11:30 AM - 11:45 AM
[T2-O-7] P-T conditions of a gneiss discovered from the Ashio mountains in the western part of Tochigi prefecture
Keywords:gneiss, pressure–temperature conditions, Ashio mountains, Tochigi, Ryoke belt
栃木県西部の足尾山地では足尾帯のジュラ紀付加体が広く分布し,しばしば白亜紀~古第三紀花崗岩類に貫入され,局所的にホルンフェルス化している(河田・大澤,1955;矢内, 2008;伊藤・中村,2021).北野(2022)は,栃木県西部の鹿沼市板荷において片麻状構造および鉱物の配向性を有する片麻岩を見出し,その岩石学的特徴を報告した.この片麻岩では,珪質層と雲母質層の互層による面構造とフィブロライトの束状集合体の配列による線構造が認められ,定向配列するフィブロライトの大半はランダムに向いた紅柱石に置換されている.本発表では,上記の板荷産片麻岩から温度圧力条件を見積もり,領家帯泥質変成岩との比較を行った. 調査地域では,ジュラ紀付加体の層状チャートに黒雲母花崗岩が貫入し,気成鉱化作用により花崗岩中またはルーフペンダントの層状チャート中にタングステン鉱床が形成されている(Ishihara and Sakai, 1995).黒雲母花崗岩は岩体頂端で斑状となり,変質(グライゼン化)している.紅柱石を含む変質した粗粒両雲母花崗岩から,64–63 Ma の白雲母または黒雲母K–Ar年代が得られている(Ishihara and Sakai, 1995). 分析試料の珪質片麻岩は紅柱石含有斑状黒雲母花崗岩の付近に産し,数cm厚の珪質層と数mm厚の雲母質層からなる.主な鉱物組み合わせは黒雲母,白雲母,フィブロライト,紅柱石,カリ長石,石英で,少量のルチル,アパタイト,電気石,ジルコン,クリソベリルが含まれる.珪質層では主に粗粒~細粒な石英が占め,面構造に沿って配列している細粒な黒雲母や白雲母,フィブロライトを包有する.石英の粒間は黒雲母,白雲母またはカリ長石が産する.雲母質層は主に細粒な黒雲母,白雲母,フィブロライトおよび粗粒な紅柱石から構成され,前者は定向配列し,後者はランダムに配向する.雲母質層のカリ長石は白雲母と石英と接するが,フィブロライトまたは紅柱石とは接しない.一部のフィブロライトおよび紅柱石は白雲母に,カリ長石は白雲母+石英に置換されている. 板荷産珪質片麻岩中の黒雲母と白雲母は,それぞれ2.47–3.51 wt%と1.41–2.59 wt%の高いフッ素含有量で特徴づけられる.黒雲母のXMg値は0.45–0.50の幅をもち,粗粒石英中または基質中で定向配列する黒雲母は0.18–0.21 (pfu)のTi含有量をしめすのに対し,白雲母+石英に伴う細粒黒雲母は0.14–0.17 (pfu)の低いTi含有量をしめした(酸素数22).白雲母は0.60–0.69のXMg値をしめし,粗粒石英中の白雲母のTi含有量(酸素数22)は0.07–0.09 (pfu)であるのに対し,基質中で定向配列する白雲母およびカリ長石を置き換える白雲母のTi含有量は0.07–0.13 (pfu)とやや高く,フィブロライトおよび紅柱石を置き換える白雲母のTi含有量は0.03–0.10 (pfu)とやや低い. 黒雲母Ti固溶量地質温度計(Henry et al., 2005; Wu and Chen, 2015)と黒雲母―白雲母地質圧力計(Wu, 2020)を適用すると,黒雲母+白雲母+珪線石+石英が共存した最高変成条件は約580–600 °C,>4.5 kbarで,紅柱石が形成した熱変成条件は約540–560 °C,3.7–4.2 kbarと見積もられた.この最高変成条件はやや圧力が高いが,領家帯愛知県三河地域のカリ長石―珪線石帯の変成条件(574–709 °C,3.7–4.3 kbar: Miyazaki et al., 2010)に類似する.さらに,本研究で見積もられた紅柱石形成条件は,三河地域のザクロ石―菫青石帯ミグマタイトに貫入する紅柱石―石英脈の形成条件とほぼ一致する(Kawakami et al., 2022).以上の結果から,板荷産珪質片麻岩は,領家帯と同様の複数回の熱パルスを経験した可能性が示唆される. 引用文献 Henry et al. (2005) American Mineralogist,Ishihara and Sakai (1995) Resource Geology,伊藤・中村 (2021) 地質調査研究報告,Kawakami et al. (2022) Island Arc,河田・大澤 (1955) 5万分の1地質図幅説明書「足尾」,北野ほか(2022)日本地質学会第129年学術大会要旨,Miyazaki et al. (2010) Lithos,中沢・物部 (1957) 地下資源調査報告書,Wu (2020) Lithos,Wu and Chen (2015) Science Bulletin,矢内 (2008) 「関東地方」朝倉書店