9:45 AM - 10:00 AM
[T13-O-4] Cold-seep carbonate rocks from the Miocene Nabae Group in the Shimanto Belt, Muroto Peninsula, Southwest Japan
Keywords:Shimanto Belt, Nabae Group, Carbonate rocks, Oxygen and carbon stable isotope, Early Miocene
室戸半島の南端では,前期漸新世〜前期中新世の四万十帯付加コンプレックスである菜生層群が広く分布する(平ほか,1980).この菜生層群には,石灰質ノジュールやマールと呼ばれる炭酸塩岩が頻繁に含まれる(酒井,1981).また室戸市三津の炭酸塩岩では,2019年に室戸市の天然記念物に認定された冷湧水起源のシロウリガイ類化石群集が産出する(Matsumoto and Hirata, 1972;木村ほか,2015).しかし室戸三津以外の炭酸塩岩については,記載等が行われていなく,その詳細は不明である.そこで,菜生層群の炭酸塩岩について,その産状と炭酸塩鉱物の酸素及び炭素安定同位体比について検討を行った.なお菜生層群は,構造的上位の北より,日沖メランジュ,津呂アッセンブレッジ,坂本メランジュ,さらに室戸岬先端の岬アッセンブレッジに細分される(Hibbard et al., 1992).日沖メランジュ,津呂アッセンブレッジ,坂本メランジュの珪長質凝灰岩は, 22〜20 MaのジルコンU-Pb年代を示し,前期中新世の最前期(アキタニアン期)を示す(原,2022).炭酸塩岩は,産状に基づき,ノジュール状,チューブ状,層状のタイプに大別した.ノジュール状タイプは最も多く認められ,菜生層群のいずれの層準にも含まれる.レンズ状ないし俵型をなし,長径数cm〜十数cm程度の大きさである.基質となる泥岩中に,散点して含まれることが多いが,側方方向へ連続して分布することもある.チューブ状タイプは,円柱状の形態をなし,中央部に空洞を持つ.中央部の空洞は基質の泥岩が充填している.チューブ縁の直径は数cm〜十数cm,内径は数cm〜5cmである.分離・孤立して産するほか,坂本メランジュではチューブ状タイプの濃集層が認められる.層状タイプは,津呂アッセンブレッジの一箇所でよく発達し,層厚は5cm〜十数cmで,側方方向へ数10 cm以上連続する.生痕化石を伴うことを特徴とし,二枚貝化石を含む.そのほか,岬アッセンブレッジには,マール礫を含む礫岩が分布する(平ほか,1980).いずれの炭酸塩岩も,隠微晶質なマール及び粘土鉱物からなり,シルトサイズの石英や長石を含むことで特徴づけられる.また一部の炭酸塩岩には,有孔虫化石が含まれることがある.XRD分析によると,方解石のみ,もしくはカルサイトとドロマイトからなる炭酸塩岩が識別できる.
これらの炭酸塩岩について,Satish-Kumar et al. (2021)に従い新潟大学の質量分析計を用いて酸素・炭素安定同位体分析を行った.酸素同位体比δ18O V-SMOWは,14〜23‰の範囲にあり,ほぼ一定の値を示す.炭素同位体比δ13C V-PDBは,-28〜-10‰の範囲にあり, -28〜-20‰と-17〜-10‰のグループが識別される.炭素同位体比の低い前者は,海水中の溶存無機炭素の炭素同位体比より著しく低く,有機物もしくは冷湧水中のメタン起源の炭素の影響が考えられる.また後者は,海水と有機物起源の炭素の混合により説明できる可能性がある.以上から,菜生層群中の炭酸塩岩の少なくとも一部については,シロウリガイ類化石を含む炭酸塩岩と同様に,初生的にメタン冷湧水の影響を受けて形成された可能性が高い.ただし,続成作用の影響については,炭酸塩岩の産状,炭酸塩鉱物種ごとの同位体比,生物源炭酸塩の保存状態あるいは酸素同位体比に基づいて,さらに検討を行う必要がある.
文献:原,2022,日本地質学会第129年学術大会講演要旨.Hibbard et al., 1992,Island Arc, 1, 133-147. 木村ほか,2015,JpGU Meeting 2015,BPT24-02. Matsumoto and Hirata, 1972,Bull, Nat. Sci. Mus. Tokyo, 15, 753-760. Satish-Kumar et al., 2021, Sci. Rep., Niigata Univ. (Geology), 36, 21-42. 酒井,1981,九大理研報(地質),14,81-101. 平ほか,1980,四万十帯の地質学と古生物学-甲藤次郎教授還暦記念論文集,319-389.
これらの炭酸塩岩について,Satish-Kumar et al. (2021)に従い新潟大学の質量分析計を用いて酸素・炭素安定同位体分析を行った.酸素同位体比δ18O V-SMOWは,14〜23‰の範囲にあり,ほぼ一定の値を示す.炭素同位体比δ13C V-PDBは,-28〜-10‰の範囲にあり, -28〜-20‰と-17〜-10‰のグループが識別される.炭素同位体比の低い前者は,海水中の溶存無機炭素の炭素同位体比より著しく低く,有機物もしくは冷湧水中のメタン起源の炭素の影響が考えられる.また後者は,海水と有機物起源の炭素の混合により説明できる可能性がある.以上から,菜生層群中の炭酸塩岩の少なくとも一部については,シロウリガイ類化石を含む炭酸塩岩と同様に,初生的にメタン冷湧水の影響を受けて形成された可能性が高い.ただし,続成作用の影響については,炭酸塩岩の産状,炭酸塩鉱物種ごとの同位体比,生物源炭酸塩の保存状態あるいは酸素同位体比に基づいて,さらに検討を行う必要がある.
文献:原,2022,日本地質学会第129年学術大会講演要旨.Hibbard et al., 1992,Island Arc, 1, 133-147. 木村ほか,2015,JpGU Meeting 2015,BPT24-02. Matsumoto and Hirata, 1972,Bull, Nat. Sci. Mus. Tokyo, 15, 753-760. Satish-Kumar et al., 2021, Sci. Rep., Niigata Univ. (Geology), 36, 21-42. 酒井,1981,九大理研報(地質),14,81-101. 平ほか,1980,四万十帯の地質学と古生物学-甲藤次郎教授還暦記念論文集,319-389.