10:00 AM - 10:15 AM
[T2-O-1] Multiple orogenic events recorded in zircon-hosted melt and fluid inclusions
【ハイライト講演】
世話人よりハイライトの紹介:中央ヒマラヤに産出する正片麻岩を対象に,ジルコン及びその包有物の多角的分析から,ヒマラヤ造山運動に先立つ古生代初期のマグマ―流体活動の解読を目指した研究である.講演者らは詳細な組織観察に加え,ジルコンの微量元素とウラン・鉛局所年代測定を系統的に行うことで,複数回の造山運動に起因するマグマ―流体活動履歴を読み取ることに成功した.ヒマラヤ地域の地史を鮮明にする研究成果であり,今後の進展が期待される.※ハイライトとは
Keywords:Himalaya, zircon, fluid inclusion, melt inclusion, U-Pb dating
造山運動に伴う地殻物質の生成・改変は、大陸地殻進化の基本的なプロセスであるが、古い造山運動の記録は新しい造山運動により上書きされ、変成鉱物の内部組織や包有物にのみ残されている場合が多い。ヒマラヤに広く分布する正片麻岩は、ゴンドワナ大陸北東縁辺において古生代初期に生じたビンフェディアン造山運動 (Cawood et al., 2007; 2021)に伴い貫入した花崗岩が原岩であるとされているが、ザクロ石などの変成鉱物に乏しく、その詳細は明らかにされていない。本研究では中央ヒマラヤに分布する正片麻岩に産するジルコンの内部組織と包有物に着目し、ヒマラヤ造山運動に伴う高温変成作用によって上書きされた古生代初期のマグマ―流体活動履歴の解読を試みた。
中央ヒマラヤ、カリガンダキ川沿いに分布する正片麻岩の主要鉱物組み合わせは、石英+カリ長石+斜長石+白雲母+黒雲母+ザクロ石であり副成分鉱物として電気石、燐灰石、モナズ石、ジルコン、チタン鉄鉱を産する。ジルコンはマトリクスに多く見られるほか、ザクロ石、黒雲母、燐灰石中の包有物として産する。ジルコン中には石英、カリ長石、斜長石、黒雲母、燐灰石などの鉱物包有物に加えて、流体包有物や多相固体包有物が観察される。本研究ではジルコン中の包有物記載を行った後、ヒーティングステージを用いた流体包有物の氷点測定、CL像撮影、EPMAによる元素マッピングを行い、内部組織の分類を行った。またレーザーアブレーション分流法とICP質量分析法を組み合わせて(LASS-ICP-MS)各領域の微量元素とU–Pb年代の同時測定を行った。
本研究ではジルコンの内部組織を内側より1) inner-core, 2) outer-core, 3) dark annulus, 4) metamorphic rimに区分した。それぞれの領域の組織は、より外部の組織により切られている。1)inner-coreはCL像で波動累帯構造またはセクター構造を示し、U–Pb年代は>1000 Maである。2)outer-coreはCL像で振動累帯構造を示し、U–Pb年代は510–460 Maである。outer-coreには石英や黒雲母などの鉱物包有物に加え、中塩濃度(2~7 %NaCleq)の初生的な流体包有物、多相固体包有物が多く見られる。一部の多相固体包有物中には自形性の良い石英やカリ長石、黄銅鉱、蛍石、閃亜鉛鉱、金属ビスマスなどが産する。このことから、outer-coreは高度に分化したS-type花崗岩質メルトから晶出したと考えられる。3) dark annulusはCL像で暗色を呈する円弧状の領域として認識され、P, Y, REE, Uに富み、U–Pb年代は490–440 Maである。dark annulusにはゼノタイム、モナズ石、トール石などの鉱物包有物のほか高塩濃度(10~11%NaCleq)の初生的な流体包有物が多くみられる。dark annulusの包有物に富み多孔質な組織は、高塩濃度流体の流入とそれに伴うジルコンの溶解再沈殿反応により形成されたものと考えられる(Geisler et al., 2007)。outer-coreとdark annulus中の包有物とU-Pb年代は、これらの領域がビンフェディアン造山運動に伴う地殻の部分溶融とそれに伴うS-type花崗岩の活動、その後の高塩流体の活動に伴い溶解・成長したことを示唆する。4)metamorphic rimはジルコン最外縁に薄く成長した領域として認識され、一部がdark annulusを脈状に切る。U–Pb年代は45–17 Maであり、Gd/Yb比から複数の成長ステージが認められる。このことからヒマラヤの衝突型造山運動に伴う高温変成作用の複数ステージでジルコンが成長したことが示唆される。以上の結果は、ジルコンのouter-coreとdark annulusに記録されたビンフェディアン造山運動に伴うマグマ―流体活動の痕跡が、後のヒマラヤの高温型変成作用でもリセットされていないことを示唆している。このように、複数回の造山運動に伴うマグマ―流体活動履歴を解読する際に、ジルコンという強固なカプセルに保存されたメルト・流体包有物が重要な手がかりとなる。
引用文献
Cawood, P. A., Johnson, M. R., & Nemchin, A. A. (2007)., Earth Planet. Sci. Lett., 255, 70–84.
