[T1-P-4] (entry) Serpentinization and Contact metamorphism processes based on spatial variation of mineral combinations in ultramafic rocks of the Sanbagawa Belt, Ina area, Nagano Prefecture, Japan
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
Keywords:ultramafic rocks, Sanbagawa Belt, contact metamorphism, serpentinization
[はじめに] 沈み込み型変成帯の超苦鉄質岩類に関して構成鉱物の空間変化と形成時の温度–圧力条件を推定することは,沈み込み境界深部の物質科学的検証を行う上で基礎的かつ必要不可欠である.また,貫入マグマの熱影響を経験した接触変成域は,温度上昇に伴う鉱物組み合わせの詳細把握が可能な「天然の加熱実験室」として有用である.そこで今回,蛇紋岩化と接触変成作用の両イベントを観察可能な,長野県伊那地域・三波川帯の超苦鉄質岩類に着目した.本研究地域では貫入境界面と超苦鉄質岩類の分布がほぼ直交し,同一層準において接触変成に伴う構成鉱物の空間変化を観察できる.また,三波川帯の広域変成作用の指標である変成分帯に基づけば,本地域の超苦鉄質岩類は全て緑泥石帯に分布し,ザクロ石帯以上の高変成度域のみに分布しウェッジマントル起源とされる四国中央部(Aoya et al., 2013)との比較においても重要な研究地域である.そこで本研究では,非接触変成域を含めた貫入境界に近づくにつれての広域かつ連続的な鉱物組み合わせの空間変化を追跡し,蛇紋岩化作用及び接触変成作用における変成プロセスを明らかにすることを研究目的とした.
[地質概要・試料採取・研究手法] 調査地域は,中央構造線と糸魚川–静岡構造線の会合部にあたり,これら2つの断層に挟まれて三波川帯が南北方向に細長く配列する.三波川帯の西部(三波川エリア)は主に泥質岩主体の結晶片岩類,東部(御荷鉾エリア)は玄武岩主体の御荷鉾緑色岩類からなる.超苦鉄質岩類は両エリアにおいて,地質体の配列に沿って分布が認められる.北端の三波川エリアでは木舟花崗閃緑岩体(木舟岩体)が約2×1 kmの規模で貫入し,周囲に接触変成作用を与えている(牧本ほか, 1996). 本研究では,木舟岩体の貫入境界から約20 km以内の範囲で,計30地点以上から超苦鉄質岩類を採取し,偏光顕微鏡観察・SEM-EDS・ラマン分光分析を用いて鉱物同定・鉱物化学組成分析を行った.加えて,木舟岩体については角閃石圧力計(Mutch et al., 2016)を用いて貫入圧力を推定するとともに,既存の超苦鉄質岩類のP–T図(Jenkins, 1981; Kempf et al., 2022)との比較より,変成反応,温度推定,及び流体影響について考察した.
[蛇紋岩化作用] 貫入境界から約2.5 km以上離れた地域では,接触変成作用の影響は認められず,蛇紋岩化作用のみを強く被った組織が発達する.これら蛇紋岩は,両エリア共に主にリザダイトからなるメッシュ状組織を呈す.また,三波川エリアではメッシュ組織内部に一部ブルーサイトが認められる一方,御荷鉾エリアではバスタイト組織が特徴的に卓越する.これらは,三波川エリアではカンラン石のみ,御荷鉾エリアではカンラン石と直方輝石の加水反応によりそれぞれ蛇紋石化が進行したことを示唆する.また,直方輝石の蛇紋石化ではSiO2流体が生成されること,及びブルーサイトはSiO2流体との反応により蛇紋石化することを考慮すると,御荷鉾エリアから三波川エリアへとkmスケールでSiO2流体が大規模に流入した可能性を示す.
[接触変成作用] 木舟岩体周辺の接触変成域では,鉱物組み合わせの系統的な変化が認められ,貫入境界に近づくにつれて順にⅠ~Ⅳ帯に区分した.各帯における特徴的な構成鉱物としては,Ⅰ帯がアンチゴライト,Ⅱ帯がカンラン石とタルク,Ⅲ帯がカンラン石,トレモラ閃石をコアにもつMg普通角閃石,スピネル,および輝石仮像,Ⅳ帯はⅢ帯の特徴に加え斜長石の出現が挙げられる.変成反応としては,Ⅰ帯はリザダイトからアンチゴライトへの相転移,Ⅱ帯はアンチゴライトの脱水反応,Ⅲ帯はトレモラ閃石の脱水反応と緑泥石の単独分解,Ⅳ帯は角閃石とカンラン石の脱水反応が推測される.また,木舟岩体より推定した圧力条件(約2 kbar)を考慮すると,温度条件は,Ⅰ帯が約300~400 ºC,Ⅱ帯が約500~600 ºC,Ⅲ帯が約700~800 ºC,Ⅳ帯が800 ºC以上に制約される.また,アンチゴライトを切るクリソタイル脈がI帯のみに貫入境界から同心円状に分布して認められる一方,Ⅳ帯ではMg普通角閃石を部分的に置換したパーガス閃石の存在が南北方向に認められる.これらは,接触変成作用初期と後期のそれぞれの時期に,経路・組成の異なる流体移動が生じていた可能性を示す.
