10:30 AM - 10:45 AM
[T12-O-7] Reconstruction and comparison of paleovegetation changes by biomarker analysis during the Cretaceous Oceanic Anoxic Events in the Tomamae area, Hokkaido and California, North America
Keywords:Paleovegetation, biomarker, OAE, Cretaceous
[はじめに] “超温室期”であったといわれている中期白亜紀には、海洋無酸素事変(OAE)と呼ばれる大きな環境擾乱イベントが複数回発生したことが知られている (Takashima et al., 2006 など)。OAE期には海洋表層の成層化や基礎生産の増大が発生し、無酸素水塊の発達、大量の有機物が海底に沈積したと考えられている。この大きな炭素循環の変動は陸上環境にも大きな影響をもたらした可能性が示唆されてきたが、OAE期における詳細な陸上植生の変動を報告した例は限られてきた (Boudinot & Sepúlveda, 2020; Heimhofer et al, 2018)。本講演では苫前地域大曲沢川に分布する上部白亜系蝦夷層群佐久層、および北米カリフォルニア州北部North Fork Cottonwood Creek(NFCC)に分布するGreat Valley Sequence, Budden Canyon Formationに分布するCenomanian-Turonian境界期(CTB)の堆積岩に含まれる有機物から炭素同位体比変動と植生変動を復元・対比し、OAE2期における両地域の陸上植生への影響とその差異を議論する。
[試料と方法] 試料には北海道苫前地域大曲沢川に分布する上部白亜系蝦夷層群佐久層、およびアメリカ・カリフォルニア州北部 North Fork Cottonwood Creek に分布する Great Valley Sequence, Budden Canyon Formation の CTB の堆積岩に含まれる有機物から、陸上植生の挙動を調べた。CTB では環境擾乱イベントである OAE2 が発生したことが知られており、各サイトにおける OAE2 の区分 (1st build-up, Trough, 2nd build-up, Plateau, Recovery) は木片の δ13C 値から決定した。バイオマーカー分析は粉砕した泥岩試料を有機溶媒で抽出し、GC-MSを用いて分析した。
[結果と考察] 両サイトにおいて、環境擾乱期 (1st build-up~2nd build-up) に針葉樹の植生変動を示す Higher Plant Parameter (HPP; van Aarssen et al., 2000)の激しい変動が記録されており、炭素循環の強い摂動に対して針葉樹種が鋭敏に反応したことが示唆された。一方で、各サイトにおいて HPP の変動が同調的ではない時期も見られた。例えば、大曲沢セクションでは 2nd build-up 終盤に針葉樹の拡大がみられるが、NFCCでは中盤に一時的な拡大がみられた。燃焼起源多環芳香族化合物を用いた火災の頻度を示す指標からは、両サイトにおいて 2nd build-up 終盤に火災頻度の増加がみられることから、これらの違いは気候変動のずれではなく、後背地の植生タイプに起因する植生応答の違いが大きく影響していることが考察された。両サイトにおいて、高等植物起源のテルペノイド組成は大きく異なっており、大曲沢セクションにおいては被子植物起源のトリテルペノイドが卓越することから被子植物が優勢な植生、NFCCセクションでは高等植物に普遍的に含まれるセスキテルペノイドの割合が高いことから典型的なジテルペンやトリテルペン生産者である針葉樹類や被子植物以外の分類群(例えばシダ植物など)が優勢な植生であったことが示唆され、この植生タイプの結果は、花粉分析および気候シミュレーションを用いた植生区分の先行研究 (Sewall et al., 2007) とも調和的であった。前者ではOAE2の環境擾乱が被子植物優勢の植生の中で針葉樹林の拡大に有利にはたらき、後者では種子植物以外の維管束植物が優勢な植生の中で被子植物や針葉樹の一時的な拡大に有利にはたらいたことが示唆された。
[引用文献]
Boudinot, F.G. & Sepúlveda, J., 2020. Nature Geoscience, 13, 693–698.
Heimhofer, U. et al., 2018. Nature Communications, 9. 3832.
Sewall, J.O. et al., 2007. Climate of the Past, 3, 647–657.
Takashima, R. et al., 2006. Oceanography, 19, 82–92.
van Aarssen, B.G. et al., 2000. Geochimica et Cosmochimica Acta, 64, 1417–1424.
[試料と方法] 試料には北海道苫前地域大曲沢川に分布する上部白亜系蝦夷層群佐久層、およびアメリカ・カリフォルニア州北部 North Fork Cottonwood Creek に分布する Great Valley Sequence, Budden Canyon Formation の CTB の堆積岩に含まれる有機物から、陸上植生の挙動を調べた。CTB では環境擾乱イベントである OAE2 が発生したことが知られており、各サイトにおける OAE2 の区分 (1st build-up, Trough, 2nd build-up, Plateau, Recovery) は木片の δ13C 値から決定した。バイオマーカー分析は粉砕した泥岩試料を有機溶媒で抽出し、GC-MSを用いて分析した。
[結果と考察] 両サイトにおいて、環境擾乱期 (1st build-up~2nd build-up) に針葉樹の植生変動を示す Higher Plant Parameter (HPP; van Aarssen et al., 2000)の激しい変動が記録されており、炭素循環の強い摂動に対して針葉樹種が鋭敏に反応したことが示唆された。一方で、各サイトにおいて HPP の変動が同調的ではない時期も見られた。例えば、大曲沢セクションでは 2nd build-up 終盤に針葉樹の拡大がみられるが、NFCCでは中盤に一時的な拡大がみられた。燃焼起源多環芳香族化合物を用いた火災の頻度を示す指標からは、両サイトにおいて 2nd build-up 終盤に火災頻度の増加がみられることから、これらの違いは気候変動のずれではなく、後背地の植生タイプに起因する植生応答の違いが大きく影響していることが考察された。両サイトにおいて、高等植物起源のテルペノイド組成は大きく異なっており、大曲沢セクションにおいては被子植物起源のトリテルペノイドが卓越することから被子植物が優勢な植生、NFCCセクションでは高等植物に普遍的に含まれるセスキテルペノイドの割合が高いことから典型的なジテルペンやトリテルペン生産者である針葉樹類や被子植物以外の分類群(例えばシダ植物など)が優勢な植生であったことが示唆され、この植生タイプの結果は、花粉分析および気候シミュレーションを用いた植生区分の先行研究 (Sewall et al., 2007) とも調和的であった。前者ではOAE2の環境擾乱が被子植物優勢の植生の中で針葉樹林の拡大に有利にはたらき、後者では種子植物以外の維管束植物が優勢な植生の中で被子植物や針葉樹の一時的な拡大に有利にはたらいたことが示唆された。
[引用文献]
Boudinot, F.G. & Sepúlveda, J., 2020. Nature Geoscience, 13, 693–698.
Heimhofer, U. et al., 2018. Nature Communications, 9. 3832.
Sewall, J.O. et al., 2007. Climate of the Past, 3, 647–657.
Takashima, R. et al., 2006. Oceanography, 19, 82–92.
van Aarssen, B.G. et al., 2000. Geochimica et Cosmochimica Acta, 64, 1417–1424.