日本地質学会第130年学術大会

講演情報

セッション口頭発表

G-3.ジェネラル サブセッション応用地質・古生物

[2oral612-19] G-3.ジェネラル サブセッション応用地質・古生物

2023年9月18日(月) 15:00 〜 17:15 口頭第6会場 (共北37:吉田南総合館北棟)

座長:山崎 新太郎(京都大学防災研究所)、西山 賢一(徳島大学大学院社会産業理工学研究部)、加瀬 善洋(北海道立総合研究機構)

15:00 〜 15:15

[G3-O-1] 砂岩の変形と風化がもたらした深層崩壊の集中的発生場

*山崎 新太郎1 (1. 京都大学防災研究所)

キーワード:深層崩壊、付加体、砂岩、四万十帯、降雨地すべり

<はじめに>
 2018年7月に発生した豪雨によって愛媛県宇和島市吉田町,西予市明浜町にまたがる法華津湾周辺では幅南北4 km,東西 4 kmの領域に22カ所の崩壊深2 mを超える深層崩壊が発生した.ここでの,深層崩壊は概ね崩壊深2 m以上の斜面内部の地質構造に原因のある急速な斜面の移動である.筆者は豪雨イベントがもたらした降雨量の分布と崩壊の発生場の関係を分析したところ必ずしも降雨分布と深層崩壊の分布が一致せず,また崩壊後に露出した地質には共通性があった.本発表では,以上について筆者の調査した結果と考察を発表する.

<降雨の概要>
 2018年6月28日からの平成30年7月豪雨は,特に7月7日0時頃から早朝8時にかけて愛媛県西予市宇和町および宇和島市付近で降雨のピークを迎えた.法華津湾周辺の深層崩壊の多くは7日7時ごろ多発したとされる.このとき,法華津湾から至近の宇和観測点では時間雨量20 mm以上の雨を6時間連続で記録している.気象庁の解析雨量データでは,法華津湾周辺では7月5日~7日に400 mm以上の降雨があり,さらにピーク時を含む7日0時~12時までで230 mm~260 mmの降雨がもたらされている.しかし,解析結果では同量以上の雨量の範囲が法華津湾周辺のさらに内陸部の東方と,湾の南方・北方にも広がっていた.

<地質>
 筆者による調査では崩壊地や周辺に露頭に認められた岩相は砂岩が大部分で,一部泥岩があった.地層は概ね西-東走向で60度以上の急な北傾斜となっている場合が多い.法華津湾周辺の地質は産業総合技術研究所のシームレス地質図v2によれば「海成層砂岩 前期白亜紀後期-後期白亜紀前期付加体」,20万分の1地質図「宇和島」(1988)では,前期白亜紀の下部四万十層群に属する頁岩を伴う砂岩となっている.筆者が実施した法華津湾周辺の未風化露頭の調査では,砂岩が泥岩中にブーディンを形成して取り込まれている破断層や数メートル以上の層厚の砂岩がせん断によりブーディンを形成しながら分離し,さらに覆瓦状構造をしている状況が観察された.さらに泥岩には鱗片状劈開が観察された.これらの特徴から崩壊の多くはメランジュ地域内で発生したものと考えられる.

<崩壊地の地質>
 深層崩壊地22カ所を調査したところ,12カ所で急傾斜の断層面がすべり面または分離面となっている状況を発見した.それ以外の崩壊地に関しても,断層破砕によって角礫化した領域が崩壊したと考えられる状況もあり,断層が岩盤中の不連続面や強度低下に関係していることが示唆された.認められた断層面には白色または暗灰色ガラス状の物質が付着していることが頻繁に認められ,さらに,砂岩中に複数の曲面がある断層面が形成され,波長数メートル以上の湾曲した葉状構造が発達しているものもあった.  崩壊地はいずれも黄色から褐色に風化しており,なおかつ深層風化の状況にある.筆者は2018年の災害以降継続的に法華津湾周辺の調査を進めているが,工事などによって,崩壊地を含む地域では大規模な切土による造成が進んでいる.その状況を観察すると場所によっては50 m以上の深度まで風化が進行していた.さらにシュミットロックハンマーによる計測によって法華津湾周辺の露頭は,内陸の露頭に比べて明らかに強度が低下していたことも判明した.