130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

Presentation information

Session Oral

T12[Topic Session]History of earth【EDI】

[2oral301-11] T12[Topic Session]History of earth

Mon. Sep 18, 2023 8:45 AM - 12:00 PM oral room 3 (4-30, Yoshida-South Campus Bldg. No 4)

Chiar:Honami Sato, Satoshi Yoshimaru, Yuki Tomimatsu

11:00 AM - 11:15 AM

[T12-O-9] (entry) Chemotaxonomic characterization of extinct Cycadales Nilssonia spp. from the Hakobuchi Formation, Ezo Group, Mukawa Town, Hokkaido, Japan : Biomarker approach

*【ECS】Yuto KOMOTO1, Hideto NAKAMURA2, Ken SAWADA2 (1. Graduate school of Science, Hokkaido University, 2. Faculty of Science, Hokkaido University)

Keywords:Late Cretaceous, cycadales, Nilssonia , biomarker, terpenoid

ソテツ類は石炭紀後期に出現した裸子植物の分類群で、シダ植物、針葉樹類、ベネチテス類とともに中生代に繁栄した。しかし、絶滅ソテツ類の地質時代を通じた多様性変動・植生史は、その知名度と長い歴史、潜在的な古環境学的・生態学的な重要性に比して、十分に解明されたとは言いがたい。その背景には、ソテツ類化石のほとんどは栄養器官で、系統学的情報に富む生殖器官の化石記録が乏しく、類似した葉形態をもつベネチテス類との判別にもクチクラの保存を要する場合があること。また、ソテツ類、ベネチテス類、イチョウ類の花粉形態が類似し、光学顕微鏡での判別が困難な場合が多いこと (Hill, 1990)等の問題がある。本研究では、地質学的記録からソテツ類を含む古植生情報を解読するための有機地球化学的手法の開発に向けて、絶滅ソテツ類の化学分類学的特徴を明らかにすることを目的に、蝦夷層群函淵層産絶滅ソテツ類化石のバイオマーカー分析を行った。
北海道むかわ町穂別富内の鵡川沿いに分布する蝦夷層群函淵層の植物化石多産層準の葉化石を含む堆積岩を採取した。葉化石の多くは、葉軸の上に跨る平行脈を持つことや、葉脈密度、葉の外形などの形態学的特徴から、ソテツ類ソテツ目ニルソニア属(Nilssonia spp.)と同定された。ニルソニア属の葉化石のうち、炭質部がよく保存された4試料について、炭質部を含む化石表面を切削した粉末(化石試料)と、各葉化石を含む堆積岩試料の基質部分の粉末(母岩試料)をそれぞれ有機溶媒で抽出し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーで分画した後、脂肪族及び芳香族炭化水素画分をガスクロマトグラフ質量分析計で測定し、バイオマーカーの同定と定量を行った。
脂肪族炭化水素画分のn-アルカン組成やホパン、ステラン組成に基づく熟成度指標から、一連の試料中の有機物が未熟成であることが示唆された。化石試料の芳香族画分からは、カダレン等のセスキテルペノイド、アビエタン型のジテルペノイド、オレアナン型又はウルサン型のトリテルペノイドが検出された。テルペノイド濃度はほとんどの成分について化石試料が母岩試料を上回ったが、全ての成分がニルソニア属化石の生体に由来するとは限らない。化石試料と母岩試料から検出されたテルペノイド組成の比較により、ニルソニア属化石はカダレンに代表されるセスキテルペノイドに乏しく、堆積物中に見られるセスキテルペノイドの主要な供給源ではなかったと考えられる。一方で、裸子植物の中でも典型的に針葉樹類に豊富に含まれるアビエタン型のジテルペノイドとして、シモネライト、デヒドロアビエタン、レテンが検出された。また、これらのジテルペノイドのピークと前後して、4種のライブラリ未収録化合物が検出され、うち2種の化合物はニルソニア属化石試料で母岩試料より高い割合で含まれたことから、絶滅ソテツ類ニルソニア属の生体成分に由来する分子化石である可能性がある。マススペクトルの特徴から、これらの化合物はアビエタン型または類似のフラグメントパターンを持つ芳香族ジテルペノイドであると推定された。一方で、被子植物由来とされるオレアナン型やウルサン型のトリテルペノイドは、母岩試料で化石試料より高い割合で検出されたことから、ニルソニア属化石に自生の成分ではなく、被子植物由来の成分がニルソニア葉化石に吸着した、または化石試料の切削時に部分的に混入したことを示すと考えられる。植物化石多産層準では巨視的にはニルソニア化石が卓越するが、未同定の被子植物葉化石も産出する。母岩の分析結果から、母岩基質中には被子植物の葉の断片や、被子植物成分を吸着した鉱物粒子が豊富に含まれることが推察された。
多様な絶滅分類群が繁栄した地質時代における分子化石相の解読には、形態学的にも有機地球化学的にも保存のよい植物化石の分析による古化学分類学的な検討が不可欠である。本研究の結果、ニルソニア属が白亜紀の陸上植生において、特有の組成を持つジテルペノイドの生産種であった可能性が示唆された。今後、検出された分子化石候補分子の構造決定と分子化石ライブラリ(Nakamura 2019)への登録を進め、多様な植物化石・堆積岩試料における分布を確かめることで、その起源指標性の理解が深まると期待される。

引用文献
・Hill, 1990, Rev. Palaeobot. Palynol., 65, 165-173.
・Nakamura, 2019, Res. Org. Geochem., 35, 11-35.