9:00 AM - 9:15 AM
[G2-O-1] Some unique behavior of the Yoro-Kuwana-Yokkaichi Faults and Nobi tilting block
Keywords:active fault, tilting, tectonics, Philippine sea plate, Slab
Ⅰ はじめに
養老-桑名-四日市断層帯は,琵琶湖西岸断層帯と共に近畿三角地帯で最も活動度の高い逆断層帯であり,断層沈下側に濃尾傾動地塊を伴っている.これら活構造の特異なふるまいをまとめ,その機構について考察する.
Ⅱ-1 平均変位速度の非等速性
桑名断層の完新世における活動については,多数のボーリング調査によって詳細に検討されている (たとえば須貝ほか,1998;鳴橋ほか,2004;中西ほか,2006).これらによると,桑名断層中部の完新世における平均変位速度は約9ka以降で2.3m/千年以上,6ka以降4.3m /千年である (地質調査所,1999).
一方,最終間氷期前期以降の平均変位速度は0.9~1.5m/千年であり(小松原,2021),両者は誤差範囲を超えた違いがある.また最近の2地震の発生間隔は,過去9000年間における平均活動間隔よりも有意に短い可能性が指摘されている (須貝ほか,1999).養老断層および四日市断層についても,同様に非等速的な活動を行ってきた可能性が高い (大上・須貝,2006;小松原,2021).
Ⅱ-2 断層運動の非定向性
桑名断層は,第四紀前期における活動開始以降の総変位,最終間氷期以降の変位ともに,断層西側の隆起量が東側の沈降量を下回る「沈降卓越型」の断層である.しかし,その最新活動と考えられる1586年天正地震時およびそれ以降の地殻変動は,断層西側の隆起が東側の沈降を上回る (小松原,2020).このことは,桑名断層周辺では,地震性地殻変動とは様式の異なる,沈降卓越型の非地震性地殻変動が生じていることを示唆する.すなわち,桑名断層周辺の地殻変動は,単純に定向的に累積したのではなく,地震間に断層近傍で沈降運動が生じている可能性が高いと考えられる.
Ⅱ-3 傾動地塊運動の非定向累積性
濃尾傾動運動は,西傾動を伴う沈降運動が定向累積的に進行してきたと考えられてきた (たとえば松澤, 1968).しかし,牧野内(2017) は,最終間氷期前期の熱田層下部の海成粘土層の堆積開始と終了は,ともに濃尾平野東部で早く,西部ではより遅い時代に生じたこと,および,阿多鳥浜テフラを挟有する海成粘土層(Am3)は濃尾平野西部よりも東部で厚いこと,を示している.これらは,濃尾傾動地塊運動が一様に西部で大きかったのではなかったこと,傾動が間欠的であった可能性があること,を示している(牧野内,2017).
Ⅲ 特異な変動を生み出した要因に関する考察
以上は,養老-桑名断層系と濃尾傾動地塊が非等速・非定向累積的に運動していることを示す.また,桑名断層周辺の「非地震性の沈降卓越型変動」や幅20km以上に達する濃尾傾動地塊の傾動運動は,上部地殻の弾性的変形とみなすことはできない.このような変動を生み出した要因として,牧野内(2017)が示唆するようにフィリピン海プレートの潜り込みの影響が挙げられる. 濃尾平野周辺では,同スラブの深度が急変していること(たとえば長谷川ほか,2010),および当地でスラブが断裂し,断片化した2つのスラブが重なり合っている可能性があること(たとえば山岡ほか,1994) が知られる.
ここに述べた非等速・非定向累積的地殻変動とともに,鮮新世後期~第四紀中期の知多変動から第四紀中期以降の猿投変動へ(Makinouchi,1979) の応力転換を統合的に説明することができる可能性がある(小松原, 2022).
今の段階ではスラブの形態や挙動に関する定説はないが,①上記の地殻変動には上部地殻だけでなく,より深部の運動が関与している可能性が高いこと,②この地域の断層を評価するにあたって,単純な等速定向累積的変動という第0近似が適用できるか否か検討すべきこと,の2点を指摘したいと思う.
文献
地質調査所(1991)予知連会報, 61,455-460.
長谷川ほか(2010)地学雑誌,119,190-204.
小松原 (2020)歴史地震,35,157-176.
小松原(2021)地質調査総合センター速報,82,41-47.
小松原(2022)地球惑星科学連合大会要旨,S-CG50-02. Makinouchi,T(1979)Mem. Fac. Sci. Kyoto Univ., Geol. and Mineral., 46,61-106.
牧野内(2017)名城大学理工学部研究報告,57,43-48.
松澤(1968)地質雑,74,61-71.
中西ほか(2006)月刊地球,54,194-204.
鳴橋ほか(2004)第四紀研究,43,317-330.
大上・須貝(2006)第四紀研,45,131-139.
須貝ほか(1998)地調速報,no.EQ/98/1,75-90.
