10:45 AM - 11:00 AM
[G2-O-7] The genesis of Ba anomaly in pumice from the Nigorikawa volcano, southwestern Hokkaido, Japan: Identifying altered recycled pumice in caldera-forming eruption.
Keywords:Nigorikawa caldera, Recycled pumice, Alteration process, Clay minerals, Ba concentration
火山噴出物の岩石学的研究において,本質物質である軽石や溶岩の全岩化学組成を測定した結果,全体の組成変化傾向から外れて,比較的SiO2に乏しくBaに富む試料が認められる事例が報告されている(例えば,沼沢火山: 増渕・石崎, 2011; Bachelor火山: Bachmann et al., 2014).Baは,イオン半径が大きく,多くの造岩鉱物に対して分配されにくい一方で,珪酸塩メルトや超臨界・液体のH2Oなどの流体に分配されやすいことから,岩石学的・地球化学的研究において重要な元素である.高Ba異常の起源を深部マグマ生成過程に求める議論がある一方で,火山噴出物の風化・熱水変質の影響であるとする報告例も存在する(例えば,Fodor et al., 1987).その為,高Ba異常を示す試料を扱う際には,それがマグマの特性に由来するのか,二次的なものかを注意深く評価することが重要である.こうした評価には,変質によるBaの濃集プロセスの理解が必要不可欠だが,肉眼や記載岩石学的手法による評価が難しいことから不明点が多い(Price et al., 1991).本発表では,北海道南西部の濁川火山で14-16 cal kaに発生したカルデラ形成噴火(以下,濁川カルデラ噴火)を対象に,本質物質である軽石の岩石記載や局所化学組成分析(SEM-EDS・EMPA),XRD分析を実施し,高Ba異常の成因とその意義を議論する.
濁川カルデラ噴火の堆積物中に含まれる軽石は,色調や発泡度の違いから白色軽石と灰色軽石,それらが不均質に混ざりあった縞状軽石に分けられる.このうち,灰色軽石は,Baに富む灰色軽石(高Ba灰色軽石)とBaに乏しい灰色軽石(低Ba灰色軽石)に細分できる(金田・長谷川, 2022).高Ba灰色軽石と低Ba灰色軽石は,両者とも類似した記載岩石学的特徴を持つ.いずれも斑晶鉱物として,多い順に斜長石,角閃石,直方輝石,不透明鉱物,単斜輝石,石英を含み,それらの多くは斑晶量10-15 vol.%である.両者の石基部は共通してハイアロオフティック組織を示す.火山ガラスのSiO2量は,高Ba灰色軽石で59-78 wt.%,低Ba灰色軽石で60-79 wt.%であり,その他の元素に関しても類似の化学組成を示す.一方で,高Ba灰色軽石にのみ,石基組織の気泡部分を充填する1 µm以下の細粒物の集合体(以下,細粒充填物)が認められた.細粒充填物は,主に主にSiO2(49-69 wt.%)とAl2O3(23-40 wt.%)からなり,FeOを3-10 wt.%,BaOを2,100-10,245 ppm含む.また,粉砕した灰色軽石の石基部のXRD分析結果からは,高Ba灰色軽石には,12°, 20°および62°(2θ)のカオリナイトのピークに加え,20°(2θ)付近に非晶質鉱物の存在を示唆するようなブロードな反射が認められた.
高Ba灰色軽石と低Ba灰色軽石は共通した斑晶鉱物組合せや火山ガラス組成を有する一方で,高Ba灰色軽石にのみ石基の気泡部分に細粒充填物が認められた.細粒充填物は,化学組成およびX線回折パターンから,鉄アロフェンおよびカオリナイトなどの変質物質であると考えられる.高Ba灰色軽石の全岩化学組成は,SiO2組成変化図上で,低Ba灰色軽石と細粒充填物の中間にプロットされ,低Ba灰色軽石に細粒充填物を数%付加することで説明可能である.以上のことから,濁川カルデラ噴火の灰色軽石に認められる高Ba異常の原因は,細粒充填物,すなわち変質作用によるものであると考えられる.高Ba灰色軽石は,変質作用を被っていない軽石(白色軽石や低Ba灰色軽石)と同一露頭かつ同一層準内で共存することから,高Ba灰色軽石は,濁川カルデラ噴火堆積物として,各地点に堆積する前に形成されていたと考えられる.濁川火山では,本噴火以前に軽石を生成・放出するような火砕噴火が認められないこと(金田・長谷川, 2022)や細粒充填物を包有する火山ガラスが新鮮であることなどから,高Ba灰色軽石を生成した熱水変質作用は,本質物質(軽石)が火口内でリサイクルされるような,一連の噴火期間の内の短い時間プロセスで進行したと考えられる.このような,一連の噴火期間中における変質は,他の噴火事例においても普遍的に発生している可能性があり,これまで報告されてきたBa異常をはじめとする特異な化学組成を持つ噴出物の成因を議論・再検討する上で重要な鍵となり得る.
