130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T12[Topic Session]History of earth【EDI】

[2oral301-11] T12[Topic Session]History of earth

Mon. Sep 18, 2023 8:45 AM - 12:00 PM oral room 3 (4-30, Yoshida-South Campus Bldg. No 4)

Chiar:Honami Sato, Satoshi Yoshimaru, Yuki Tomimatsu

8:45 AM - 9:00 AM

[T12-O-1] Pelagic responses to oceanic anoxia during the Carnian Pluvial Episode (Late Triassic) in Panthalassa Ocean

*【ECS】Yuki Tomimatsu1, Nozaki Tatsuo2, Tetsuji Onoue1, Hironao Matsumoto2, Honami Sato1, Yutaro Takaya3, Jun-ich Kimura2, Qing Chang2, Manuel Rigo4 (1. Kyushu University, 2. JAMSTEC, 3. University of Tokyo, 4. University of Padova)

Keywords:Carnian Pluvial Episode, Late Triassic, Conodont, Radiolarian, Geochemistry

今からおよそ2億3200万年前に起こったカーニアン多雨事象は,後期三畳紀における短期間の極端な降雨で,海洋生態系に大きな変化をもたらしたことが知られている.テチス海や大陸縁辺部では,炭酸塩プラットフォーム形成の停止や,陸源砕屑物の流入量の増加,海水温の上昇などによってCPEの存在が認識されてきた(Simm et al., 1989; Dal Corso et al., 2020).これらを引き起こした原因として,前期カーニアン(ユリアン)のパンサラッサ海で起こったWrangellia火山活動が提案されており,テチス海域ではWrangellia火山活動の最盛期であるユリアン/チュバリアン境界において,温暖化や海洋無酸素化に伴ってアンモナイト,コノドントなどの遠洋性生物の絶滅が起こった可能性が示唆されている(Dal Corso et al., 2015, 2020).しかし,遠洋環境におけるその規模や期間,実際の遠洋性生物に与えた影響についてはわかっていない.
 そこで本研究では遠洋性堆積岩である層状チャートを用いて,海洋オスミウム同位体,海洋酸化還元状態およびコノドントと放散虫化石層序に着目し,CPEにおけるパンサラッサ海遠洋域の海洋環境変動の期間・規模,それに応答する海洋生態系について明らかにすることを目的として研究を進めた.研究対象地域として,ジュラ紀付加体中の後期三畳紀カーニアン層状チャートが露出する秩父帯(高平),丹波帯(玉岩),美濃帯(神崎,坂祝),北部北上帯(大谷山)の5つのセクションを選定し,コノドントー放散虫化石層序の検討,MC-ICP-MSによるオスミウム同位体分析,XRFおよびICP-QMSによる主要・微量元素濃度分析を行った.
 本研究の結果,すべての研究地域において,オスミウム同位体比はユリアンを通じて低い値を示し,ユリアン末で最も低い値を示したのち,ユリアン/チュバリアン境界以降でオスミウム同位体比は上昇する傾向が認められた.このことから,Wrangellia 火山活動はユリアン末に活動の最盛期を迎え,低い同位体比を持つオスミウムが海洋に大量に供給されたと考えられる.また主要微量元素濃度分析の結果,酸化還元状態に鋭敏な元素(V, U)は,ユリアン末に異常濃集が認められたことから,Wrangellia LIP火山活動の最盛期と同時に海洋無酸素環境がパンサラッサ海遠洋域でも広く発達していたことが明らかとなった.また,化石層序の検討から,ユリアン末からユリアン/チュバリアン境界にかけて海洋無酸素環境の発達に伴い,深海に生息していたことが知られるGladigondolella属を含めたユリアンに特徴的なコノドントの絶滅が起こっていたことが明らかとなった.一方で,放散虫はユリアン/チュバリアン境界を通じて,ユリアンにおいて産出する種数の減少が見られたものの,チュバリアンを示す放散虫の多様性はユリアン/チュバリアン境界後に劇的に増加していることがわかった.この結果はパンサラッサ海に生息する放散虫は海洋無酸素環境の影響をさほど受けなかったことを示している.また,多様化が起こった原因として,パンゲア大陸の湿潤化および温暖化に伴い化学風化が強まったことにより,海洋への栄養塩が増加したことが考えられる.海洋無酸素化と選択的なコノドントや放散虫の絶滅との関係を明らかにするためには,パンサラッサ海遠洋域におけるカーニアンのコノドントや放散虫の生息環境(水深や水温など)を理解するためのさらなる研究が必要である.

【引用文献】
Dal Corso, J. et al. 2015, Carbon isotope records reveal synchronicity between carbon cycle perturbation and the “Carnian Pluvial Event” in the Tethys realm (Late Triassic). Glob. Planet. Chang. 127, 79–90.
Dal Corso, J. et al. 2020, Extinction and dawn of the modern world in the Carnian (Late Triassic). Sci. Adv. 6, 1–13.
Simms, M.J., Ruffell, A.H., 1989, Synchroneity of climatic change and extinctions in the Late Triassic. Geology 17, 265–268.