[T6-P-28] Ammonite concretion formation in the iron reduction zone during early diagenesis
Keywords:carbonate concretion, early diagenesis, ammonite
【はじめに】炭酸塩コンクリーションは、堆積岩(物)中に形成される緻密な炭酸塩質岩塊で、多くの場合、その中には保存状態の良い化石が含まれている。中でも、中生代の海成層からはアンモナイトを含むコンクリーション(「アンモナイトコンクリーション」)が多く産出する。これに含まれる多くのアンモナイトは立体的な殻形状を保っており、連室細管のような繊細な構造が保存されることは珍しくない。このことから、アンモナイトコンクリーションは、アンモナイトの古生物学的研究において、極めて重要な役割を果たしてきた。しかし、それらがどのような地球化学的な過程を経て形成されたのかは、未だよく分かっていない。本研究は、北海道北部・天塩中川地域の白亜系蝦夷層群オソウシナイ層から産出したコンクリーションとアンモナイト内部の方解石充填物について、それらの産状、鉱物学的または地球化学的特徴を分析し、アンモナイトコンクリーションの形成環境を推定した。
【地質概説】オソウシナイ層は白亜紀の前弧海盆で堆積したもので、生物擾乱の著しい暗灰色泥岩を主体とし、無数のアンモナイトコンクリーションを含んでいる。オソウシナイ層からは陸上植物化石が多産すること、また稀ではあるが陸上爬虫類化石も見つかることから、陸からそう遠くない堆積環境が想定される。
【結果】コンクリーションにはアンモナイトや二枚貝類などの化石が密集して含まれていた。それらは立体的に保存されており、殻表面の溶解は認められなかった。いくつかのアンモナイトでは、住房部(生存時に軟体部が収まっていた部分)の奥が炭酸塩鉱物で充填物されていた。充填物のうち最も殻に近い側は、厚さ約0.3~2.2 mmの軸放射性の方解石層(BC1)で構成されている。BC1にはFe濃集帯とリン酸カルシウム包有物が見られた。また、その炭素安定同位体比(δ13C)は−22.5~1.2‰、酸素安定同位体比(δ18O)−1.0~−0.2‰で、δ13Cは負の値が優勢であった。コンクリーションは方解石質で、母岩に比べて相対的にFe、Mn、Mg、Ca、Pが濃集し、その元素組成はBC1と類似する。コンクリーションのδ13Cは−18.6~−0.7‰、δ18Oは−2.8~−1.4‰であった。
【考察】オソウシナイ層のアンモナイトの住房部奥部には、方解石の充填物が形成されていた。この産状は、住房部に軟体部が残ったまま堆積物に埋没した証拠と解釈されている(Olivero, 2007)。本研究の方解石充填物は、負のδ13Cと親生元素のP濃集を示すことから、BC1とコンクリーションは、アンモナイトの遺骸を含む有機物が炭素源になって形成されたと考えられる。また、BC1に見られるFeの濃集帯は、BC1が形成された時に間隙水のFe濃度が増大したことを示唆している。有機物が堆積物表層近くの鉄還元帯で分解されると、Fe3+がFe2+に還元され、間隙水中のFe2+濃度が上昇する(Burdige, 1993)。このことから、BC1は鉄還元帯での有機物分解に伴って形成されたと考えられる。また、BC1とコンクリーションの元素組成や同位対比組成が互いに類似することから、コンクリーションも鉄還元帯で形成された可能性が高い。鉄還元帯での有機物分解は、Fe3+が豊富に供給されることと、生物擾乱によって堆積物が混合される環境では特に促進される(Canfield et al., 1993)。オソウシナイ層は陸原砕屑物(鉄酸化物としてFe3+を含む)が多く供給される環境で堆積したことと、生物擾乱が著しいことから、鉄還元帯での有機物分解が促進され、結果として続成過程の初期にコンクリーションが形成されやすい環境であったと推察される。コンクリーションの形成環境の推定結果は、堆積構造と化石の保存状態との関係を整合的に説明することができる。蝦夷層群では、葉理の発達した層準に比べて、生物擾乱の顕著な層準は、コンクリーション内部の化石の保存状態が良いことが指摘されている(Maeda, 1991)。このことは、生物擾乱の顕著な層準では、コンクリーションの形成が埋没後の早い時期に生じたことを示唆する。これは、生物擾乱が顕著な堆積環境では鉄還元帯での有機物分解が促進されるため、葉理が保存されるような堆積環境と比べて、続成過程の初期にコンクリーションの形成に適した環境が生じたためと考えられる。
【引用文献】 Burdige, 1993, Earth Sci. Rev., 35, 249–284. Canfield et al., 1993, GCA, 57, 3867–3883. Maeda, 1991, Lethaia, 24, 69–82. Olivero, 2007, Palaios, 22, 586–597.
