11:45 AM - 12:00 PM
[T12-O-11] Taxonomic revision of a rhinocerotid fossil from the Upper Miocene Oiso Formation, Kanagawa Prefecture, Japan
Keywords:Miocene, Rhinocerotidae, Mammalia
本邦における中新世哺乳類化石は前期中新世の記録が多数知られるものの、中期~後期中新世のそれらは著しく乏しい。このことは中新世に生じた日本海拡大による堆積場の変遷や火山活動など、様々な要因が影響すると考えられている (例えばTomida et al., 2013)。いずれにせよ限られた化石記録に対してより確からしい評価をもってそのような議論を行う必要がある。サイ科化石に関しては、後期中新世堆積物から3例の報告があり、このうち神奈川県大磯町に露出する上部中新統大磯層から Brachypotherium sp. が記載されている (Zin Maung Maung Thein et al., 2009)。 近年、サイ科化石に対する分類体系が再考されており、それによればアジアにおける Brachypotherium 属の産出記録が疑問視されつつある (例えばHanda et al., 2021)。そこで本講演で上記の標本に対する分類を再検討する。検討に当たって、ユーラシアおよびアフリカから産出した Brachypotherium 属8種と比較し、KPM-NNV 50の分類群を再同定した。
KPM-NNV 50は上顎臼歯の破片3点からなり、歯冠は著しく咬耗している。観察の結果、以下のような形質が認められた;白色の歯冠セメント、発達の弱いpraracone fold、伸長したcrochet、cristaおよびcristellaの発達、antecrochet、くびれのあるprotocone。これらのうち、antecrochetおよびparaconeの発達程度は Brachypotherium 属と類似する。一方で比較した Brachypotherium 属各種において歯冠セメントは認められず、またcristellaは発達していなかった。crochetの発達は類似するものの、Brachypotheium 属の場合は臼歯が咬耗するとcrochetは短縮していた。以上の結果から、KPM-NNV 50を Brachypotherium 属に同定できる明確な形質が認められなかった。
サイ族の臼歯にprotoconeのくびれは未発達であることから、KPM-NNV 50はこれと区別される。一方、くびれたprotoconeや歯冠セメントは、その発達程度はさまざまであるが、アセラテリウム族やエラスモテリウム族の種にも認められる形質である (例えばAntoine, 2002)。エラスモテリウム族の場合、後期中新世の種はその臼歯に著しいエナメル褶曲を呈するが (Antoine, 2002)、KPM-NNV 50にはその特徴が発達しない。Zin Maung Maung Thein et al. (2009) でアセラテリウム族の種と比較しているが、その過程で検討しているprotoconeのくびれの程度は、咬耗段階によって変化しやすい形質である。上記で観察した形質のうち、antecrochet、crista、および発達の弱いparacone foldはアセラテリウム族にも認められる。伸長したcrochet、cristaの発達は中国南部の上部中新統から産出するアセラテリウム族の一種、Acerorhinus yuanmouensis にも認められる (Lu, 2013)。したがってKPM-NNV 50はアセラテリウム族の可能性があり、とくにAcerorhinus属との比較が今後必要である。
引用文献: Antoine, P.-O. (2002) Mémoires du Muséum National d’Histoire Naturelle, 188, 1–359.; Handa, N. et al. (2021) Historical Biology, 33, 1642–1660; Lu, X. (2013) Geobios, 46, 539–548; Tomida, Y. et al. (2013) Fossil Mammals of Asia, 314–333; Zin Maung Maung Thein et al. (2009) Paleontological Research, 13, 207–210.
KPM-NNV 50は上顎臼歯の破片3点からなり、歯冠は著しく咬耗している。観察の結果、以下のような形質が認められた;白色の歯冠セメント、発達の弱いpraracone fold、伸長したcrochet、cristaおよびcristellaの発達、antecrochet、くびれのあるprotocone。これらのうち、antecrochetおよびparaconeの発達程度は Brachypotherium 属と類似する。一方で比較した Brachypotherium 属各種において歯冠セメントは認められず、またcristellaは発達していなかった。crochetの発達は類似するものの、Brachypotheium 属の場合は臼歯が咬耗するとcrochetは短縮していた。以上の結果から、KPM-NNV 50を Brachypotherium 属に同定できる明確な形質が認められなかった。
サイ族の臼歯にprotoconeのくびれは未発達であることから、KPM-NNV 50はこれと区別される。一方、くびれたprotoconeや歯冠セメントは、その発達程度はさまざまであるが、アセラテリウム族やエラスモテリウム族の種にも認められる形質である (例えばAntoine, 2002)。エラスモテリウム族の場合、後期中新世の種はその臼歯に著しいエナメル褶曲を呈するが (Antoine, 2002)、KPM-NNV 50にはその特徴が発達しない。Zin Maung Maung Thein et al. (2009) でアセラテリウム族の種と比較しているが、その過程で検討しているprotoconeのくびれの程度は、咬耗段階によって変化しやすい形質である。上記で観察した形質のうち、antecrochet、crista、および発達の弱いparacone foldはアセラテリウム族にも認められる。伸長したcrochet、cristaの発達は中国南部の上部中新統から産出するアセラテリウム族の一種、Acerorhinus yuanmouensis にも認められる (Lu, 2013)。したがってKPM-NNV 50はアセラテリウム族の可能性があり、とくにAcerorhinus属との比較が今後必要である。
引用文献: Antoine, P.-O. (2002) Mémoires du Muséum National d’Histoire Naturelle, 188, 1–359.; Handa, N. et al. (2021) Historical Biology, 33, 1642–1660; Lu, X. (2013) Geobios, 46, 539–548; Tomida, Y. et al. (2013) Fossil Mammals of Asia, 314–333; Zin Maung Maung Thein et al. (2009) Paleontological Research, 13, 207–210.