[T1-P-12] (entry) Geological records of magma intrusion possibly related to subvolcanic deep low-frequency earthquakes
★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
Keywords:volcanic earthquakes, deep low-frequency earthquakes, Antarctica, Reactive transport modelling, Stress state
近年の地震観測で,火山性深部低周波地震がマグマ性流体の移動により誘発される可能性が示唆されている(Yukutake et al.,2019).その実態検討には,マグマ貫入による地殻破壊の現象理解が重要で,これが下部地殻中の高度変成岩に記録されている可能性がある.そこで本研究では,高度変成岩から,下部地殻におけるマグマ貫入の深度,温度,応力状態,破砕様式を制約し,マグマから放出された流体の母岩への浸透時間を推定した.そして,メルトの貫入温度と含水量を推定し,一回のマグマ貫入に伴う地殻破壊現象と,その地震との関連性について検討した.
調査地域は東南極セール・ロンダ―ネ山地人差し指尾根で,約6億年前に東西ゴンドワナ大陸の衝突に関連した高度変成岩分布地域である(Osanai et al., 2013).花崗岩質岩脈(~100m)とそこから派生した角閃石脈によって,母岩の面構造が高角に切られている.また,岩脈には引張せん断き裂が観察された.母岩は赤褐色の珪長質グラニュライトで主な鉱物は直方輝石,単斜輝石,斜長石,角閃石であるが,花崗岩質岩脈に沿ってその両側に,白色の反応帯を伴う.反応帯では,珪長質グラニュライト中の直方輝石と単斜輝石は角閃石や黒雲母に置換されている.
鉱物化学組成を分析し,岩脈貫入時の温度・圧力条件を推定した.珪長質グラニュライトから花崗岩質岩脈にかけて,斜長石はXAnが0.44から0.25に,角閃石はAlT1が1.32 から 2.10 apfuなど,鉱物化学組成は規則的に変化している.また,燐灰石の塩素濃度は0から1.2 wt%の移流拡散的プロファイルを示した.岩脈貫入時の温度・圧力条件推定のために角閃石-斜長石温度計(Holland & Blundy,1994),角閃石圧力計(Anderson & Smith,1995)を岩脈/反応帯境界に適用した.なお,岩脈/反応境界部分では,石英,カリ長石,斜長石,角閃石,黒雲母,イルメナイト,メルト,流体が共存し,前述の地質温度圧力計の適用条件を満たす.その結果は〜700℃,〜0.8 GPaで,これが岩脈貫入による反応帯形成時の温度・圧力条件を示すと考えられる.
岩脈の組成から,メルトの岩脈貫入時の温度と含水量を推定した.岩脈中には150–170ppmのZrが含まれ,岩脈貫入時のメルトがZrに飽和していたと仮定し,Zr飽和状態温度を推定した(Watson & Harrison,1983).これが約820℃を示し,岩脈貫入時の最低温度に相当すると考えられる.メルトの含水量は,反応帯形成に必要な含水量から最低1 wt%,820℃におけるメルトの飽和含水量から最大12 wt%(Papale et al., 2006)と推定された.
燐灰石中の塩素濃度の移流拡散的なプロファイルについて局所平衡を仮定した反応移流-拡散モデル(e.g.,Mindaleva et al.,2020)を適用し,流体の母岩浸透継続時間を推定した.ペクレ数は50-180,流体浸透継続時間は35–120時間と推定された.高いペクレ数は移流卓越を示し,これは高流体圧を示唆しており,流体移動の継続時間も~100時間と推定される.
岩脈の方位から岩脈が貫入時の広域的応力場を推定した.ドローン写真から生成した3次元露頭モデルから,91個の花崗岩質岩脈の方位を計測した.岩脈の方位は,ほとんどが走向は西南西,傾斜はほぼ鉛直であった.この岩脈方位の分布が応力場とマグマ流体圧に起因すると仮定し,引張割れ目に対する古応力インバージョン(GArcmB; Yamaji,2016)から応力状態を推定した結果,σ2が比較的鉛直,σ1とσ3が比較的水平で,応力比がφ=(σ2−σ3)/(σ1−σ3)=0.26の一定の応力状態が示唆された.
以上より,本研究における単一岩脈でのマグマ貫入による地殻破壊プロセスを考察した.花崗岩質マグマの貫入が,約700 ℃,約0.8 GPa,一定応力状態の下部地殻で生じ,引張せん断き裂を形成.冷却過程でマグマから含塩素流体が放出され,流体圧の比較的高い状態が約100時間継続,母岩へと浸透した.この間に,反応帯と角閃石脈を形成したと考えられる.
