130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T2[Topic Session]Metamorphic rocks and tectonics【EDI】

[2oral113-21] T2[Topic Session]Metamorphic rocks and tectonics

Mon. Sep 18, 2023 3:00 PM - 5:30 PM oral room 1 (4-11, Yoshida-South Campus Bldg. No 4)

Chiar:Tomoki Taguchi, Shunsuke ENDO(Shimane Univ.)

4:30 PM - 4:45 PM

[T2-O-14] (entry) Boron-bearing fluid flux recorded in epidote-rich lenses form the Sanbagawa metamorphic belt (Wakayama, SW Japan)

★「日本地質学会学生優秀発表賞」受賞★
【ハイライト講演】

*【ECS】Masanori YOKOI1, Tetsuo KAWAKAMI1 (1. Kyoto Univ.)

世話人よりハイライトの紹介:電気石は流体に溶けやすいホウ素を多く含み,沈み込み帯における流体活動を制約するための有用な地化学トレーサーである.講演者は,電気石を含む苦鉄質片岩の観察から,変形微細構造と含ホウ素流体の流入がカップリングしていることを見出した.講演では,沈み込み帯における流体活動ダイナミクスについての活発な議論が期待される.※ハイライトとは

Keywords:boron, fluid, subduction zone, Sanbagawa metamorphic belt

沈み込みスラブ表面のミキシングゾーンでは水などの流体を介した物質移動が活発に起きていると考えられている[1]。電気石は流体中に取り込まれやすいホウ素を主成分にもち、形成時の温度や流体組成などの情報を記録している。また、ホウ素は苦鉄質岩や泥質岩には数百ppm以下しか含まれない[2]。この理由から、電気石の濃集は外部流体によるものと考えることができ、その電気石を解析することで流体活動の情報を抽出できる。
三波川変成帯の電気石濃集層は、四国中央部のナップ境界で確認されている[3][4]。このうち、愛媛県新居浜市端出場の電気石濃集層は包有物の解析により、変成ピーク直後から後退変成期にかけて形成したとされている[4]。三波川変成帯における含ホウ素流体活動の時空間的広がりを明らかにし、より一般的な結論を得るためには、他地域のデータも必要である。本研究では和歌山県紀の川市藤崎の苦鉄質片岩中に産する緑簾石に富むレンズの中に電気石の濃集が確認されたため、微細組織の観察と地質温度計による温度見積もりを行い、含ホウ素流体活動のタイミングを制約した。
和歌山県紀の川市藤崎では、赤鉄鉱とバロワ閃石を含む曹長石―黒雲母帯の苦鉄質片岩中に長径約3-20 cm の緑簾石に富むレンズが点在する。多くのレンズ中にはDs変形段階の褶曲構造が見られる。レンズ内外共に主要鉱物組合せは、緑簾石+角閃石+曹長石+緑泥石+石英で、副成分鉱物として白雲母、チタン石、ルチル、赤鉄鉱、燐灰石、電気石を含む。
レンズの内外で曹長石の斑状変晶が存在するが、曹長石の伸びの方向が異なる。レンズ内の曹長石の累帯構造は、概ね長径0.1 mm以下の包有物による内部片理を持つコア(An1)、包有物が少なくなるマントル(An1)、包有物が概ね長径0.1 mm以上で内部片理が外部の構造と連続するリム(An2)に分けられる。マントルとリムの境界はX線元素マップでCaの不連続な濃度境界として認識できる。リムは斑状変晶の伸びの方向に厚く成長する。
レンズ内外で角閃石は組成累帯構造をもち、曹長石に包有されない場合、コアからリムに向かってバロワ閃石、普通角閃石、アクチノ閃石の順に変化する。この累帯構造は角閃石+緑簾石+緑泥石+斜長石+石英が平衡共存する苦鉄質片岩では減温減圧を表す[5]。レンズ内の曹長石に包有される角閃石はバロワ閃石~普通角閃石組成を示したため、包有されない角閃石の累帯構造と比較すると曹長石全体がピーク変成時に形成されたと解釈できる。斑状変晶内の角閃石に対して、角閃石-斜長石温度計[6]を8 kbar を仮定して適用した結果、コアから515-555℃、リムから530-578℃の温度条件が得られた。これらは誤差を考慮すると差異がないためピーク温度条件は515-578℃と解釈した。
レンズ内の電気石はDr片理面に沿って濃集し、Ds褶曲に曲げられている。電気石の累帯構造はBSE像で明るいコア、暗いマントル、中程度の明るさのリムに分けられ、リムまで成長した段階で曹長石リムに包有される。各段階に対しCa/Naの分配を用いた電気石極性温度計[7]を適用すると、コア、マントルでは490-520℃、リムでは530-560℃の温度条件が得られた。リム成長時の温度は角閃石-斜長石温度計によって求められたピーク変成温度と一致する。よって、電気石コア、マントルは昇温期に成長し、リムはピーク時に成長したといえる。
以上の結果をまとめると、和歌山県紀の川市藤崎の緑簾石レンズ内部の電気石は、周囲の泥質岩を起源とする含ホウ素流体がDr片理面を伝って流入し形成されたといえる。四国中央部の例と総合すると、含ホウ素流体は変成ピーク前の昇温期から後退変成期にかけて時間的広がりを持って沈み込み帯表面で活動し、物質移動を引き起こしていたと結論づけられる。

引用文献 [1] Bebout (2007) Earth Planet. Sci. Lett. 260, 373-393. [2] Dutrow & Henry (2011) Elements 7, 301–306. [3] 砂田・榊原 (2004) 日本地質学会第111年学術大会講演要旨 235. [4] 石山ほか (2016) 日本鉱物科学会2016年年会講演要旨集 24. [5] Okamoto & Toriumi (2005) J. Metamorphic Geol. 23, 335–356. [6] Holland & Blundy (1994) Contrib. Mineral. Petrol. 116, 433-447. [7] van Hinsberg & Schumacher (2007) Contrib. Mineral. Petrol. 153, 289–301.