【地質概説】オソウシナイ層は白亜紀の前弧海盆で堆積したもので、生物擾乱の著しい暗灰色泥岩を主体とし、無数のアンモナイトコンクリーションを含んでいる。オソウシナイ層からは陸上植物化石が多産すること、また稀ではあるが陸上爬虫類化石も見つかることから、陸からそう遠くない堆積環境が想定される。
【結果】コンクリーションにはアンモナイトや二枚貝類などの化石が密集して含まれていた。それらは立体的に保存されており、殻表面の溶解は認められなかった。いくつかのアンモナイトでは、住房部(生存時に軟体部が収まっていた部分)の奥が炭酸塩鉱物で充填物されていた。充填物のうち最も殻に近い側は、厚さ約0.3~2.2 mmの軸放射性の方解石層(BC1)で構成されている。BC1にはFe濃集帯とリン酸カルシウム包有物が見られた。また、その炭素安定同位体比(δ13C)は−22.5~1.2‰、酸素安定同位体比(δ18O)−1.0~−0.2‰で、δ13Cは負の値が優勢であった。コンクリーションは方解石質で、母岩に比べて相対的にFe、Mn、Mg、Ca、Pが濃集し、その元素組成はBC1と類似する。コンクリーションのδ13Cは−18.6~−0.7‰、δ18Oは−2.8~−1.4‰であった。
【考察】オソウシナイ層のアンモナイトの住房部奥部には、方解石の充填物が形成されていた。この産状は、住房部に軟体部が残ったまま堆積物に埋没した証拠と解釈されている(Olivero, 2007)。本研究の方解石充填物は、負のδ13Cと親生元素のP濃集を示すことから、BC1とコンクリーションは、アンモナイトの遺骸を含む有機物が炭素源になって形成されたと考えられる。また、BC1に見られるFeの濃集帯は、BC1が形成された時に間隙水のFe濃度が増大したことを示唆している。有機物が堆積物表層近くの鉄還元帯で分解されると、Fe3+がFe2+に還元され、間隙水中のFe2+濃度が上昇する(Burdige, 1993)。このことから、BC1は鉄還元帯での有機物分解に伴って形成されたと考えられる。また、BC1とコンクリーションの元素組成や同位対比組成が互いに類似することから、コンクリーションも鉄還元帯で形成された可能性が高い。鉄還元帯での有機物分解は、Fe3+が豊富に供給されることと、生物擾乱によって堆積物が混合される環境では特に促進される(Canfield et al., 1993)。オソウシナイ層は陸原砕屑物(鉄酸化物としてFe3+を含む)が多く供給される環境で堆積したことと、生物擾乱が著しいことから、鉄還元帯での有機物分解が促進され、結果として続成過程の初期にコンクリーションが形成されやすい環境であったと推察される。コンクリーションの形成環境の推定結果は、堆積構造と化石の保存状態との関係を整合的に説明することができる。蝦夷層群では、葉理の発達した層準に比べて、生物擾乱の顕著な層準は、コンクリーション内部の化石の保存状態が良いことが指摘されている(Maeda, 1991)。このことは、生物擾乱の顕著な層準では、コンクリーションの形成が埋没後の早い時期に生じたことを示唆する。これは、生物擾乱が顕著な堆積環境では鉄還元帯での有機物分解が促進されるため、葉理が保存されるような堆積環境と比べて、続成過程の初期にコンクリーションの形成に適した環境が生じたためと考えられる。
【引用文献】 Burdige, 1993, Earth Sci. Rev., 35, 249–284. Canfield et al., 1993, GCA, 57, 3867–3883. Maeda, 1991, Lethaia, 24, 69–82. Olivero, 2007, Palaios, 22, 586–597.