130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T1[Topic Session]Deformation and reaction of rocks and minerals

[2oral101-04] T1[Topic Session]Deformation and reaction of rocks and minerals

Mon. Sep 18, 2023 8:45 AM - 9:45 AM oral room 1 (4-11, Yoshida-South Campus Bldg. No 4)

Chiar:Hideki Mukoyoshi(Shimane University), Keishi Okazaki(Hiroshima University), Masaoki Uno(Tohoku University)

9:00 AM - 9:15 AM

[T1-O-12] Deformation conditions and deformation history of calcite mylonites along Shajigami shear zone at eastern margin of Abukuma Mountains, Northeastern Japan

*【ECS】Hiroaki YOKOYAMA1, Jun MUTO1, Hiroyuki NAGAHAMA1 (1. Tohoku Univ.)

Keywords:calcite mylonite, calcite twin, dynamic recrystallization, differential stress

地殻を構成する岩石がどの程度の応力で変形したかを知ることは,岩石圏の強度やプレート運動による長期的な断層運動などのテクトニックプロセスを理解するために不可欠である.地下深部で形成されるマイロナイトの変形時の応力推定として,動的再結晶粒子の粒径応力計(たとえば,Platt & De Bresser, 2017)や方解石の双晶密度応力計(たとえば,Rybacki et al., 2013)などが挙げられる.動的再結晶は高温での変形,方解石双晶は低温で主要な変形メカニズムである.しかしながら,阿武隈山地の東縁にある社地神剪断帯沿いに白亜紀花崗岩類に接して分布する方解石マイロナイト中には,動的再結晶と変形双晶が両方みられる(久田・高木, 1992).本研究では,双晶密度応力計に関する先行研究に対してどの応力計を適用すべきか考察を行った.その上で,社地神剪断帯沿いに産する方解石マイロナイト試料の微細組織解析を行い,変形当時の差応力推定を行った.
 方解石の双晶密度応力計の先行研究 (Rowe and Rutter, 1990; Sakaguchi et al., 2011; Rybacki et al., 2013; Rutter et al., 2022) の実験条件と結果をまとめたところ,任意の差応力において低封圧条件 (100 ≦ Pc ≦ 225 MPa) よりも高封圧条件 (300 ≦ Pc ≦ 400 MPa) で双晶密度が大きくなる関係が見られた.ここで,石灰岩マイロナイトを含めた相馬地域の地質は,変成度は高くとも弱いスレート構造が見られる程度であり,300 MPaを超えるような圧力環境にはなかったと推察される.ゆえに,低封圧条件のデータに対してのみフィッティングを行うと,σ = 26.2√NL という式が得られた.ここで,σ は差応力 (MPa),NL は双晶密度 (/mm) である.本研究の双晶密度を用いた応力推定ではこの式を用いる.
 方解石マイロナイトの微細組織の観察では,双晶が動的再結晶粒子によって切られていることより,双晶の後に動的再結晶が起きたことが分かった.さらに,炭質物ラマン温度計 (Kouketsu et al., 2014) によって比熱温度を推定したところ,340 ± 30 ˚C ~ 250 ± 30 ˚Cの温度が得られ,白亜紀花崗岩類に近いところほど高い温度を被った傾向が見られた.方解石の双晶密度による応力計では,双晶変形時の差応力として212-283 MPaと推定された.また,動的再結晶粒子の粒径応力計 (Platt and De Bresser, 2017) を用いて,動的再結晶時には25-43 MPaの差応力が見積られた.双晶密度応力計と粒径応力計で推定された応力値は,白亜紀花崗岩類からの距離に応じた空間変化は見られなかった.さらに,上記の温度と応力値を用いて方解石の転位クリープ流動則 (Renner et al., 2002) により歪速度を推定すると,花崗岩類に近い部分では10-12-10-11 /s,花崗岩類から離れた部分では10-14-10-13 /sという値が得られた.
 これらの結果より社地神剪断帯沿いに産する方解石マイロナイトは以下のような変形を受けたと考えられる.まず,白亜紀花崗岩の貫入初期の圧縮により相馬地域の褶曲構造が形成された(原・梅村,1979).その後,花崗岩類の上昇に伴う温度上昇により方解石の動的再結晶が起こった.この時,応力は空間的に一様に分布していたものの,白亜紀花崗岩類に近い部分で一桁以上速い歪速度で変形していたと考えられる.さらに,これらの結果は上部地殻を構成する岩石が,変形条件に応じて変形機構がどのように遷移するのかを明らかにする上で重要な意義を持つ.

引用文献
原郁夫・梅村隼夫, 1979, 日本列島の基盤, 加納博教授記念論文集, 559-578.
久田司・高木秀雄, 1992, 地質雑, 98, 137-154.
Kouketsu, Y. et al., 2014, Island Arc, 23. 33-50.
Platt, J. P., and De Bresser, J.H.P., 2017, J. Struct. Geol., 105, 80-87.
Renner, J. et al., 2002, J. Geophys. Res. Solid Earth, 107, 2364.
Rowe, K. J., and Rutter, E.H., 1990, J. Struct. Geol., 12, 1-17.
Rutter, E.H. et al., 2022, Geosciences, 12, 222.
Rybacki, E. et al., 2013, J. Struct. Geol., 601, 20-36.
Sakaguchi, A. et al., 2011, Geophys. Res. Lett., 38, L09316.