須貝ほか(1999)地調速報,no. EQ/99/3,89-102.
山岡ほか(1994)地学雑誌,103,567-575.
養老-桑名-四日市断層帯は,琵琶湖西岸断層帯と共に近畿三角地帯で最も活動度の高い逆断層帯であり,断層沈下側に濃尾傾動地塊を伴っている.これら活構造の特異なふるまいをまとめ,その機構について考察する.
Ⅱ-1 平均変位速度の非等速性
桑名断層の完新世における活動については,多数のボーリング調査によって詳細に検討されている (たとえば須貝ほか,1998;鳴橋ほか,2004;中西ほか,2006).これらによると,桑名断層中部の完新世における平均変位速度は約9ka以降で2.3m/千年以上,6ka以降4.3m /千年である (地質調査所,1999).
一方,最終間氷期前期以降の平均変位速度は0.9~1.5m/千年であり(小松原,2021),両者は誤差範囲を超えた違いがある.また最近の2地震の発生間隔は,過去9000年間における平均活動間隔よりも有意に短い可能性が指摘されている (須貝ほか,1999).養老断層および四日市断層についても,同様に非等速的な活動を行ってきた可能性が高い (大上・須貝,2006;小松原,2021).
Ⅱ-2 断層運動の非定向性
桑名断層は,第四紀前期における活動開始以降の総変位,最終間氷期以降の変位ともに,断層西側の隆起量が東側の沈降量を下回る「沈降卓越型」の断層である.しかし,その最新活動と考えられる1586年天正地震時およびそれ以降の地殻変動は,断層西側の隆起が東側の沈降を上回る (小松原,2020).このことは,桑名断層周辺では,地震性地殻変動とは様式の異なる,沈降卓越型の非地震性地殻変動が生じていることを示唆する.すなわち,桑名断層周辺の地殻変動は,単純に定向的に累積したのではなく,地震間に断層近傍で沈降運動が生じている可能性が高いと考えられる.
Ⅱ-3 傾動地塊運動の非定向累積性
濃尾傾動運動は,西傾動を伴う沈降運動が定向累積的に進行してきたと考えられてきた (たとえば松澤, 1968).しかし,牧野内(2017) は,最終間氷期前期の熱田層下部の海成粘土層の堆積開始と終了は,ともに濃尾平野東部で早く,西部ではより遅い時代に生じたこと,および,阿多鳥浜テフラを挟有する海成粘土層(Am3)は濃尾平野西部よりも東部で厚いこと,を示している.これらは,濃尾傾動地塊運動が一様に西部で大きかったのではなかったこと,傾動が間欠的であった可能性があること,を示している(牧野内,2017).
Ⅲ 特異な変動を生み出した要因に関する考察
以上は,養老-桑名断層系と濃尾傾動地塊が非等速・非定向累積的に運動していることを示す.また,桑名断層周辺の「非地震性の沈降卓越型変動」や幅20km以上に達する濃尾傾動地塊の傾動運動は,上部地殻の弾性的変形とみなすことはできない.このような変動を生み出した要因として,牧野内(2017)が示唆するようにフィリピン海プレートの潜り込みの影響が挙げられる. 濃尾平野周辺では,同スラブの深度が急変していること(たとえば長谷川ほか,2010),および当地でスラブが断裂し,断片化した2つのスラブが重なり合っている可能性があること(たとえば山岡ほか,1994) が知られる.
ここに述べた非等速・非定向累積的地殻変動とともに,鮮新世後期~第四紀中期の知多変動から第四紀中期以降の猿投変動へ(Makinouchi,1979) の応力転換を統合的に説明することができる可能性がある(小松原, 2022).
今の段階ではスラブの形態や挙動に関する定説はないが,①上記の地殻変動には上部地殻だけでなく,より深部の運動が関与している可能性が高いこと,②この地域の断層を評価するにあたって,単純な等速定向累積的変動という第0近似が適用できるか否か検討すべきこと,の2点を指摘したいと思う.
文献
地質調査所(1991)予知連会報, 61,455-460.
長谷川ほか(2010)地学雑誌,119,190-204.
小松原 (2020)歴史地震,35,157-176.
小松原(2021)地質調査総合センター速報,82,41-47.
小松原(2022)地球惑星科学連合大会要旨,S-CG50-02. Makinouchi,T(1979)Mem. Fac. Sci. Kyoto Univ., Geol. and Mineral., 46,61-106.
牧野内(2017)名城大学理工学部研究報告,57,43-48.
松澤(1968)地質雑,74,61-71.
中西ほか(2006)月刊地球,54,194-204.
鳴橋ほか(2004)第四紀研究,43,317-330.
大上・須貝(2006)第四紀研,45,131-139.
須貝ほか(1998)地調速報,no.EQ/98/1,75-90.
須貝ほか(1999)地調速報,no. EQ/99/3,89-102.
山岡ほか(1994)地学雑誌,103,567-575.