本研究によって推定した,単一岩脈の地殻破壊の深度,破壊様式,現象継続時間は,エピソディックな火山性深部低周波地震(Kurihara & Obara,2021)とおおむね一致する. このことから,高度変成岩中へのマグマ貫入の露頭規模での地質学的記録から,下部地殻へのマグマ貫入が深部低周波地震に関連している可能性を指摘できる.今後,熱力学計算,母岩に作用する差応力や,岩脈貫入時の地震規模の推定から,せん断変位の時定数や低周波地震の発生メカニズムに関するより詳細な検討が可能であろう.
調査地域は東南極セール・ロンダ―ネ山地人差し指尾根で,約6億年前に東西ゴンドワナ大陸の衝突に関連した高度変成岩分布地域である(Osanai et al., 2013).花崗岩質岩脈(~100m)とそこから派生した角閃石脈によって,母岩の面構造が高角に切られている.また,岩脈には引張せん断き裂が観察された.母岩は赤褐色の珪長質グラニュライトで主な鉱物は直方輝石,単斜輝石,斜長石,角閃石であるが,花崗岩質岩脈に沿ってその両側に,白色の反応帯を伴う.反応帯では,珪長質グラニュライト中の直方輝石と単斜輝石は角閃石や黒雲母に置換されている.
鉱物化学組成を分析し,岩脈貫入時の温度・圧力条件を推定した.珪長質グラニュライトから花崗岩質岩脈にかけて,斜長石はXAnが0.44から0.25に,角閃石はAlT1が1.32 から 2.10 apfuなど,鉱物化学組成は規則的に変化している.また,燐灰石の塩素濃度は0から1.2 wt%の移流拡散的プロファイルを示した.岩脈貫入時の温度・圧力条件推定のために角閃石-斜長石温度計(Holland & Blundy,1994),角閃石圧力計(Anderson & Smith,1995)を岩脈/反応帯境界に適用した.なお,岩脈/反応境界部分では,石英,カリ長石,斜長石,角閃石,黒雲母,イルメナイト,メルト,流体が共存し,前述の地質温度圧力計の適用条件を満たす.その結果は〜700℃,〜0.8 GPaで,これが岩脈貫入による反応帯形成時の温度・圧力条件を示すと考えられる.
岩脈の組成から,メルトの岩脈貫入時の温度と含水量を推定した.岩脈中には150–170ppmのZrが含まれ,岩脈貫入時のメルトがZrに飽和していたと仮定し,Zr飽和状態温度を推定した(Watson & Harrison,1983).これが約820℃を示し,岩脈貫入時の最低温度に相当すると考えられる.メルトの含水量は,反応帯形成に必要な含水量から最低1 wt%,820℃におけるメルトの飽和含水量から最大12 wt%(Papale et al., 2006)と推定された.
燐灰石中の塩素濃度の移流拡散的なプロファイルについて局所平衡を仮定した反応移流-拡散モデル(e.g.,Mindaleva et al.,2020)を適用し,流体の母岩浸透継続時間を推定した.ペクレ数は50-180,流体浸透継続時間は35–120時間と推定された.高いペクレ数は移流卓越を示し,これは高流体圧を示唆しており,流体移動の継続時間も~100時間と推定される.
岩脈の方位から岩脈が貫入時の広域的応力場を推定した.ドローン写真から生成した3次元露頭モデルから,91個の花崗岩質岩脈の方位を計測した.岩脈の方位は,ほとんどが走向は西南西,傾斜はほぼ鉛直であった.この岩脈方位の分布が応力場とマグマ流体圧に起因すると仮定し,引張割れ目に対する古応力インバージョン(GArcmB; Yamaji,2016)から応力状態を推定した結果,σ2が比較的鉛直,σ1とσ3が比較的水平で,応力比がφ=(σ2−σ3)/(σ1−σ3)=0.26の一定の応力状態が示唆された.
以上より,本研究における単一岩脈でのマグマ貫入による地殻破壊プロセスを考察した.花崗岩質マグマの貫入が,約700 ℃,約0.8 GPa,一定応力状態の下部地殻で生じ,引張せん断き裂を形成.冷却過程でマグマから含塩素流体が放出され,流体圧の比較的高い状態が約100時間継続,母岩へと浸透した.この間に,反応帯と角閃石脈を形成したと考えられる.
本研究によって推定した,単一岩脈の地殻破壊の深度,破壊様式,現象継続時間は,エピソディックな火山性深部低周波地震(Kurihara & Obara,2021)とおおむね一致する. このことから,高度変成岩中へのマグマ貫入の露頭規模での地質学的記録から,下部地殻へのマグマ貫入が深部低周波地震に関連している可能性を指摘できる.今後,熱力学計算,母岩に作用する差応力や,岩脈貫入時の地震規模の推定から,せん断変位の時定数や低周波地震の発生メカニズムに関するより詳細な検討が可能であろう.