCuやZnはFe–Mn酸化物に取り込まれる際に酸化反応を伴わない.従って,Fe–MnクラストのAg濃度は成長速度よりも形成時の海水中の溶存Ag濃度によって決まると考えられる.Ag濃度と正の相関を示すCo,Cu,Zn,Snは,海洋における鉛直分布の特徴(鉛直輸送のメカニズム)は異なるが,平均滞留時間が海洋循環(約2×103年)より短い点が共通している.以上から,なんらかの局地的な現象により海水中の溶存Ag,Co,Cu,Zn,Sn濃度が連動して変化し,それに伴ってFe–MnクラストのAg濃度が変化していると考えられる.

引用文献
[1] Ranville et al. 2010, Environ. Sci. Technol., 1587-1593. [2] Luo et al. 2010, Anal. Chem., 3922-3928. [3] Morford et al. 2008, Mar. Chem., 77-88. [4] Hein et al. 1999, Handbook of marine mineral deposits, 239-281.