[引用文献] Aoya et al., 2013, Geology, 41, 451-454; Jenkins, 1981, CMP, 77, 166-176; Kempf et al., 2022, Swiss J. Geosci., 115, 1-30; 牧本ほか, 1996, 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅); Mutch et al., 2016, CMP, 171, 1-27.
[地質概要・試料採取・研究手法] 調査地域は,中央構造線と糸魚川–静岡構造線の会合部にあたり,これら2つの断層に挟まれて三波川帯が南北方向に細長く配列する.三波川帯の西部(三波川エリア)は主に泥質岩主体の結晶片岩類,東部(御荷鉾エリア)は玄武岩主体の御荷鉾緑色岩類からなる.超苦鉄質岩類は両エリアにおいて,地質体の配列に沿って分布が認められる.北端の三波川エリアでは木舟花崗閃緑岩体(木舟岩体)が約2×1 kmの規模で貫入し,周囲に接触変成作用を与えている(牧本ほか, 1996). 本研究では,木舟岩体の貫入境界から約20 km以内の範囲で,計30地点以上から超苦鉄質岩類を採取し,偏光顕微鏡観察・SEM-EDS・ラマン分光分析を用いて鉱物同定・鉱物化学組成分析を行った.加えて,木舟岩体については角閃石圧力計(Mutch et al., 2016)を用いて貫入圧力を推定するとともに,既存の超苦鉄質岩類のP–T図(Jenkins, 1981; Kempf et al., 2022)との比較より,変成反応,温度推定,及び流体影響について考察した.
[蛇紋岩化作用] 貫入境界から約2.5 km以上離れた地域では,接触変成作用の影響は認められず,蛇紋岩化作用のみを強く被った組織が発達する.これら蛇紋岩は,両エリア共に主にリザダイトからなるメッシュ状組織を呈す.また,三波川エリアではメッシュ組織内部に一部ブルーサイトが認められる一方,御荷鉾エリアではバスタイト組織が特徴的に卓越する.これらは,三波川エリアではカンラン石のみ,御荷鉾エリアではカンラン石と直方輝石の加水反応によりそれぞれ蛇紋石化が進行したことを示唆する.また,直方輝石の蛇紋石化ではSiO2流体が生成されること,及びブルーサイトはSiO2流体との反応により蛇紋石化することを考慮すると,御荷鉾エリアから三波川エリアへとkmスケールでSiO2流体が大規模に流入した可能性を示す.
[接触変成作用] 木舟岩体周辺の接触変成域では,鉱物組み合わせの系統的な変化が認められ,貫入境界に近づくにつれて順にⅠ~Ⅳ帯に区分した.各帯における特徴的な構成鉱物としては,Ⅰ帯がアンチゴライト,Ⅱ帯がカンラン石とタルク,Ⅲ帯がカンラン石,トレモラ閃石をコアにもつMg普通角閃石,スピネル,および輝石仮像,Ⅳ帯はⅢ帯の特徴に加え斜長石の出現が挙げられる.変成反応としては,Ⅰ帯はリザダイトからアンチゴライトへの相転移,Ⅱ帯はアンチゴライトの脱水反応,Ⅲ帯はトレモラ閃石の脱水反応と緑泥石の単独分解,Ⅳ帯は角閃石とカンラン石の脱水反応が推測される.また,木舟岩体より推定した圧力条件(約2 kbar)を考慮すると,温度条件は,Ⅰ帯が約300~400 ºC,Ⅱ帯が約500~600 ºC,Ⅲ帯が約700~800 ºC,Ⅳ帯が800 ºC以上に制約される.また,アンチゴライトを切るクリソタイル脈がI帯のみに貫入境界から同心円状に分布して認められる一方,Ⅳ帯ではMg普通角閃石を部分的に置換したパーガス閃石の存在が南北方向に認められる.これらは,接触変成作用初期と後期のそれぞれの時期に,経路・組成の異なる流体移動が生じていた可能性を示す.
[引用文献] Aoya et al., 2013, Geology, 41, 451-454; Jenkins, 1981, CMP, 77, 166-176; Kempf et al., 2022, Swiss J. Geosci., 115, 1-30; 牧本ほか, 1996, 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅); Mutch et al., 2016, CMP, 171, 1-27.