9:00 AM - 9:15 AM
[T12-O-2] Marine deoxygenation driven by the Early Triassic global warming and subsequent climate cooling
Keywords:Carbon isotope, Iron speciation, Pyrite framboids, Redox-sensitive elements, Smithian–Spathian boundary
前期三畳紀のスミシアンとスパシアンの境界期は,ペルム紀末大量絶滅事変後の回復期において環境悪化が顕著に起きた時期であり,火山活動の増加 (Saito et al., 2023),海水温の上昇 (Sun et al., 2012), 海洋の酸化還元環境の変化 (Song et al., 2016) が主に古テチス海から報告されている.本発表では,低緯度パンサラッサ海遠洋域深海のスミシアンとスパシアンの層序と溶存酸素環境の記録を示す.さらに,古テチス海の表面海水温記録と比較して,この極端温暖期とその直後の海洋酸化還元構造に関して議論する.
本研究が対象としたのは,愛知県犬山地域に露出する美濃帯の桃太郎神社セクションである.このセクションは,山北ほか(2010, 2016)などによって地質構造とコノドント化石年代が明らかにされ,スミシアン後期からスミシアン—スパシアン境界までの範囲とスパシアン中期の連続層序の存在が明らかにされてきた.これらの層序に沿って有機炭素同位体比の変化を示すと,スミシアン—スパシアン境界期付近の厚さ30−40 cmの黒色粘土岩層中に顕著な増加が見出され,これはこの時代境界期に見られる炭素同位体比の正異常(P3;Song et al., 2014)に対比される.低緯度古テチス海浅海域から報告されたコノドントの酸素同位体比のデータによると,この炭素同位体比の正異常を境にそれまで高温であった表層海水温(38—40℃程度)が約80万年後までに4℃程度低下したことが示されている(Sun et al., 2012).
桃太郎神社セクションから採取したサンプルを基に,主要元素・微量元素組成,鉄化学種の分析,および黄鉄鉱の観察を行い,古環境記録の検討を行った.スミシアン期中期から後期にかけては,鉄化学種の記録が海洋無酸素化の傾向を示すようになり還元的な環境への変化を示すが,モリブデンなどの酸化還元鋭敏元素の増加が顕著ではない.したがって,強い還元状態である硫化水素環境の発生までは起こらなかったことを示唆する.スミシアン—スパシアン境界期近傍の黒色粘土岩層は,鉄化学種,モリブデン,粒径の小さいフランボイド黄鉄鉱の証拠から無酸素環境の発達が示される.ただし,ウランの増加が大きくないため,無酸素海水の発達は深層水では起きておらず,中層水において酸素極小層が存在した可能性が高い.この無酸素中層水の発達の後,スパシアン中期には酸化的な海洋環境に変化したことが各酸化還元環境指標から示される.
このパンサラッサ海遠洋域の酸化還元環境記録とSong et al. (2019)による古テチス海浅海域の海洋鉛直構造のモデルを統合することにより、同時の低緯度海洋の酸化還元水塊の変動を以下のように推定した.スミシアンの中期から後期の時期には無酸素・硫化水素環境までには及ばない貧酸素環境であった.当時の海洋表層水の高温化を起点に海洋が成層化し表層生物生産が停滞するような貧酸素化が起きた.その後のスミシアン—スパシアン境界期においては無酸素・硫化水素環境が浅海域と遠洋域の両方で起きており,表層水温の低下などによって海洋の鉛直混合が進み表層の生産性が増加,海洋の有光域深度における酸素消費(無酸素化)や有機物沈降フラックスの増加による硫化水素の発生が顕著に起きた.このような極端温暖化と直後の寒冷化に駆動された海洋無酸素化が,ペルム紀末の大量絶滅事変後の動物多様性回復の遅れを招いたと推定する.
文献:
Saito et al., 2023, Ear. Planet. Sci. Lett. 614, 118194. Song et al., 2014, Geochim. Cosmochim. Acta 128, 95–113. Song et al., 2019, Earth-Science Rev. 195, 133–146. Sun et al., 2012, Science 338, 366–70. 山北ほか, 2010 日本古生物学会 C23, 47. 山北ほか 2016, 日本古生物学会B13, 31.
本研究が対象としたのは,愛知県犬山地域に露出する美濃帯の桃太郎神社セクションである.このセクションは,山北ほか(2010, 2016)などによって地質構造とコノドント化石年代が明らかにされ,スミシアン後期からスミシアン—スパシアン境界までの範囲とスパシアン中期の連続層序の存在が明らかにされてきた.これらの層序に沿って有機炭素同位体比の変化を示すと,スミシアン—スパシアン境界期付近の厚さ30−40 cmの黒色粘土岩層中に顕著な増加が見出され,これはこの時代境界期に見られる炭素同位体比の正異常(P3;Song et al., 2014)に対比される.低緯度古テチス海浅海域から報告されたコノドントの酸素同位体比のデータによると,この炭素同位体比の正異常を境にそれまで高温であった表層海水温(38—40℃程度)が約80万年後までに4℃程度低下したことが示されている(Sun et al., 2012).
桃太郎神社セクションから採取したサンプルを基に,主要元素・微量元素組成,鉄化学種の分析,および黄鉄鉱の観察を行い,古環境記録の検討を行った.スミシアン期中期から後期にかけては,鉄化学種の記録が海洋無酸素化の傾向を示すようになり還元的な環境への変化を示すが,モリブデンなどの酸化還元鋭敏元素の増加が顕著ではない.したがって,強い還元状態である硫化水素環境の発生までは起こらなかったことを示唆する.スミシアン—スパシアン境界期近傍の黒色粘土岩層は,鉄化学種,モリブデン,粒径の小さいフランボイド黄鉄鉱の証拠から無酸素環境の発達が示される.ただし,ウランの増加が大きくないため,無酸素海水の発達は深層水では起きておらず,中層水において酸素極小層が存在した可能性が高い.この無酸素中層水の発達の後,スパシアン中期には酸化的な海洋環境に変化したことが各酸化還元環境指標から示される.
このパンサラッサ海遠洋域の酸化還元環境記録とSong et al. (2019)による古テチス海浅海域の海洋鉛直構造のモデルを統合することにより、同時の低緯度海洋の酸化還元水塊の変動を以下のように推定した.スミシアンの中期から後期の時期には無酸素・硫化水素環境までには及ばない貧酸素環境であった.当時の海洋表層水の高温化を起点に海洋が成層化し表層生物生産が停滞するような貧酸素化が起きた.その後のスミシアン—スパシアン境界期においては無酸素・硫化水素環境が浅海域と遠洋域の両方で起きており,表層水温の低下などによって海洋の鉛直混合が進み表層の生産性が増加,海洋の有光域深度における酸素消費(無酸素化)や有機物沈降フラックスの増加による硫化水素の発生が顕著に起きた.このような極端温暖化と直後の寒冷化に駆動された海洋無酸素化が,ペルム紀末の大量絶滅事変後の動物多様性回復の遅れを招いたと推定する.
文献:
Saito et al., 2023, Ear. Planet. Sci. Lett. 614, 118194. Song et al., 2014, Geochim. Cosmochim. Acta 128, 95–113. Song et al., 2019, Earth-Science Rev. 195, 133–146. Sun et al., 2012, Science 338, 366–70. 山北ほか, 2010 日本古生物学会 C23, 47. 山北ほか 2016, 日本古生物学会B13, 31.