<引用文献>増渕・石崎 (2011) 地学雑; Bachmann et al. (2014) Contrib. Mineral. Petrol.; Fodor et al., (1987) JVGR; Price et al., (1991) Chem. Geol.; 金田・長谷川 (2022) 火山.
濁川カルデラ噴火の堆積物中に含まれる軽石は,色調や発泡度の違いから白色軽石と灰色軽石,それらが不均質に混ざりあった縞状軽石に分けられる.このうち,灰色軽石は,Baに富む灰色軽石(高Ba灰色軽石)とBaに乏しい灰色軽石(低Ba灰色軽石)に細分できる(金田・長谷川, 2022).高Ba灰色軽石と低Ba灰色軽石は,両者とも類似した記載岩石学的特徴を持つ.いずれも斑晶鉱物として,多い順に斜長石,角閃石,直方輝石,不透明鉱物,単斜輝石,石英を含み,それらの多くは斑晶量10-15 vol.%である.両者の石基部は共通してハイアロオフティック組織を示す.火山ガラスのSiO2量は,高Ba灰色軽石で59-78 wt.%,低Ba灰色軽石で60-79 wt.%であり,その他の元素に関しても類似の化学組成を示す.一方で,高Ba灰色軽石にのみ,石基組織の気泡部分を充填する1 µm以下の細粒物の集合体(以下,細粒充填物)が認められた.細粒充填物は,主に主にSiO2(49-69 wt.%)とAl2O3(23-40 wt.%)からなり,FeOを3-10 wt.%,BaOを2,100-10,245 ppm含む.また,粉砕した灰色軽石の石基部のXRD分析結果からは,高Ba灰色軽石には,12°, 20°および62°(2θ)のカオリナイトのピークに加え,20°(2θ)付近に非晶質鉱物の存在を示唆するようなブロードな反射が認められた.
高Ba灰色軽石と低Ba灰色軽石は共通した斑晶鉱物組合せや火山ガラス組成を有する一方で,高Ba灰色軽石にのみ石基の気泡部分に細粒充填物が認められた.細粒充填物は,化学組成およびX線回折パターンから,鉄アロフェンおよびカオリナイトなどの変質物質であると考えられる.高Ba灰色軽石の全岩化学組成は,SiO2組成変化図上で,低Ba灰色軽石と細粒充填物の中間にプロットされ,低Ba灰色軽石に細粒充填物を数%付加することで説明可能である.以上のことから,濁川カルデラ噴火の灰色軽石に認められる高Ba異常の原因は,細粒充填物,すなわち変質作用によるものであると考えられる.高Ba灰色軽石は,変質作用を被っていない軽石(白色軽石や低Ba灰色軽石)と同一露頭かつ同一層準内で共存することから,高Ba灰色軽石は,濁川カルデラ噴火堆積物として,各地点に堆積する前に形成されていたと考えられる.濁川火山では,本噴火以前に軽石を生成・放出するような火砕噴火が認められないこと(金田・長谷川, 2022)や細粒充填物を包有する火山ガラスが新鮮であることなどから,高Ba灰色軽石を生成した熱水変質作用は,本質物質(軽石)が火口内でリサイクルされるような,一連の噴火期間の内の短い時間プロセスで進行したと考えられる.このような,一連の噴火期間中における変質は,他の噴火事例においても普遍的に発生している可能性があり,これまで報告されてきたBa異常をはじめとする特異な化学組成を持つ噴出物の成因を議論・再検討する上で重要な鍵となり得る.
<引用文献>増渕・石崎 (2011) 地学雑; Bachmann et al. (2014) Contrib. Mineral. Petrol.; Fodor et al., (1987) JVGR; Price et al., (1991) Chem. Geol.; 金田・長谷川 (2022) 火山.