130th Annual Meeting of the Geological Society of Japan

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Session Oral

T12[Topic Session]History of earth【EDI】

[2oral312-19] T12[Topic Session]History of earth

Mon. Sep 18, 2023 3:00 PM - 5:30 PM oral room 3 (4-30, Yoshida-South Campus Bldg. No 4)

Chiar:Yuki Tomimatsu, Daisuke Kuwano(Chiba Univ.)

5:15 PM - 5:30 PM

[T12-O-19] When does Japanese usage of the term "Tertiary" finish?

*Hisashi SUZUKI1 (1. Otani University)

Keywords:Cenozoic, Palaeogene, Neogene

2004年にGradsteinたちは新生代をPalaeogeneとNeogeneのみに二分し,第三紀(Tertiary)と第四紀(Quaternary)を国際的な地質年代区分から削除した。その後,第四紀は復活したものの,第三紀はよみがえらずに,新生代はPalaeogeneとNeogeneのみに区分されることとなった。すでに鈴木・石田(2005)で詳述したように,PalaeogeneとNeogeneの単語に「第三」の意味は含まれない。これらの英語の語源はギリシャ語で,palaeoは「古い」「旧の」を意味し,neoは「新しい」を意味する。そしてgeneは「起源」「由来」「系統」「種」などを意味する言葉である。これらの語源の意味を汲んだ上で,横山又次郎(1896)はPalaeogeneを「旧成紀」,Neogeneを「新成紀」と訳した。一方で,日本地質学会執行理事会(2010)は地質系統・年代の日本語記述ガイドラインの中で,「第三紀」を使用しないものの「古第三紀」と「新第三紀」を用いるという不思議な決定をし,会員に従うように勧告した。
 地質学会執行理事会の勧告がおかしなことは,誰の目にも明らかである。「古第三紀」と「新第三紀」という用語は,「第三紀」が存在して初めて成立する言葉だからである。これに疑問を感じた筆者は,翻訳書『要説 地質年代』の中で横山又次郎の訳語を支持し,Palaeogeneを「旧成紀」,Neogeneを「新成紀」と訳した(オッグほか,2012)。ただしこの用語選定に際しては,横山又次郎が著した他の訳語例との比較検討を行っている(鈴木,2013)。横山又次郎は彼が執筆した複数の教科書の中で,Palaeogeneに対しては「始成紀」「古成紀」の訳語例も,またNeogeneに対しては「近成紀」の訳語も示していた。「始成紀」は「始生累代」と間違えると大きな時代の隔たりがあること,「古成紀」は「古生代」と間違えると同様に大きな時代の隔たりが生じ,また「湖成層」とも混同しやすい。また「近成紀」については,「古」「旧」の対語としては適切でない。「新成紀」は「新生代」と間違えやすいかもしれないが,同じ時代ではある。その結果,「旧成紀」と「新成紀」の組み合わせが,最も誤解を生じにくく適切であると判断された(図)。
 国際的な地質年代区分においてTertiaryが用いられなくなった以上,「第三紀」を包含する「古第三紀」と「新第三紀」の日本語での使用は慎むべきである。ただし,それはあくまでPalaeogeneとNeogeneに対応する日本語としての話である。「第三紀」の区分が調査地域の地質に最も適合しているならば,むしろ積極的に使用すべきである。元来研究者は,自身の論文や書籍などの著作物において,適切な表現は何かを常に考えて執筆している。それは専門用語においても然りである。決められた用語に従わなくてはならないというのは,著者が何も考えずに用語を使用しているならばともかく,深い洞察の上での用語使用に学会が介入すべきではない。近年,学術雑誌の査読において,地質学会の地質年代ガイドラインに従うように修正を求められることがあると聞く。査読者には論文などの著作物が「規格品」ではないことを充分認識するよう求めたい。そしてこれから活躍する若手研究者には,自分が使う用語にどういう意味があるのか,よく考えた上で執筆に取り組んでいただきたい。
文献 Gradstein et al. (2004): Episodes, 27 (2), 83–100. 日本地質学会執行理事会(2010):日本地質学会ニュース,13 (6), 8–9。 オッグ,J. G.ほか(2012):『要説 地質年代』,京都大学学術出版会。 鈴木寿志(2013):地質学史懇話会会報,第40号,3–10。 鈴木寿志・石田志朗(2005):地質学雑誌,111 (9),565–568。 横山又次郎(1896):『地質学教科書』,冨山房。