Cawood, P. A., Martin, E. L., Murphy, J. B., & Pisarevsky, S. A. (2021)., Earth Planet. Sci. Lett., 568, 117057.
Geisler, T., Schaltegger, U., & Tomaschek, F. (2007)., Elements, 3, 43–50.
中央ヒマラヤ、カリガンダキ川沿いに分布する正片麻岩の主要鉱物組み合わせは、石英+カリ長石+斜長石+白雲母+黒雲母+ザクロ石であり副成分鉱物として電気石、燐灰石、モナズ石、ジルコン、チタン鉄鉱を産する。ジルコンはマトリクスに多く見られるほか、ザクロ石、黒雲母、燐灰石中の包有物として産する。ジルコン中には石英、カリ長石、斜長石、黒雲母、燐灰石などの鉱物包有物に加えて、流体包有物や多相固体包有物が観察される。本研究ではジルコン中の包有物記載を行った後、ヒーティングステージを用いた流体包有物の氷点測定、CL像撮影、EPMAによる元素マッピングを行い、内部組織の分類を行った。またレーザーアブレーション分流法とICP質量分析法を組み合わせて(LASS-ICP-MS)各領域の微量元素とU–Pb年代の同時測定を行った。
本研究ではジルコンの内部組織を内側より1) inner-core, 2) outer-core, 3) dark annulus, 4) metamorphic rimに区分した。それぞれの領域の組織は、より外部の組織により切られている。1)inner-coreはCL像で波動累帯構造またはセクター構造を示し、U–Pb年代は>1000 Maである。2)outer-coreはCL像で振動累帯構造を示し、U–Pb年代は510–460 Maである。outer-coreには石英や黒雲母などの鉱物包有物に加え、中塩濃度(2~7 %NaCleq)の初生的な流体包有物、多相固体包有物が多く見られる。一部の多相固体包有物中には自形性の良い石英やカリ長石、黄銅鉱、蛍石、閃亜鉛鉱、金属ビスマスなどが産する。このことから、outer-coreは高度に分化したS-type花崗岩質メルトから晶出したと考えられる。3) dark annulusはCL像で暗色を呈する円弧状の領域として認識され、P, Y, REE, Uに富み、U–Pb年代は490–440 Maである。dark annulusにはゼノタイム、モナズ石、トール石などの鉱物包有物のほか高塩濃度(10~11%NaCleq)の初生的な流体包有物が多くみられる。dark annulusの包有物に富み多孔質な組織は、高塩濃度流体の流入とそれに伴うジルコンの溶解再沈殿反応により形成されたものと考えられる(Geisler et al., 2007)。outer-coreとdark annulus中の包有物とU-Pb年代は、これらの領域がビンフェディアン造山運動に伴う地殻の部分溶融とそれに伴うS-type花崗岩の活動、その後の高塩流体の活動に伴い溶解・成長したことを示唆する。4)metamorphic rimはジルコン最外縁に薄く成長した領域として認識され、一部がdark annulusを脈状に切る。U–Pb年代は45–17 Maであり、Gd/Yb比から複数の成長ステージが認められる。このことからヒマラヤの衝突型造山運動に伴う高温変成作用の複数ステージでジルコンが成長したことが示唆される。以上の結果は、ジルコンのouter-coreとdark annulusに記録されたビンフェディアン造山運動に伴うマグマ―流体活動の痕跡が、後のヒマラヤの高温型変成作用でもリセットされていないことを示唆している。このように、複数回の造山運動に伴うマグマ―流体活動履歴を解読する際に、ジルコンという強固なカプセルに保存されたメルト・流体包有物が重要な手がかりとなる。
引用文献
Cawood, P. A., Johnson, M. R., & Nemchin, A. A. (2007)., Earth Planet. Sci. Lett., 255, 70–84.
Cawood, P. A., Martin, E. L., Murphy, J. B., & Pisarevsky, S. A. (2021)., Earth Planet. Sci. Lett., 568, 117057.
Geisler, T., Schaltegger, U., & Tomaschek, F. (2007)., Elements, 3, 43–50.